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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

wandering destiny(8)【修正アリ】
久しぶりの更新になります。
今回のテーマはマサキの過去になります。
のんびりゆっくりペースでの更新ですが、お読みいただけますと幸いです。



<wandering destiny>

(二)

 全く知ることのなかったマサキの過去が、思いがけぬところから飛び出してきたからだ。その後のミオとの会話の内容を、シュウは殆どといっていいほど覚えていない。とはいえ、それ以上に有力な情報がどこにあったものか。世界同時多発テロとマサキの過去。ふたつが結びついているのであれば、彼が地底世界に戻ってくるのはそれらが解決してからということになる。
 ――じゃあ、いってらっしゃい。マサキのこと、よろしくね。
 ミオの家を辞したシュウは神殿に戻り、自らに与えられた部屋で一晩を過ごした。与えられた調査期間は一週間。翌日からのタイトなスケジュールを考えると、ゆっくり身体を休めておくべきではあるが、クリティカルなマサキの過去を知ってしまったことに対する興奮が勝って眠れない。彼は今、どういった気持ちで何処を流離っているのだろうか? まんじりともせず迎えた朝。イブンに見送られつつ、無事に稼働したゲートを通って地上に出たシュウは、ヤンロンの目撃情報の裏を取るべく浅草に向かった。
 ヤンロンが目撃したマサキの様子が本当におかしかったのであれば、彼が同時多発テロの情報を知ったのはこの周辺のいずこかの地点でということになる。ではその地点は何処になるかという話だが、そこで生きてくるのがテュッティの発言だ。彼女曰く、マサキは地上でたらふく寿司を食べるつもりでいたらしい。ならば彼が浅草で食事を取った店は寿司屋ではないか? シュウは駅周辺にある寿司屋を虱潰しに当たった。情報を攪拌し過ぎている気もなきにしも非ずだったが、限られた時間を効率良く使う為には、多少の論理の飛躍も已む無しだ。
 何よりシュウが良く知るマサキ=アンドーという青年は、それだけ直情的且つ意固地な人間だ。
 思い込んだら一直線に、目標に向かって突き進んでゆく。それは魔装機操者としての義務に限らない。シュウとの関係にしても、彼は簡単に流されることを嫌った。それもそうだ。シュウとマサキは、地底と地上、ふたつの世界に跨って混乱を引き起こした張本人と、それを粛清すべく戦いを続けた戦士という関係からスタートしている。如何にシュウがサーヴァ=ヴォルクルスの支配から解放されたといえど、ラングラン民衆の記憶に深く刻まれた破壊の歴史までもは消せはしない。義理堅いマサキは、ラングランの国民感情を尊重し続けた。記憶を失くしてシュウに保護されることがなければ、彼は今でもシュウとの関係を知己の仲に収めていただろう。
 そういった彼が、高々食事とはいえ、自らの前言を翻すことなど有り得ない。
 そのシュウのロジックは正しかったようだ。尋ね歩くこと五軒目。裏通りにひっそりと門を構えている昔ながらの庶民派寿司屋の店主は、シュウが伝えたマサキの特徴に、あの兄《あん》ちゃん――と、即座に反応してみせた。
 ――血相変えて飛び出して行ったもんだから、心配してたんだよ。兄さんはあの兄《あん》ちゃんの知り合いかい?
 昼時になってふらりと店に入ってきたマサキは、たらふく食うとの宣言通りにかなりの量の寿司を注文したようだ。全部で五十貫はいってたよ。とは店主の弁だが、それだけに印象に残ったのだとか。しかも本人はまだまだ食べる気でいたらしく、新たに六貫の寿司を注文していたのだそうだ。それが店内のテレビで同時多発テロのニュースが流れるなり、釣りはいらないとカウンターに大枚を叩き付けて出て行ってしまったのだという。数万単位のチップを貰う形になった店主としては、忘れようにも忘れられない客だ。
 ――インバウンドの外人さんとて、こんなにはチップをくれんよ。だから釣りの分は返したいんだがね。
 そう云って万札を押し付けようとしてくる店主を、それが彼の意向だからと説き伏せてシュウは店を後にした。そして急ぎ足で最寄りの駅に向かった。ヤンロンやミオの発言の裏が取れた以上、浅草にもう用はない。次にすべきなのは、寿司屋を出たのちのマサキの足取りを追うことである。
 過去の記憶が、同時多発テロのニュースで呼び覚まされただけであれば、こうも発作的な行動を取りもしまい。シュウは電車で次の目的地に向かいながら推理を組み立てた。理性的な行動が推奨される地底世界ラ・ギアスでは、感情的に破壊を繰り返すテロリストは珍しい存在であったが、地上世界ではそうはいかない。宗教問題に人種問題、変わったところでは動物愛護などといった主義主張を掲げるテロリストたち。国際機関に確認されているだけでも二桁を下らないテロ組織は、地上人が如何に己の信念に基づいて活動する生物であるかを如実に表している。そうである以上、彼らの活動に一々目くじらを立てていては、さしもマサキであっても精神が保《も》たないだろう。と、なると、同時多発テロを起こしたテロ組織は、マサキにとって印象深い組織である可能性が高い。そう、例えば彼の両親の命を奪ったといった……。
 残酷な妄想だ。
 だが、可能性はゼロではない。
 シュウは自らの推理に溜息を吐かずにいられなかった。車窓に流れる長閑な景色が空しい。だが、あのマサキが任務を途中で放棄するぐらいである。同時多発テロの犯人がただのテロリストである筈がない。しかも彼は自らの大事な愛機《パートナー》を地底世界に置きっ放しにしているのだ。それは地底世界に戻ったが最後、永久にテロリストを退治する機会が訪れないとわかってるからではないか。
 シュウは市ヶ谷で電車を降りた。
 幾度もの世界規模の大戦で機能を失った旧自衛隊駐屯地。現在は連邦軍が駐留しているその地にシュウが降り立ったのは、彼らが有する権力を利用する為だ。何せ、日本は世界の多数の国と同様に、国民データが一元化されている。風の魔装機神を持たないマサキは、移動手段を公共交通機関に頼っていることだろう。それは、国のデータベースにはマサキの移動情報がリアルタイムで記録されているということだ。
 そのデータベースへのアクセス権を連邦軍経由で取得するのだ。
 シュウは警備員が詰めている駐屯地のゲートに立った。警備員に駐屯地の幹部と自身の名前を告げ、面会にきたと述べる。思いがけない大物の名前に警備員は怯んだ様子を見せるも、相手が相手だけに取り次がない訳にはいかないと思ったのだろう。少し待たされた程度で駐屯地内部に招き入れられた。



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