Juice=Juiceの盛れミの「ありのままなんて愛されたくない」って歌詞に衝撃を受けて、いつかこれをシュウマサで書きたいと思っていたのですが、ようやく書けました。って何か違いますけどww
<あなたに負けたい>
「表に出ろ」
「云われなくとも」
剣を掴んで正面に立ったマサキに、シュウもまた剣を手に取った。
「あーらあら。また喧嘩ですか、ご主人様」
「いつものことニャのね」
「決着が付かニャいのに」
やいのやいのと騒ぎ立てる使い魔たちを避けて、リビングから庭に出る。
喧嘩の内容はいつものことだ。シュウの自宅にマサキが上がり込んで早三日。トレーニングをさぼりっ放しの彼に苛立ったシュウは、彼を発奮させようとして、彼の体型について、つい厳し目に意見を述べてしまった。
――随分と腹部に厚みが増したように思えますが。
一回りほど厚みを増した腹部の肉が気にかかっていたようだ。そんな云い方はないだろ。と、いきり立ったマサキと口論に励むこと数分。頭に血が上り易い彼が実力行使に出ようとするのに、そこまでの手間はかからなかった。
「行くぞ」
「いつでもどうぞ」
シュウは剣を構えた。
毎度、同じ方法でしかマサキを発奮させられない自分の方法論に問題があるのはシュウも理解していたが、こうでもしないと環境に甘え出すマサキはさっぱり動かなくなる。
野生動物と一緒だ。人間から餌を貰えることを覚えた野生動物は、次第に野生を失って人間に媚びるようになる。それがマサキと一緒とはシュウは思っていない。マサキはシュウに媚びないのだ。その代わりに、マサキはシュウの前では自由に、そして奔放に振舞った。
シュウの前では飾らずにいていいと思っているのだろう。
仲間とはトレーニングに精を出してみせるマサキは、シュウの前だとだらけることも多かった。朝食を済ませてテレビを眺めながら、愚にもつかないことをシュウを相手に喋り続けていたかと思えば、ソファや書斎の床の上、或いはベッドで惰眠を貪り始めたりと、とかくトレーニングを避ける行動ばかりを取りたがる。それがシュウには耐え難かった。
シュウはマサキが気を許してくれているのを好ましく感じてはいるが、それはだらしない姿を見たいとイコールではないのだ。
何より、マサキは剣聖ランドールの名を受け継いだ戦士だ。そうである以上、無尽蔵にだらけていい立場にはない。だというのに、彼はまるで努力など無駄だとばかりに、シュウの前で気ままに振舞ってみせるのだ。
それがシュウは気に入らなかった。
マサキと一線を超えてもシュウのマサキに対する感情に変化はなかった。妬ましくて、憎らしくて、けれども愛おしい。才能に胡坐を掻いている彼の在り方は腹立たしかったし、自らの精神性の弱点に自覚がない点についてもそうだ。だのにひとたび戦場に立つと、誰よりも頼もしい。努力しない天才であるマサキの全てを、シュウはまるごとは受け入れられなかったが、彼が心の奥底に秘めている熱はシュウの気持ちを駆り立て続けている。
「本当にいいんだな」
「構いませんよ。あなたの好きなタイミングでどうぞ」
剣を構えたマサキを目の前に、シュウは冷静でいた。
純粋な剣の技能ではマサキに敵わないことをシュウは理解していた。優れた身体能力に、瞬発的な判断力。しかも長時間打ち合える頑健な精神力もある。正面から打ち合って、マサキに勝てる相手は世界に一握りもいればいいだろう。だからこそ、シュウはマサキを相手に打ち合う際は搦め手でもって挑んだ。魔法を織り交ぜた防御に攻撃。それをマサキが狡いと表現したことは一度もない。むしろ自分と戦い方が異なる相手に闘志を掻き立てられるのか。積極的にシュウの懐に潜り込んで来ようとする。
そういったマサキの攻めの姿勢がシュウは好きだった。それこそが、戦士。剣聖の称号に与るマサキにこそ相応しい戦い方だと。
けれども今日のシュウは搦め手に頼る気はなかった。
シュウがマサキと互角の戦いが出来るのは魔法の存在があってこそだ。マサキと幾度も剣を打ち合ってきたからシュウは、その現実に気付いていた。上には上がいる。王室という狭い世界で無双していたシュウは、広い世界に出て、マサキと出会ったことでその意味を知った。
シュウは万能だが、全能ではないのだ。
だからこそ、シュウは魔法を封印しようと思った。たったひとつの剣技という実力で以てマサキと向き合ってみようと。
「何なんだよ、お前……」
次の瞬間、マサキの手から剣が落ちた。
「お前、全く戦意がねえじゃねえかよ……」
振り上げた拳の行き先を剣の打ち合いに求めたマサキのまさかの反応に、シュウは目を瞠った。それ程までに普段の自分がマサキに対して好戦的であったのだという驚き。そう、シュウは今、マサキに負けようとしていたのだ。自分の剣技を唯一無二のものとしている魔法を捨てることで、マサキに自らの強大無比な能力を自覚させる。それが自らに深い傷を残す結果となっても構わない。シュウにはその傷が誇り高きものとなる自信があった。
「そうですね」シュウはマサキが落とした剣を拾い上げた。「あなたに負けることであなたに猛省を促したかったのですが、その前に勘付かれてしまったようです」
「負ける、だって?」
「あなたは私との能力が互角だと思っているでしょう、マサキ。けれども私の剣技の才能は、あなたと比べたら、さしたるものではありません。それをあなたはこれまで気付けずにいたのですよ。何故だかわかりますか」
瞬間、マサキの眉が大きく潜められる。その表情に、シュウはマサキの本心を見た。
彼はシュウが全能だと思っていたのだ。
「あなたは努力をしないでしょう、マサキ。出来ることが当たり前なことに対してね。だから私の能力を見誤っていた。その現実をあなたに思い知らせて差し上げようかと思っていたのですが、残念です」
「そんなことをしたら、お前……」
シュウは狼狽えるマサキに剣を渡した。「大事なものなのですから、それ相応に扱いなさい」そう告げて、一足先にリビングに戻る。
ただでは済まないことなど承知の上だったのだ。
その瞬間のマサキの表情をシュウは見たかった。そしてその後のマサキがどう生きていくのかを見たかった。けれどもそれは叶わない夢であるようだ――剣を片付け、ソファに戻ったシュウは、庭で素振りを始めているマサキを横目に、肘掛けの上に積み重ねていた書を一冊取り上げた。
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