べたべたさせたい!
でもふたりに買い物をさせていると、中々その機会には恵まれませんね。
次回こそは、と思いを新たにしつつ、本日の更新分です。
拍手、コメ有難うございます。ここ数日は多忙の為、返信は週末にさせていただきたく思います。申し訳ありません。では早速ですが、本文へどうぞ!
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<White Christmas.>
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今年のクリスマス休暇をクリスマスの一週間前から取っていたマサキにとって、昨日はその初日だった。先ずは四泊五日の英国《イギリス》旅行で、今年のクリスマスに必要なアイテムを買い揃えようという算段だ。とはいえ、英国《イギリス》旅行以外には特に予定のないクリスマス休暇。イブからニューイヤーまで、マサキはシュウとふたりでいつも通りにシュウの家で過ごすつもりでいる。
何だといいつつ例年通りのクリスマスになる予定だが、それはマサキが折角のクリスマスマーケットをただ見るだけで終わりにしたくないと云ったからだった。どうせなら買い求めたオーナメントで部屋を飾りたい。そしてその部屋でクリスマスを過ごしたい。シュウとしてはクリスマスを旅先で過ごすのも悪くないと考えていたようでもあったが、さりとてマサキの意見を無下に却下するのもと考えたのだろう。マサキとしては人出の多い街中で迎えるクリスマスには少なからず抵抗があったものだから、シュウが強く自分の意見を推してこなかったのは幸いだった。
きっと幼少期に自宅で家族とともに過ごしたクリスマスの記憶が根強く残っているからなのだ。
仲間とのパーティといい、シュウとのクリスマスディナーといい、マサキが望むクリスマスは家で過ごすものばかりだ。
それでも、シュウの家で静かに過ごすクリスマスの魅力は格段のものだ。誰に邪魔されることもない。突然の任務に踊らされることもない。穏やかに過ぎてゆく愛しい人とのクリスマス。そう、マサキは任務に励んで勝ち取ったクリスマス休暇を、出来るだけシュウとふたりきりで過ごすことに使いたかったのだ。
特に今年はリューネとの問題もあって、シュウと会っても気もそぞろなことが多かった。だからこそ、シュウが「せめてこのクリスマスシーズンの間くらいは」と口にした通り、マサキもこの時期の間はそういったネガティブな感情から解放されたかった。
―――しかし、世の中っていうのは上手く回らないように出来ていやがる。
昨晩、パブに入って一度は消えた気配は、朝食を済ませてホテルを出た後《のち》、ハイド・パークに入る辺りから復活していた。
当然と云うべきか。いよいよクリスマスが近くなった移動遊園地の人出は、チケット制でありながらもかなりのもので、マサキは未だ気配の主たちを特定出来ていない。
焦る気持ちはあれど、焦った結果功を焦ってはそれこそ相手の思う壺。
移動遊園地ウィンターワンダーランドのチケットは今日、明日の二日分。初日をクリスマスマーケットとサーカスに、二日目をアイスリンクと遊園地に使うつもりだ。アトラクションを味わいつくした後はロンドン観光。二日間で見られるものには限りがあったが、今回の旅行の目的はキリスト教圏のクリスマスの雰囲気を味わうことにある。本格的な観光は来年の温泉旅行に取っておけばいい。
今日も含めて残り四日。それだけあれば、気配の主たちも何処かで襤褸を出すことだろう。英国《イギリス》に着いてから彼らが気配を露わにしたということは、そういうことである。恐らく彼らは地上世界で決着を付けたいのだ。ならばそれを迎え撃つまで。マサキは小屋に並んでいるクリスマス雑貨を眺めた。
色取り取りの靴下や帽子、手袋。シュウが店主と話したところによると、ここは手編みの防寒グッズを扱っている店らしい。成程、とマサキは納得した。既製品にしてはそこそこの値段。その法外な値段も手編みと聞けば納得がいく。
勿論、クリスマスマーケットに軒を連ねているのだ。それらのアイテムには、サンタクロースやトナカイ、スター、キャンディスティックといったクリスマスにちなんだ模様が編み込まれている。大人はさておき、子どもたちはさぞ喜ぶことだろう。そんなことを考えたマサキの脳裏にプレシアの姿が浮かぶ。
「最近、プレシアがこういった大きな模様の入った靴下を買い集めててさ。何でも、若い女の子たちの間で流行ってるらしいんだってさ。足の甲の部分にでっかく模様が入ってるのが可愛いらしい。どうせ靴を履けば一緒だろって思うんだけどな」
「表に出すばかりがファッションではありませんからね。しかしそういうことであれば、これをプレシアへのお土産にしては如何です。お金は私が出しますよ」
「こういうのでもいいのかね。あの年代の女たちが可愛いっていう模様の基準が俺にはイマイチわからないんだよなあ。へのへのもへじみたいな顔したキャラクターとか、ゾンビを叩き潰したみたいなでろでろなキャラクターとか……あいつが集めている靴下の模様を見てると、俺の美的感覚がどうにかなったのかって思っちまう」
「少女たちは思いがけないものに可愛さを見出す生き物ですよ。男とは根本的に感性が異なるのでしょうね。その視野の広さは見習うべきだと私は思いますが」
「あれを見習うねえ……」
マサキはクリスマスカラーの靴下を一足、手に取ってみた。人の手からなる商品とは思えないほどにきっちりと編み込まれた厚手の靴下。手触りからして履き心地は良さそうだ。しかし、温暖な気候が常なラングラン。この厚みでは暑さが先に立つだろう。可愛いんだけどなあ。マサキは呟きながら、次から次へと商品を覗き込んだ。
薄手な生地の靴下があれば、プレシアへの土産としてもよかったが、クリスマスシーズンの英国《イギリス》で売られている靴下は、実用性を兼ねているからこそどれも厚みはかなりのものだった。悩ましい。喜ぶプレシアの顔を見たいからこその葛藤。暫く悩み続けていると、見兼ねたのか。シュウが横から口を挟んできた。
「どうせ毎年、クリスマスシーズンにはパーティを開いているのでしょう。その日に彼女が身に付けるアイテムとして購入しては如何ですか。こういったイベントは雰囲気も大事ですからね」
「しかし、あいつにサンタクロースだのトナカイだのが理解出来るかね。普通に考えたら、子どもにプレゼントを配って歩くおっさんなんて不審者でしかないだろ」
「夢も希望もないことを云いますね」
苦笑したシュウが、これなどはどうです? とサンタクロースの顔が編み込まれた靴下を取り上げる。
どちらかといえばリアル志向の顔立ち。愛嬌のある顔をしているサンタグッズは他に幾らでもあるものを、わざわざこれを取り上げるのかと思わずにいられない表情をしている。マサキはその表情をしげしげと眺めた。人を小馬鹿にしたような眼差しがどうしようもなく憎たらしく映るサンタクロース。子どもなどは泣いて嫌がるのではないだろうか。
でも、とマサキは顔を顰《しか》めながらも口にした。
「確かにあいつ、こういうのこそ好きそうだよ」
「モニカもなのですよ。市井に影響されたのでしょうね。近頃、こういった雰囲気の図柄があしらわれたグッズを、せっせと買い集めるようになってしまって」
可憐な元王女が好むにはシュールな絵柄に、女の考えはわからねえ。繰り返しそう口にしながらも、結局、マサキはシュウに勧められたその靴下を、他の無難な図柄の靴下数足とともにプレシアへの土産とすることにした。
「最初の店からこれだけ時間を使って大丈夫かね。100店舗以上あるんだろ」
「目に付いた場所を回るだけで充分ですよ。夜にはサーカス見物もありますし」
会計を済ませたマサキは、紙袋に包まれた靴下を用意してきたバッグに収め、午前中から賑わいを見せているクリスマスマーケットの通りを先に歩き始めた。クリスマスも目前とあって、人出は相当なものだ。皆、クリスマスの準備に忙しいのだろう。あれもこれもと買い求める人の群れ。その人垣を掻き分けながら店を覗いて歩く。
クリスマスマーケットを謳うだけあって、クリスマスオーナメントを扱っている店が多い。しかしそこはやはりキリスト教圏。スターやヒイラギ、ボールにキャンディスティックといった通り一遍のオーナメントに留まらず、天子像や受胎告知のシーンなどといったマサキには馴染みの薄い形状のオーナメントも並んでいるのだから驚きだ。こういうのも飾るんだな。マサキが云えば、そのようですね。シュウは興味深げに、それらのオーナメントを手に取った。
幅広い素材。木製にガラス製、藁製、プラスチック製もあれば錫製もあり、素朴な味わいを感じさせる飾り付けから高級感溢れる飾り付けまで、思うがままにデコレーション出来そうだ。
中でもマサキの目を引いたのがレース製のオーナメントだ。細かく模様を編み出したオーナメントは、色合いこそ白一色だったりとシンプルなものの、その繊細さは他のオーナメントの比ではない。スター、ベル、雪の結晶……こういうのをツリーに飾るのもいいな。そうマサキが云えば、他のオーナメントと組み合わせれば、より繊細さが際立つでしょうね。ガラス製のオーナメントに心を惹かれているらしいシュウが云った。
いずれにせよ、どれも工芸品としてのレベルが高いものばかり。気の多いマサキとしては目移りして仕方がないものだったが、全部見てから買っても遅くはないでしょうというシュウの言葉に甘えることにして、他のアイテムにも目を向けることにした。クリスマスキャンドル、キャンドルホルダー、クリスマスリースといった日本でも定番のアイテムから、キリストの降誕の情景を表す降誕グッズたるクリブやくるみ割り人形、シナモンやクローブといったスパイスで作られたデコレーション、スパイスゲビンデ。食卓を彩るランチョンマットにナプキン、皿、アドベントカレンダーもあればスノードームもある。
「これだけ種類があると全部揃えたくなるな」
「部屋を華やかにするアイテムはどれだけあっても構いませんし、好きに選んでくださって結構ですよ」
「お前が全額出すみたいな云い方をしてるけれど、俺もちゃんと出すからな。そもそもあのホテル、幾ら宿泊料がかかってるんだよ。俺、適当に頷いちまったけど、とんでもないホテルじゃねえかよ」
それにシュウは微笑んでみせただけだった。
「後で領収書見せろよ。絶対払うからな」
「こういった時ぐらい奢らせてくれてもいいでしょう。私としては、あなたに幾らお金をかけても惜しくないのですから」
それはマサキとて同じ気持ちなのだ。
けれどもマサキ以上の頑固さをみせることがあるシュウは、絶対にマサキにホテルの領収書を見せることはないだろう。昨晩のパブにしてもそうだ。マサキ以上に酔っていたにも関わらず、会計を持つことだけは忘れていなかった。きっと今日のクリスマスマーケットの出費もそうなるに違いない。加えて、予約制だった入場チケットやサーカスといったアトラクションのチケットも、建て替えると云いながらシュウが全て支払ってしまっている。
あれもこれもと次々と支払いを続ける男の豪気さに、困ったもんだとマサキは密かに溜息を洩らしつつ、言い争っている暇もなし。仕方なしに次の屋台《シャーレ》に並べられている商品に目を向けた。
ない品を探した方が早いぐらいの品揃え。クリスマスマーケットの本場はドイツらしいが、だとしたら向こうではどれだけの規模のマーケットが開かれるのだろう。マサキは卓上用のガラス製のクリスマスツリーを覗き込んだ。透明度を殺さないように施されている彩色の妙。どれもこれも輝けるクリスマスを彩るのに相応しい商品だ。
「次はあそこの店を見てみようぜ。布商品を扱ってるって珍しいだろ」
「クリスマス図柄のトートバックやランチョンマットがあるようですね。どれも細かい刺繍のようです。是非、近くに寄って見てみましょう」
ひとつ店を後にしては、次の店へ。マサキはシュウを引き連れて次々と屋台《シャーレ》に飛び込んで行っては、そこに並べられている商品の中からより優れた品を選んで行った。そしてこれまでの店に並んでいた商品を思い浮かべながら、実際にどれを購入するかを、常に自らの斜め後ろに控えているシュウと話し合った。
「オーナメントは幾つあってもいいよな。ツリーを飾る以外にも使えるみたいだし」
「そうですね。ひと通りの素材を揃えてみても面白いかも知れませんね。どれも細かい細工がなされているものばかりですし」
「ランチマットもいいな。ああいうのがあると、よりクリスマスらしさが増す気がする」
「思ったより明瞭《はっき》りとしたクリスマス模様が多かったですし、後でもう一度見てみましょうか」
あっという間に過ぎていく時間。楽しい時間が過ぎるのは退屈な時間の数倍で過ぎてゆくとはいうが、瞬く間に過ぎていった時間。それだけマサキの心は弾んでいた。何を見ても愉しくて仕方がない。
決してマサキはキリスト教徒ではなかったし、かといってシュウのように精霊に敬虔な信仰を捧げるまでには至っていなかったけれども、浮かれ騒ぐ人々の中にいると、彼らがどうクリスマスを過ごそうとしているかが、些細な心の動きとともに伝わってきたものだ。
きっと、彼らにとってクリスマスとは童心に帰るイベントなのだ。
気付けば今年一年の憂いは消え去り、来るクリスマスに対する期待感に満ち満ちていた。こういう気持ちで今年のクリスマスを迎える為に、自分は仲間にシュウとの関係を打ち明ける決心をしたのだ……屋台《シャーレ》のひとつで振舞われている|グリューワイン《マルドワイン》とホットドッグを片手に、シュウと午後の予定を話し合ったマサキは、自らの選択が間違いではなかったことを実感していた。
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