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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

あなたがここにいる(陰)
@kyoさんにリハビリをさせようリクエスト作品第三弾

<お題>
マサキにいつでも会えるシュウ

<あなたがここにいる(陰)>

 支援者との会合を終えて、独り住まいの自宅へ戻ったシュウは「マサキ?」と、その名を呼びながらベッドルームに入った。しかしその姿はベッドの上にはない。ベッドのフレームに繋いだ鎖の伸びた先を窺うと、入り口からは死角になるベッドの陰に素肌を晒したマサキの姿があった。
 微睡《まどろ》んでいるらしい。
 ベッドに凭《もた》れて頭《こうべ》を垂れているマサキは、軽い寝息を立てている。
 そのマサキのある種シュウを信頼しきっているような様子が、シュウ自身にはとてつもなく腹立たしく感じられた。首輪とベッドを繋いでいる鎖に手を伸ばす。そしてシュウは躊躇うこともせず、手にした鎖を力任せに引っ張った。
 突然の衝撃に、大きい音を立てて、マサキの身体が床に倒れ込んだ。
 突然に妨げられた眠り。喉元への圧迫感に、マサキが咄嗟に首輪を掴む。それをシュウは眼下に更に鎖を引っ張った。
 マサキの藪睨みがちな黒目が、媚びるようにシュウを見上げている。
 微かに揺らめく瞳。目の際に涙が滲んでいる。わななく口唇が幾度か言葉を吐こうと開いては閉じを繰り返し……やっと、シュウ、と掠れた声で口にした。シュウはその声を耳にして、そこでようやく鎖から手を離した。
 緩んだ鎖に、足を投げ出したまま。床に手をついて、マサキは激しく咽《むせ》た。声にならない声を発してひとしきり咳き込んだ彼は、そうして身体を折って、ぜいぜいと息を吐き出した。
 さして長い時間ではないにせよ、首を絞められていたのだ。さしものマサキでもその扱いには堪えたと見える。額に汗を浮かべながら、肩を大きく上下に震わせている。
 とはいえ、そこは身体や精神がタフに出来ている魔装機操者。十数秒もすると、マサキの肩は元の落ち着きを取り戻していた。鎖に繋がれた範囲だけと限られているにせよ、再び自由を得たことに気付いたのだろう。マサキはのそっと身体を動かすと、さっきまでと同じ姿勢を取った。
 そうして、けだるそうにシュウを見上げた。
「やらないのか」
「何の罰にもなりそうにないことを繰り返してもね」
 彼が鎖に繋がれて、行動範囲を制限されて早数日。シュウが所狭しと身体中に刻み付けた紅斑は、まるで花のように白い素肌に咲いている。全く、折れることを知らない……舌打ちしたくなるのを堪えながら、シュウは冷静にマサキの様子を観察した。幾分、細くなったようにも見受けられる身体。充分な食事を与えてはいたものの、休息を与えずに何度も抱いた。きっと、繰り返される性行為が彼の肉感的な逞しさを奪ってしまったのだろう。
 しかし、これだけの理不尽且つ屈辱的な扱いを受けて尚、マサキはかつてのような憎しみをシュウにぶつけようとはしなかった。何かを諦めてしまったような態度。けれども信じる力を失ってはいない。まるで深い海を思わせる慈愛にも似た受容的な態度で、マサキはシュウに接し続けている。
 とうの昔にマサキはシュウを赦しているのだ。
 それが過ぎ去った時間の重みであるとシュウは理解していながらも、どうにも自分を制御し難いぐらいに腹立たしく感じられて仕方がなかった。
「あのよ……」
 考え込んでいるシュウの顔が、余程険しく映ったのだろうか。機嫌を窺うようにマサキが言葉を発する。
 そうしてトイレに行きたいと訴えるマサキを首輪に繋いだまま。シュウは鎖を引いて、マサキをトイレに連れて行った。そのまま、鎖を片手に用を足し終えるのをトイレの前で待つ。
 それが済めば入浴。どうせ直ぐ汚れちまうんだからと、シャワーを浴びるのも億劫そうにしているマサキを手荒にバスルームに放り込んで、シュウは自らも服を脱ぐと、手首に嵌めた手枷に鎖を繋いだ。
 そのまま、マサキをシャワーの下に立たせ、髪から順番に身体を洗い流してゆく。首から肩、肩から腕。マサキのシャワーの熱気に上気した肌が、やけになめかましく映る。何度も抱いた身体は、どれだけ欲望の限りを尽くしても、シュウの中から湧き出る情欲の炎を消してはくれないのだ。その現実がシュウを苛立たせているのだと、マサキは知っているのだろうか。
 ただ気紛れにシュウの元を訪れただけのマサキを、彼が眠っている間に拘束して数日。
 飽きるほど身体を重ねても、潰えない渇望。それがマサキの態度から来ているものであるとシュウはわかっていた。服従するでもなく、従属するでもなく、ただ在るがままに。マサキはシュウのなすことを受け入れながらも、やはり限りなく「マサキ=アンドー」のままなのだ。
 この鎖を解けば、彼は何事もなかったかのように日常へと帰ってしまうのだろう。
 背中から胸へと指を滑らせたシュウは、その現実に例えようもない絶望を感じた。指の腹で乳首にそっと触れてみせれば、ぴくりと揺れる身体がある。それだのに……。
「あ……ああ、シュウ……」
 上ずった声で己の名を呼ぶマサキに、シュウは長く弄んだ胸元から更に手を滑らせ、腰から双丘へと。臀部の合間に指を潜ませて、自らの精液に塗れた秘所を何度も抉る。
 どろり、とマサキの身体の奥から吐き出された精液が、足を伝ってシャワーの湯に溶ける。
「……ただあなたをここに置いておきたいだけなのに」
 バスルームの壁に手を突いて、腰を突き出しながらシュウの愛撫に喘ぐマサキを、深く貫いては何度も彼の華奢にも思える身体をその凶器で突き上げた。自らの昂ぶりに纏わりつく内壁の溶けるような熱さに浮かされながら、そのどうしようもない恍惚の中でシュウが云えば、マサキの潤んだ瞳が濡れた前髪の下からこちらを振り仰ぐ。
「別に、俺はいいよ……このままでも」
 怖いんだろ、とまるでシュウの心を見透かしているように云ってのけるマサキに、シュウは嬉しいのか悲しいのかわからぬまま――、やりきれぬ想いをぶつけるように、その精をひたすらにマサキの中に放ち続けた。


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