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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

2022X'mas「White Christmas.(9)」
実はちょこちょこ過去の投稿分の文章の細かいところを直していたりするのですが、それを逐一報告するのも何なので、特にこちらから「ここを直しました」的なことは云わないでおこうと思います。
話の筋自体は変わりませんので、読み返した時にでも「あ、ここ変わってる」と感じていただければ。

Twitterで残り20000字で何とかすると云ったのですが……あー……終わらなさそうな気配がひしひしと……ホントこんな長い話にお付き合いくださり有難うございます。

では早速本文へどうぞ!
<White Christmas.>

 ―――休暇が終わったらリューネともう一度、話をしよう。
 ここまでリューネとの関係が拗れてしまったのは、マサキ自身の心の在り方に問題があったからだ。
 彼女の怒りや悲しみ、苦しみは尤もである。
 リューネの反応を目の当たりにしたマサキは、そう考えたからこそ、彼女の態度を当然のものとして受け入れてしまった。それが結果、彼女とのぎくしゃくとした関係を修復せずとも構わないといった今のマサキの態度を築き上げてしまった。けれどもマサキにはマサキの希《ねが》いがあったではないか。クリスマスシーズンに仲間たちが開くパーティに、シュウとともに胸を張って参加するという目標が!
 シュウとマサキの関係を知ったリューネは、それでもマサキたちの仲間でいることを選んだ。それは彼女がこの先も地底世界で生きていく決心をしているということだろう。そうである以上、仲間たちが開くパーティの席に、彼女が顔を並べるのは必然である。
 果たしてそこに、今の状態でマサキはシュウを連れて行けたものか。そう、マサキがマサキの希《のぞ》みを叶える為には、彼女に自分たちの関係を認めてもらうのが必須の条件なのだ。
 ふと隣を見上げれば肩を並べて歩くシュウの姿がある。マサキにとっては日常となった世界。その重要性をどう言葉にすれば彼女に伝えられるのか、マサキにはわからない。語ることが苦手なマサキにとって、自らが言葉を尽くして相手に理解を求めるのは、かなりの苦痛を伴う行為だ。それは言葉で表せなくなると怒ることに逃げてしまう態度からも明らかだった。
 しかし他にどうやれば彼女の理解が得られたものか。
 時が解決してくれるなどといった解決策は、根本的な解決にはならない。何故ならそれは彼女の都合によってなされる彼女の解釈なりの自己満足な世界の構築でしかないからだ。だからこそ、マサキはマサキ自身の考えをリューネに理解して欲しかったし、その上でシュウとの関係を認めて欲しかった。
 マサキは決意を新たにした。
 欲張りだと思う。都合がいい世界を望んでいるとも思う。自然によって生かされている人間は、その恵みに気付かぬまま、精神の成熟の名の許に数多の間違いを犯し続けてきた。シュウとマサキの関係もそのひとつ。男女が子を成すことで続いていく世界に生きている以上、シュウとマサキの関係は自然の摂理に背いたものだ。そこに進んで足を踏みいれておきながら、祝福を得ようとしている自らの欲深さ。何様のつもりだと、マサキ自身思わないこともない。
 けれども希《のぞ》みを形にする為の努力をせずして、何の為の理想であるのか。実行を伴わない願望はただの妄想でしかない。マサキは長かった戦いの道程を振り返った。これだけの期間をマサキが地底世界で戦い続けられたのは、叶えたかった夢があったからだ。
 テロの起こらない平和な世界を築きたい。
 世界平和といった大きな夢をマサキが希《ねが》うだけでなく、実現の為に行動し続けていられるのは、偶々手に入れた魔装機神サイバスターという力があったからこそだったが、だからこそ生死にかかわる過酷な戦いに身を投じることをその操者たるマサキは義務付けられているのだ。それと比べればリューネの理解を得ることは、どれだけささやかな目標であることだろう! 誰の血も流れない希《のぞ》みは、世界平和よりも気軽なものであるだろうに!
「どうしました、マサキ。何か気掛かりなことでも?」
「いや。お前がいる世界がいいって、思ってただけだ」
 そう、と微笑んだシュウがマサキを次の屋台《シャーレ》へと導いてゆく。彼はマサキの物思いに気付いているのだろう。新たに眺めるクリスマスグッズをあれにしようこれにしようと語りかけてきながら、マサキの様子を窺うように顔を覗き込んでくる。彼を裏切るような真似だけは決してすまい。何にも代えがたい存在を得てから三年目となったマサキは、今見ても見惚れずにいられないその容姿に瞳を細めた。
「ホント、お前っていい男だよな」
「嬉しいことを云ってくれる」
 切れ長の眦に、紫水晶《アメジスト》の瞳。筋の通った鼻梁、薄くも彫りの深い口唇などは、まるで出来のいい彫刻のようだ。
「もしかすると今日の夜辺り、雪が降るかも知れませんね」
「おかしいな。俺、結構ちゃんとお前に気持ちを伝えてきたつもりだったんだけど」
 彼が彼たる所以である優雅な所作を支える脚に、すらっと伸びた長躯。マサキも決して背は低くなかったものの、だからこそ自らを預けるに相応しいその体躯が有難かった。
「冗談を真に受けないでくれますか、マサキ」
「わかってるよ、シュウ」
 そして、時にマサキを苛み、時にマサキを慈しむ滑らかな手。それに加えて、頬を預けていると穏やかな気持ちになれる胸板と、昼と夜とで表情を変える身体のパーツに至っては、見ているだけで胸が疼いてどうしようもなくなったものだ。
「アクセサリーなんかも多いんだな」
「そうですね。クリスマスに関係のない意匠《デザイン》のものも多いのは、恋人や家族へのプレゼントに、最もポピュラーなものだからでしょうか」
 何もかもが愛しいからこそ、何をおいても占有したい。
 華美にならない程度にひっそりと。シュウの袖から覗く三連リングのブレスレット。昨年のマサキからのプレゼントを、こうして会う度に手首に嵌めてくれるシュウの優しさが、単純にマサキは嬉しかった。嗚呼、やっぱり良く似合っている。輝けるリングはマサキが彼を所有した証だ。
「何か欲しいものはありますか。昨年は靴を買いましたが」
「あの指輪がいいな。丁度ふたつ同じ意匠《デザイン》のものがある。ああ、でもお前の指に嵌めるんだったら、あっちの方がいいかな。ほら、そこの……ジルコニアか? が嵌まってる指輪。上品な感じがするし」
「意匠《デザイン》としてはこちらの方が好みですね。けれど、マサキ。あなたは最初の方の指輪を気に入っているのでしょう。ついでですから、どちらも買い求めることにしませんか? サイズが合えば、ですが」
 屋台《シャーレ》が建ち並ぶクリスマスマーケットのメインストリートをそぞろ歩きながら、そうしてサーカスの開演の時間までシュウとクリスマスの買い出しに精を出す。こうして一年、また一年と、その先にある未来を現実のものとする為に、思い出を形にしながら時間を積み重ねてゆくのだ。彼の指と自分の指を繋ぐように飾られたふたつの指輪に、マサキは彼との新たな時間の始まりを感じずにいられなかった。

 ※ ※ ※

 ロンドンでも人気のサーカス団シルク・ベルセルクの最終公演を鑑賞してから、クリスマスマーケットの戦利品たる荷物を山ほど抱えてホテルに戻った昨夜《ゆうべ》。半日近く歩き詰めだった疲れもあって、マサキはシャワーを浴びてベッドに潜り込むなり眠りに就いてしまった。恐らくはシュウもそうだったのではないだろうか? パブで種々様々な酒を口にした結果、あまり品の良くない目覚め方をしていた昨日の朝と違って、今日のシュウはすっかり身支度を終えた状態で、マサキの目覚めを待っていた。
 彼とともにホテルのファインダイニングで、英国《イギリス》流のブレックファーストを取った後は、そのままホテルを出てハイド・パークへと。道路ひとつ挟んだ先にある移動遊園地は、今日も人の群れが通りにまで溢れ出るほどの盛況ぶりだ。
 四つあるゲートの内、ブルーゲートと名付けられた南端のゲートから入場する。直ぐ目の前に広がっているスケートリンク。殆どの客がクリスマスマーケットや遊園地に流れていっているからか、リンクには人がまばらに滑っているのみ。これなら気持ち良く滑れそうだ。マサキはシュウの袖を引きながらリンクに向かった。
 荷物を預け、スケート靴を履く。
 剣技を嗜むが故に身体を鍛えることはしているものの、シュウはこうした娯楽的なスポーツとは縁遠かった。ボウリング、スカッシュ、カート……一緒にとマサキが誘っても、外で見ているばかり。そんな彼がどういった風の吹き回しか。どうやら珍しくもマサキとともにスケートリンクに立つつもりでいるようだ。慣れた手付きでスケート靴を履き始めた彼に、あれ、と思いながら、滑れるのかよ? 念の為とマサキが尋ねてみれば、まさか。との返事。
「ラングランでは湖に氷が張ること自体がそうそうないですからね。とはいえ、人が考えた娯楽。遣り方さえ覚えれば誰でも出来るように出来ているものですよ」
「不安しか起きないような理屈を捏ねるなよ。そもそもお前、そう云うからには滑り方を知ってるんだろうな」
「右足と左足を交互に動かしていれば前には進むでしょう」
「進まねえよ。氷上だぞ」
 本格的なリンクには及ばないものの、周回を重ねるのには充分な広さ。ほら、と先にリンクに下りたマサキはシュウに手を差し出した。子どもではないのですがね。云いながらも確りと掴んでくるシュウにゆっくりとリンクに下りてくるように告げて、マサキは周囲を見渡した。気の所為か、強い視線を感じたような気がする。それも恐らくは例の気配と同種のものを。
 けれどもやはり、と云うべきか。彼らは簡単に尻尾を掴ませるような真似はしてこないようで、それらしい人物は発見出来ぬまま。マサキ――と、名前を呼ばれたマサキはそろりとリンクに下りてきたシュウに向き直った。
「つま先を開くんだよ。逆ハの字で立つんだ」
 既に足元からして危ういシュウに基本的なスケーティングの姿勢を教え、前に進むことを覚えさせる。手を引きながらゆっくりとリンクを一周。最初こそ足元が覚束ない様子のシュウだったが、そこはやはり元々の身体的能力にも優れているだけはある。彼は十分もしない内にマサキが手を離しても前に進めるようになり、更にもう少しも時間が経過する頃には、自ら進行方向を決めて前に進めるまでになっていた。
「氷の上を滑るだけとはいえ、思い通りの方向に進めるようになると愉しいものですね。足の裏に伝わってくる氷の感触がまた面白い。エッジの上に乗っている筈なのに、氷の表情が伝わってくる。今までする機会に恵まれなかったのが勿体ないくらいですよ」
 ふたりで話をしながらリンクを数周。ひとりで滑れるようになったことで面白くなってきたようだ。饒舌に語り始めたシュウに、そろそろ大丈夫だと感じたマサキは、スピードを上げてリンクを回ってみることにした。
 初心者相手に酷いことをする。そう云いながらも置いて行かれるのは嫌なようだ。負けず嫌いの血が騒ぐのだろう。後を付いてくるシュウに、マサキは再び手を差し伸べた。手を引きながらスピードを上げて、更にリンクを数周。人が滑っているのを見てると滑りたくなるものなのか。見物客がちらほらとリンクに入ってくる。その合間を縫うようにして、マサキはシュウとともに滑り続けた。
 途中でシュウがマサキを巻き込んで転んだりするアクシデントもあったものの、彼としては充分に満足出来るアイスリンクデビューだったようだ。一時間程スケートを愉しんだ辺りで、私はもういいですよ、とシュウがリンクを上がる。大分人が増えたスケートリンク。マサキはそこから少しだけ自分の思うがままの滑りを愉しんで、スケートを終えることにした。
「しかし慣れた滑りですね。スケートをやっていたことがある?」
「いや。友達と滑りに行ったぐらいだぜ。お前の台詞じゃねえけど、遣り方を覚えてコツを掴めば簡単なもんだろ、スポーツって」
「あなたは身体を動かす才能に恵まれているのでしょうね。流石は魔装機神の操者だ」
 その感想にマサキは肩をそびやかしてみせた。
 スポーツが格段好きという訳ではなかったものの、体育の授業などで手を付けることになった競技は、どれもそれなりの形になったものだった。スケートもそうだったし、トラック競技もそう。球技に格闘技、水泳……自らの能力がダイレクトに反映される個人種目には滅法強く、幾つものトロフィーを得てきたマサキだったけれども、集団で挑む競技はスタンドプレーになるからだろう。あまりいい成績は治められなかった。
 今、そうした競技に挑む機会を与えられたら、少しはチームに貢献出来るだろうか。
 過去の自分は自らの高い身体能力に、奢っていたし酔っていた。それがわかるぐらいに成長したからこその|IF《もしも》。ひとりが陣形を乱しただけで窮地に陥る集団戦闘を経験したマサキは、ラ・ギアスに来たことで、周りの動きを見ながら自らの動きを決めるということが出来るようになっていた。
「もっと滑っていても良かったのですよ。運動をしているあなたは水を得た魚のようだ。それを眺めているのが私は好きなのですから」
「俺が寂しいんだよ。お前と一緒にいるのにひとりで遊んでるってなるからさ」
 靴を履き替え、荷物を受け取る。軽くなった靴の分、歩きやすくなったように感じるハイド・パーク。アイスリンクを後にしたマサキは、今度はシュウの後を付いて歩きながら、クリスマスマーケットに次ぐ、もうひとつの大きな目的である遊園地へと向かって行った。


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