着地点がどんどん遠くなってゆく。(挨拶)
さっくり書いてさっくり笑い話にしようと思っていたのですが、中々目指すシーンには届きませんね。こんなことを四次をプレイした直後の自分が思っていたのだと思うと……ひー、恥ずかしい!!!
さっくり書いてさっくり笑い話にしようと思っていたのですが、中々目指すシーンには届きませんね。こんなことを四次をプレイした直後の自分が思っていたのだと思うと……ひー、恥ずかしい!!!
(三)
マサキは燻っていた。
マサキは燻っていた。
このまま自室《キャビン》に篭り続けても、何ら事態は進展しない。わかってはいても身体は重かった。
シュウに一矢を報いるのに失敗した今、どの面を下げて艦内を歩き回れたものか。
仲間と馴れ合わない男は、その割に行動範囲が広かった。格納庫は勿論のこと、食堂に遊戯室、談話室、作戦会議室だってそうだ。敵の進行スピードが気にかかるのだろう。操舵室にいたこともあったし、誰が使っているのか不明な書庫に篭っていることもあった。
どこでどう顔を合わせるかも不明な状態が、マサキの精神をより一層不安定にした。この、まんじりとしない気持ちをどう消化しきればいいのか――前にも後ろにも進めない現状に苛立ちが募る。その怒りに任せて、マサキはせせこましい自室の壁を蹴り上げた。機密性に優れた合金製の艦の壁は硬く、足先に痺れるような痛みを感じたが、そんなことは荒らぶる感情の前では小さな痛みだった。
静まり返った自室《キャビン》内に、響く艦の動力《モーター》音。低く唸り声を上げて巡行しているのがどこの宙域になるのか。航宙モニターに目を遣ることがなかったマサキにはわからない。ただ、「くそっ」と小さく声を上げ、ベッドに大きく寝そべるばかり。
すべきことは決まっている。
だのに膠着している。
マサキを苛立たせている一番の要因がシュウにあるのは間違いなかった。ただただ自分を慰み者にしたシュウ。いつか絶対に報復してやる。そのマサキの気持ちに偽りはなかったが、半面、愛であればどれだけ良かったか。と、いう気持ちも拭えずにいた。
嫌気と恐怖と恍惚と――そして快感。点在する感情がないまぜになった性行為《セックス》の記憶が、マサキを酷く混乱させていた。
他人に性的な意味で触れられるというのは、自分で触れるのと異なり、予測が付かないことの連続だ。思いがけない部位に走った快感が蘇る。指に、髪に、肌に残る性行為の余韻。あれから半日が経過した今も、マサキは昨晩の性行為の記憶を五感の全てで思い出すことが出来た。
それが悔しくて、恥ずかしくて、腹立たしい。
いっそ殴り合えればいいのだ。人目も憚らず、みっともなく組み合って殴り合えてしまえれば、マサキが抱えている鬱憤の半分は消化されることだろう。だのにシュウはそれさえも許してはくれなかった。手のひらで容易く堰き止められた拳。シュウの豊かな能力がこんなにも憎らしく感じたのは、マサキにとって初めてのことだ。
追うべき敵であった時ですら、そんなことは考えたことがなかった。
圧倒的な力を目の前に、膝を折ったことは一度や二度ではなかった。それだけ、当時のシュウとグランゾンはマサキとサイバスターを凌駕する力を有していた。行く先々でシュウに軽く扱われ続けたマサキは、だからこそ、シュウの能力を見縊ってしまったのだ。優れた身体能力と無限に等しい気《プラーナ》を有していることに自覚的だったマサキは、様々な人間との関りで自分の特異性を持ち上げられることに慣れてしまっていたからこそ、その自分が勝てない相手ではないと、シュウを下に見ることで崩れそうになる自身と自意識を保つようになっていた。
力の差は歴然であったのに。
だからマサキは天井を仰ぐしかなかった。受け止められた拳を開いて眺めつつ、その奥に広がる天井を途方もない気分で見上げる。誰かに話せる話ではないことが、マサキの感情をマイナスに加速させた。俺は女じゃねえ。身体の奥に打ち込まれた楔が、じりじりとマサキの身体を焼いている。燻った気分は止むことを知らず、さりとて、何処に何をぶつければいいのかわからない。
堂々巡りだ。
マサキはふう。と、大きく息を吐いた。いつの間にか全身に緊張感が漲ってしまっている。
強張った四肢を解いて、ベッドに大の字になる。
幾度もの戦いを制することで経験を積み、成長したマサキは、今の自分の精神状態が決して戦闘向きではないことを理解していた。怒りに飲み込まれれば、足元を掬われる。それはマサキが戦場で得た真理のひとつだ。だのに、わかっていながら、マサキはシュウの前で怒りに飲み込まれてしまった。
――シュウを殴れなかったのは、だからだ。
マサキは今一度大きく息を吐いた。そして、納得した。
――シュウを殴れなかったのは、だからだ。
マサキは今一度大きく息を吐いた。そして、納得した。
次は外さねえ。右手を強く握り締めたマサキは、その確かな感触に口唇を引き絞った。そのまま、腰を跳ねさせて、ベッドから起き上がる。先程までの無力感が嘘のように消失している。まるで戦場に立っているようだ。自信を取り戻したマサキはベッドを出て、自室《キャビン》のドアの前に立った。
――待ってろよ、シュウ。
赦せない気持ちは今でもある。それでも、相手の心が歪んでいるのであれば、殴ってでも正してやるのがマサキの遣り方だ。何も迷う必要などなかった。自らの根幹を思い出したマサキは、シュウを目指して部屋を出ようとした。
刹那、警報《アラート》が艦内に鳴り響いた。
『第一級警戒警報発令! 進行方向十時の方向に敵機を発見! 乗組員《クルー》は配置に着いて指示を待て! 操縦者《パイロット》は出撃準備にかかれ! 繰り返す……』
どうやら電波探知機《レーダー》の索敵範囲に敵が現れたようだ。下された指令に反射的にマサキの身体が反応する。出鼻を挫かれた形となったが、テンションは最高潮だ。マサキは自室を出ると、格納庫《ドック》に向けて一目散に駆け出した。
※ ※ ※
点々と煌めく星々が光り輝く宇宙空間に、誘導弾《ミサイル》が尾を引いて舞い飛んでいる。
※ ※ ※
点々と煌めく星々が光り輝く宇宙空間に、誘導弾《ミサイル》が尾を引いて舞い飛んでいる。
サイバスターを格納庫《ドック》から出したマサキは、敵味方が入り乱れる戦場を見渡して、ひとつ大きな深呼吸をした。
サイバスターの真骨頂は乱戦にこそあり。その自覚が自然と口元を緩ませる。複数の敵と味方を瞬時に識別して、攻撃を仕掛けることが可能な広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》は、どちらの軍勢にもない特殊武装だ。故に、集団戦の要となる。自身の立ち回りで戦いの流れが変化する状況に、マサキの心は沸き立っていた。
「行くぞ、シロ、クロ!」
マサキは自身の使い魔であるシロとクロに声をかけて、サイバスターを集団戦の中央へと突撃させた。火花散る戦場。無数のスペースデブリや交戦中の他機を持ち前の反射神経で避けながら、無傷で乱戦地帯の中央に躍り出る。
「サイバスターだ! 倒せ!」
自軍にとって有益な武装は、敵機にとっては不利益を被る武装だ。戦いも終盤を迎えた今となっては、敵軍もそれを良く理解しているのだろう。交戦地帯から離脱を図った機体の何機かが、マサキとサイバスターを墜とすべく向かってくる中、マサキは広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》の起動コマンドをコントロールパネルに打ち込んでいた。
様子を窺ったり、構えたりしている暇はない。「雑魚の露払いは俺に任せろ!」通信機で自軍にそう宣言したマサキは、燻っていた感情を全て昇華する勢いで気《プラーナ》を解放した。
「行け、サイフラッシュ!」
戦場には後はない。あるのは今だけだ。
次の戦いに進めるのは、今を勝ち抜いた者だけ。それを経験則として身に付けているからこその気《プラーナ》全開放。マサキはここぞという場面で自分の力を惜しんだ敵が敗れ去ってゆくのを何度も目にしていた。
「墜ちろ!」
威力を裏切るほどに柔らかい光が、サイバスターを起点として、周辺地域を包み込んでゆく。機体の構造を分解する衝撃波は、当たりは弱いが効果は高い。その間、約十秒。スペースデブリをも巻き込んで展開した広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》に、敵機が次々と爆炎を上げて砕け散ってゆく。
「続け! ハイ・ファミリア!」
マサキはコントロールを続けた。視認出来る範囲で稼働を続けている敵機に向け、誘導性弾頭弾《ハイ・ファミリア》を放つ。再び上がる爆炎。自軍の優秀な操縦者《パイロット》たちがこの好機を逃す筈がない。方々で墜ちてゆく敵機が、無残にも新たな残骸《スペースデブリ》を舞い散らせてゆく。
「マサキ、十一時の方向に敵の増援ニャのよ!」
「よし、もう一撃お見舞いしてやるぜ!」
全身に漲る自信と気《プラーナ》。思い通りに戦局を操ったマサキは、自身に対する自信を深めていた。広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》を最高出力で打ち出して、尚、枯渇を知らない気《プラーナ》がそれを後押しする。今なら、敵の最新鋭機とも一対一《サシ》で戦い切れる――武装に余裕があるマサキは、けれども油断をしなかった。
自軍と足並みを揃えながら敵の増援部隊に向かって進行してゆく。
敵が敷いている防衛ラインを突破してからが第二戦の本番だ。それまではエネルギーを温存すべき。緩急自在にサイバスターを操るマサキの顔からは、先刻までの弱々しさが際立つ少年の面影は消え失せていた。
「予測防衛ラインまで、残り十三メートルなんだニャ!」
次第に激しさを増してくる敵機の砲撃を右に左に避けながら、間隙を縫っては誘導性弾頭弾《ハイ・ファミリア》を撃ち出してゆく。防衛ラインを超えたら直接対決が待っている。それまでに敵の装甲値を削れるだけ削っておかなければ。
「サイバスター、予測防衛ラインを突破ニャのよ!」
「行くんだニャ、マサキ!」
「わかってらぁ!」
マサキはサイバスターを全力前進させた。
そうして、敵の増援部隊が敷いている陣の中央へと、一直線に飛び込んで行った。
※ ※ ※
「凄かったな、マサキ」
※ ※ ※
「凄かったな、マサキ」
艦に帰還するのを待ち構えていたかのように声をかけてきたアムロに、マサキは「そうか?」と、ちらと視線を向けただけだった。
「今日の撃墜数はトップを取れるんじゃないかな。そのぐらいの活躍だったよ」
「やるべきことをやっただけだぞ」
どうやら他の人間の目には、マサキが獅子奮迅の働きぶりであったように映っていたようだ。「良く云うねえ」などと口にしながら、パイロットスーツを脱いだ甲児が近付いてくる。
けれどもマサキは視線を戻さなかった。
操縦者《パイロット》や整備士たちでごった返す格納庫《ドック》は戦場よりも慌ただしい。その中には確実にシュウがいる筈なのだ。艦内の各所に神出鬼没な彼を捕まえるのは今しかない。マサキがふたりの操縦者《パイロット》に視線を向けずにいたのは、だからだった。
いずれマサキの拳は威力を失ってしまうだろう。
戦場で消化された苛立ちは、まだマサキの中に微かな蟠りを残していた。けれども、マサキの精神は怒りをコントロール出来る程度の回復をみせた。この気持ちが潰えぬ内に、シュウに一撃を食らわせたい。それは焦りではなく、機を読んだマサキの冷静な判断だった。
時間が経てば経っただけ、なかったことになってゆく。
そうでなければ、シュウが昨日の今日でマサキの前に顔を出した理由が説明出来ない。
彼は自らの無礼を更地にしてしまうに違いない。極端な秘密主義者。他人を自らの難解な云い回しで煙に巻くのを常套手段としている男の遣りそうなことを、長い付き合いのマサキは予測出来ていた。だからこそ、昨日の出来事がなあなあにならない内にシュウと決着を付けたいと望んでいた。
そう考えるだけの余裕が、先程の戦闘でのマサキにはあったのだ。
戦場では冷静さを欠いた者から墜ちてゆく。そういった意味で、マサキの働きは十二分なものであったのだろう。油断もせず、さりとて、恐怖や怒りに飲み込まれもせず、ただ自らに課されたすべきことをこなす。それは、スーパースターというよりプロフェッショナルな戦い方であった。
「朝の荒れっぷりからは想像も付かないってな」
「心配は無用だったようで、何よりだよ」
アムロと甲児は、それぞれ彼らなりにマサキの様子を心配していたようだ。次から次へと気遣う言葉が飛んでくる。それでもマサキは彼らの顔を見ることはしなかった。ふたりの操縦者《パイロット》の言葉を右から左に受け流しつつ、目指す人物を探す――と、格納庫の奥の方に、目にも鮮やかなダークブルーの機体が屹立しているのが目に入った。
「悪ぃ。ちょっと用事があるんだ」
マサキは立ちはだかるふたりの操縦者を押し退けるようにして、格納庫の奥へと急いだ。側に並び立つのはウィーゾル改にノルス・レイ、そしてガディフォール。その周辺に、シュウを中心とした一団がいるのは間違いなかった。
「マサキ、どうしたの?」
「何かあったのかニャ?」
背後から追いかけてくる二匹の使い魔の言葉を無視して先をゆく。
胸中は恐ろしいほどに冷静だ。まるでこれから戦場に赴くかの如き心持ち。今を逃せば次はない。マサキは冷静にシュウに一撃を見舞う算段を付けていた。
ゆっくりと進めていた歩が、やがて大股の急ぎ足へと変わる。
マサキは人の群れを掻き分けて、グランゾンの許へと向かった。間近になるにつれ、目当ての人物の姿がくっきりと浮かび上がってくる。整備士と話し込むシュウの周囲に侍る三人の仲間たち。彼らの前でシュウに報復をすることに躊躇いはなかった。むしろ確執が明瞭になった方がやり易い。マサキは既に腹を括っていた。
シュウ=シラカワは衆目の下で恥を掻かされて黙っている男ではない。
どういった切欠でもいい。マサキはシュウの本意が知りたかった。自分をどう感じ、どう考えた上で、最大の恥辱を与えようなどといった結論に至ったのか。理解出来ないことには先に進めそうにない。何より、この戦争が終わっても、ラ・ギアスで彼との縁は続くのだ。それをわかり過ぎるほどわかっているからこそ、マサキは何としてでも彼と決着を付ける必要性を感じていた。
「シュウ」
彼の背後で足を止め、その名を呼ぶ。
「これはマサキ。どういった用件で」
「用件なんざひとつしかないわな」
話し合う気などなかった。
マサキは振り上げた手を、振り返ったばかりのシュウの頬めがけ振り下ろした。
パン。と、小気味よい音が響き渡る。予想外の展開だったのだろう。傍に控えているサフィーネとモニカの表情が大きく崩れるが、我関せずを貫く。
「戦時中だ。拳は我慢してやる」
「それはお優しいことで」
「二度はねぇ」
「それはどうでしょうね」
朱に染まった頬に手を当てつつも、悠然とした表情を崩すことをしない。いつもの調子でぞっとする台詞を吐いたシュウに、マサキは大きく眉を寄せた。
「てめぇとは腰を据えて話し合う必要がありそうだ」
「云うべきことは全て申し上げましたよ」
突如として始まった諍いは、注目を集めるのに充分だったようだ。遠巻きに注がれる視線。けれども、息を詰めて成り行きを見守っている操縦者《パイロット》たちに構う気は、マサキにはさらさらない。
「それで俺が納得すると思うか」
「いいえ」
しらと云ってのけたシュウを一睨みし、背中を向ける。
「わかってるなら云いたいことをまとめて話しに来い。てめぇをどうするかは俺が決める」
それだけ云い残してマサキは歩き始めた。そして、「見世物じゃねえぞ」と、いつしか二重の人だかりと化していた人垣を割った。
「何だ、また喧嘩かァ?」
マサキの戻りを待っていたようだ。アムロと一緒に元の場所に立っている甲児の呑気な態度がマサキのささくれだった気持ちを和らげる。兜甲児という男は、こういう人間だ。人の深いところには絶対に入り込んでこない。けれども他人の懐に飛び込むだけの度量に満ちている。
マサキはそこでようやく笑った。
いや、笑えた。
「つまんねぇ口喧嘩だよ。まあ、いつものヤツだな」
「本当に、いつもの喧嘩なんだろうね?」
隣に立つアムロは、マサキの不調の原因をシュウに直接問い質しにかかった立場なだけに不安が拭えないようだ。曇った表情で、落ち着かない様子でいる。
もしかすると、彼は自身の行動が原因でマサキとシュウが諍いを起こしてしまったと考えているのかも知れない。そういった余計な気遣いは無用なのにも関わらず――だ。だからマサキは極力内心を悟られないように、わざとオーバーに笑ってみせながら、「俺とあいつが仲良くなんていく訳ねえだろ。いつものことさ」とおどけた口振りで云った。
そして甲児を振り向いた。
「腹が減ったな」
「もう夜だしなあ。やるべきことをさっさと済ませて、飯にすっか」
それで少しは安堵したようだ。アムロの口元が和らぐ。
「そうだね。早く食事を済ませて、明日に備えようか」
彼の言葉にマサキは静かに頷いた。
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