※打ち直しです※
第一章 チャイルド・ヴァンプ
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エルドラドは、東部・西部・北部・南部の四つのエリアに、女子用のWと男子用のMのセクションからなる空中都市だ。当然ながら、各セクション間の行き来は、年頃の男子と女子を同じ空間に置かない”配慮”から、容易にはできないようになっている。セクションの内部は四つのブロックに分けられ、それぞれが学習スペースと居住スペースを抱え込み、単独で子供たちの生活が成り立つように設計されていた。
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エルドラドは、東部・西部・北部・南部の四つのエリアに、女子用のWと男子用のMのセクションからなる空中都市だ。当然ながら、各セクション間の行き来は、年頃の男子と女子を同じ空間に置かない”配慮”から、容易にはできないようになっている。セクションの内部は四つのブロックに分けられ、それぞれが学習スペースと居住スペースを抱え込み、単独で子供たちの生活が成り立つように設計されていた。
人口管理の観点から、異性との交流には消極的なエルドラドだが、同性との交流には積極的だ。エルドラドが掲げる金科玉条《きんかぎょくじょう》のひとつに、『友人は生涯の宝』とあることからもそれが窺える。だからだろう。セクション内部のブロックは、週に一度の開放日やイベント時には解放可能な造りとなっていて、三か月に一度のブロック移動で別れた友人たちとの交流や、そうした友人たちを通じての新たな出会いに一役買っているようだ。
そうしたセクションという閉鎖された環境単位で育てられる試験管ベビーたちは、それは口さがなくこれから入所する”狩り”で捕まった子供たちのことを語りあったものだ。事故だろうか、事件だろうか……それとも何がしかの非合法な職に就いていたのだろうか……親の顔を知らずに育つ試験管ベビーたちは、それと知れただけで、親を知る子たちに対して厳しい態度を取る。
(今度、例の連中が来るんだろう?)
(ああ、例の摘発された事件の)
(情報屋連中の話じゃ、セクション分割じゃ追い付かない人数らしいけど)
(うちには何人来るんだろうな)
(下は一桁だって噂だぜ)
(マジかよ。えげつないことに手を染める連中もいるもんだ)
(面白くなりそうだよね、特に”メンバー”の連中なんかが)
情報規制は敷かれていたものの、それは雑誌や新聞の切り抜きや塗りつぶしでしか行われていなかった。テレビにしてもそうだ。未成年が関わる事件にはモザイクがかけられるとはいえ、将来に備えてだろう。地上の情報を制限するのは、彼らの将来に関わるとの国際科学連盟の意向から、それらは最低限度に留められていた。
食堂で、或いは娯楽室で見たに違いないその”ニュース”を、辺り憚りつつも彼らは大いに噂にしたものだ。
(だけど、来るとしてもブロック移動にはしないって話だぜ)
(セクション移動か……バレる奴はバレるけどな)
(ね。何考えてんだか、監理局《マザー》は)
エルドラドを管理するのは、国際科学連盟直下の”管理局”だ。各セクションを繋ぐエアーライン《通路》の中央に位置する、高々と天にそびえるタワーの上階を占める監理局は、主に子供たちの健康や知能の管理を担当していた。その下に連なるのは、地上から来る子供たちにエルドラドのルールを教え込む”教務課”、各セクションに子供を割り振る”教育課”、といった実務を担当する課だ。組織を統括する立場でもある監理局《マザー》は、そうした課を含めて”監理局《かんりきょく》”と呼称されることも多い。
(でも実際、知らない子は本当に知らないままだよね)
(俺もこの間、知り合いが全然いない奴と同室になった)
(管理局って結構そういうことやるよね。狩りで捕まった子たちがわからないようにさ)
三か月に一度行われるブロック移動と異なり、セクション移動は年に一度。エルドラドの子らの進級、或いは卒業を待って行われる。それは、管理局がエルドラドの子供たちに出来るだけ多くの子供たちとの触れ合いをさせたいと考えているからだと言われている。自然、エルドラドで育った純粋培養の試験管ベビーたちの繋がりは強固なものとなっていく。
(でもさ、事故や事件で親を亡くした子たちが可哀想だよね、付き合わされるんじゃ)
(お前、親がいる奴らの肩を持つのかよ)
(だって欲しくない?親)
(俺たちはそういうのとは無縁だもんな。噂だとそういう連中は、地上で引き取り手があったりするとか聞くけどさ、俺たちは卒業しても里親貰えるかわからないしなあ)
つまるところ、試験管ベビーとはそういう存在なのだ。生まれてから死ぬまで親に恵まれない子もいれば、その能力を望まれて恵まれる子もいる――。それは親を知る、”地上”の子らへの嫉妬心も生まれようというものだろう。
彼らはだからこそ、彼らを管理する監理局をこう呼ぶのだ。
“母親《マザー》”と。
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