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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

寝正月2
寝正月の続き。



<寝正月2>

「飽きた」
 炬燵の中で丸くなりながらマサキは云った。
「何がです」
 炬燵に脚を入れて、読書に耽っているシュウが応えてくる。
 炬燵の上にはみかんと餅。シュウが大量に作り、マサキが食べに食べた餅は、残すところ二人前となっていた。
「餅」
「おせちにしますか」
「入るかこの馬鹿」
 マサキは炬燵の中でごろりと寝返りを打った。彫刻かと見紛うほどに端正な面差しが、炬燵に肩まで浸かっているマサキの顔を見下ろしている。嫌になるほど面がいい。いいだけに、こうも白々しく惚けられると腹立たしさが増す。
「これ絶対3キロは太るヤツだろ」
「正月太りというものですね」
「餅だけで3キロとか笑えねえ」
 シュウが作った二十人前の餅を、まだ三時間ほどしか経過していないのに、暇にあかせて大半を食べ尽くしてしまった。そのショックがマサキに襲いかかる。
 確かにマサキは良く食べる方だ。食べる方だが、流石に二十人前の餅は食べきれないと思っていた。だのにテレビを見ながら炬燵に入っているだけで食が進んでしまった。これぞ正月及び炬燵の魔力であるのかも知れない。
「てか、お前。何でこの時期になると炬燵を出すんだよ。そもそもこの炬燵はどこから調達してきやがった」
「何故と問われましても、あなたの為にですが」
「面倒臭え奴だな本当に。気持ち良過ぎて出たくないぞ」
「ちなみにこの炬燵は手製です」
「手製」
「手製です。ですので自動で設定した温度に調節する機能が」
「あー、いい。本当にもういい。説明はいらねえ。とにかくこの暇を何とかしろ。餅が全部なくなる」
 マサキの為だけに炬燵を作り上げたと恐ろしい告白をさらりとしてのけたシュウに、マサキは戦慄した。
 どうせ、冬らしさを味わってほしいといった理由であるのだ。深く追求せずとも理解出来てしまう程度には、シュウの行動パターンが読めるようになったマサキは、だからこそ炬燵に纏わる話題をさっさと切り上げた。
 暇なのだ。
 炬燵に入っているだけで、していることは普段と何ら変わりがない。シュウは読書に精を出し、マサキはひたすらにテレビを見る。餅があろうがおせちがあろうが関係ない。正月らしさの欠片ぐらいしか存在しない状態に、マサキは鬱憤が溜まってしまっていた。
「なら、街にでも出ますか」
「街に出てもなあ。日本の新年のあの空気感はラングランじゃ味わえねえしなあ」
「なら地上に」
「新年早々セニアにどやされろってか。冗談じゃねえや」
「だとしたら」手元の本を畳んだシュウが身を屈めてマサキの顔を覗き込んでくる。「姫始め、ぐらいしかすることがなくなってしまいますよ、マサキ」
「うー……」マサキは呻いた。
 姫始め――と、冗談めかしてシュウは云うが、この鬱憤を晴らせるのなら、いっそそれでもいいのかも知れないとマサキは思い始めてしまっている。かといって、欲しかない正月を過ごすのも何かが違う。マサキは必死に炬燵に入ったまま出来そうな正月らしい行事を考えた。
「百人一首とか福笑いとかないのかよ」
「来年からは用意しておきますよ。で、マサキ。するの? しないの?」
 シュウの返事に、まあそうだよな。と、納得する。
 一人住まいの家に、しかも生まれも育ちもラングランなシュウの家に、百人一首だの福笑いだのすごろくだのがあったら、それはそれでマサキとしては警戒する。だったらないのが正解だ。「する」マサキはシュウのうなじに手を回した。
「……本当に?」
 よもやそういった返事をされるとは思っていなかったようだ。驚きに微かに見開かれた瞳に、ざまぁ。マサキは不敵に笑ってみせると、俺に餅ばかり食わせるからだ。と、シュウの口唇に自らの口唇を重ねていった。






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