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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

寝正月3
これで一区切り。



<寝正月3>

 炬燵の中に伸びているマサキの脚にシュウの手がかかった。
 そのままジーンズを脱がせにかかるつもりらしい。ホックを弄り始めた指先に、マサキは脱がせやすいようにと腰を上げた。
「ニャ、ニャニャニャ!?」
 途端に炬燵から飛び出してくるシロとクロ。それはそうだ。炬燵の中でぬくぬくしながら眠りこけていたら、いつの間にやら主人たちがいい雰囲気になっている。のみならず、そのまま姫始めに励もうとしているのだから、これで動揺しない方がおかしい。
「や、やるニャら先に云ってニャんだニャ!?」
「びっくりしたニャのよ!」
 そのまま、どたたたたと寝室に逃げ込んでいった二匹の使い魔にシュウが天井の梁を見上げる。当然の如く顔を覗かせている彼の使い魔に、お前はどうするんだよ。服を脱がされかけているマサキは尋ねた。
「あー、まあ、止まらない、ですよね」
「この状態であんま待ちたくねえんだよな。見るなら見るでもいいけど、口外はすんなよ」
「嫌ですよ、そんなの。あたくしご主人さまに焼き鳥にされたくはありません!」
 ひぃぃ。と、叫び声を上げながら、マサキの二匹の使い魔を追いかけてチカが飛んでゆく。寝室に一羽と二匹を追いやったマサキはシュウの髪に指を埋めた。それを待っていたかのように、シュウがマサキの胸に顔を埋めてくる。
「気を削がれた気がします」
「何だよ。お前らしくねえ。てか、やりたくねえのかよ」
「あるないで云えばあるのですがね」乱れたマサキの衣服をシュウが整える。「彼らが少々可哀想になりましたもので」
「云い出したのはてめぇなのにな」
「ご尤も」
 そうは口にするものの、やる気は奮わないようだ。畳んだ本に手をかけたシュウに、仕方なしにマサキは身体を起こした。そして残っている餅の皿に手を伸ばす。
「太るな、こりゃ」
 残っているのはチョコレートとピザトッピングの餅が全部で四つ。これまで十個以上の餅を腹に収めてきただけあって、流石に胃もたれがし始めている。それでも、他にするべきこともない。あーあ。マサキは大きく伸びをした。
「なんかすることねえのかよ」
「おせちでも出しますか?」
「まだ食えってか。冗談じゃねえや」
「チェスでもしますか?」
「やめろ正月から頭を使わせるな。せめて人生ゲームか、お前だったらモノポリーか……」
「なら、私が地上に何かゲームを買いに行きましょうか。あなたが地上に出るとセニアが煩いのでしょうし」
「やだ」
 瞬間、シュウの眉根が盛大に寄った。
 街に出るのは面倒臭い。地上に出るのも同様だ。かといって、シュウがいなくなるのも許せない。マサキは自分でも何をしたいのかわからないまま、シュウに向かって駄々を捏ねた。子どものような真似をしているのは理解している。それでも、彼と離れて過ごす正月は考えられない。
「困りましたね。と、なると――」
 宙を睨んで暫し思案していたシュウが、少し待っていなさい。と、炬燵から出てゆく。どうやら書斎に向かったようだ。程なくして戻ってきたシュウの小脇に抱えられている三冊の本。それを炬燵の上に置いた彼は、マサキを手招いて炬燵の中で膝の上に乗せた。
「何をする気なんだ?」
「読み聞かせですよ」
「読み聞かせ」
「あなたは退屈しているのでしょう、マサキ」
「まあな。けど、俺にお前が読むような本は……」
「安心なさい。日本で云う古事記のようなものですから」
「安心なのか、それ?」
 とはいえ、テレビにはもう飽きてしまっている。マサキは新たな情報を求めて、自身の目の前に広げられた本に視線を向けた。
 どうやら挿絵付きであるようだ。細かい文字が連なる中にも、親しみやすさが感じられる。へえ。シュウの意外な趣味にマサキは素直に感嘆の声を上げた。

 ――初めに闇があった。

 穏やかで落ち着いた声が頭上から降ってくる。

 ――闇を覗く三つの神は、この闇の中に新たな世界を創ることとした。

 マサキはシュウが読み上げるラ・ギアス世界の成り立ちを静かに聞いた。

 ――創造神はこの世界に光を与えた。世界に色が生まれた。破壊神はこの世界に振動を与えた。世界に四大元素が生まれた。調和神はこの世界に秩序を与えた。世界に生命が生まれた。

 腹が朽ちたこともあってか、徐々に眠気が襲ってきた。マサキはうつらうつらしながらシュウの語る世界の成り立ちを聞いた。三柱神信仰が作り上げた創世の物語。今となっては想像力の産物に過ぎない神話は、確実にマサキの眠気を増していった。
 そう時間が経たずに眠ってしまったようだ。
 目が覚めると身体が熱かった。炬燵の中で眠りこけてしまったからだろう。身体を覚ますべく炬燵から出ると、炬燵の上に山と積まれているボードゲームが目に入った。
「あなたが眠っている間に買ってきたのですよ」
 澄ました顔で読書をしていたシュウが、マサキの驚いた顔を目にして、してやったりとした笑顔を浮かべる。
 マサキは慌てて窓の外に視線を向けた。とっぷりと暮れた日。もうすっかり夜を迎えている。
「あたしたちも参加するニャのよ」
「一羽と二匹の連合軍ですよ。マサキさん、この勝負受けますよね?」
 よくよくボードゲームを見てみれば、マサキが知っているレベルのものばかりだ。難し過ぎる内容のものはプレイする前に投げ出すと読んだに違いない。シュウの気遣いが窺えるラインナップに、マサキは口元を緩ませた。
「おう。覚悟しとけ。てか、どれからやるんだよ」
「やっぱり人生ゲームじゃニャいの?」
「いえいえ、モノポリーも捨て難いですよ」
「おいら簡単なゲームがいいんだニャ」
「私はジェンガですかね、ねえマサキ」
 四者四様に声を上げるシュウと使い魔たちに、どのゲームを選ぶべきかとマサキは頭を悩ませながらも幸せな気分になった。
 こんな正月もいいじゃないか。マサキは炬燵の上からボードゲームをひとつ取り上げると、ゲームの始まりを待ち構えているシュウと使い魔たちに笑いかけた。








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