偶にはこちらだけのSSがあってもいいじゃないですか。
というか、エロはXに置けないので……
.
というか、エロはXに置けないので……
.
<顔>
長い前戯が終わりを告げようとしていた。
ベッドに身体を伏せさせられた瞬間、やだ、とマサキは声を上げずにいられなかった。どうして? うなじから背筋へと口唇を這わせていたシュウが、揶揄い気味に言葉を吐く。その手が腰へと伸びてくるのをマサキは払い除けようとした。
そろそろ彼の猛る男性器は、溜まった欲望をぶつける先を求めているようだ。
今更、彼と繋がることに抵抗を感じるほど、マサキは性行為に対して初心ではなかったが、それでも彼の偏った嗜好には異を唱えたかった。やだ、やだって。腰を抱えてくるシュウに足をばたつかせて抵抗する。それでどうやらマサキの抵抗が照れや恥ずかしさからくるものではないことに気付いたようだ。嫌なの? シュウが耳元で尋ねてくる。
「そうじゃねえよ……ただ、後ろからばっかはやだって……」
彼はマサキと繋がるのに、背中から挿入を試みてくるのが常だった。時に腰を抱え、時に腕を取り、熱い吐息を背後からマサキに浴びせかけながら、その逞しい凶器で以て突き上げてくる。決して愛情を感じない訳ではなかったものの、彼の顔を見ることなく達する寂しさ。それを耐え難く感じたマサキがいつぞやシュウにその理由を尋ねたところ、彼は「人間の身体の構造的に、後背位といった姿勢の方が挿入される側が苦痛を感じずに済むからだ」と尤もらしい答えを述べてみせた。
とはいえ、普段彼の弁舌に騙されてばかりのマサキにしても、彼の苦し紛れのその云い訳には騙されなかった。
長く性行為を続けている関係なのだ。とうに彼との行為に慣れてしまっているマサキにとって、今更体位ひとつで性行為に苦痛を感じるまでもない。そうである以上、彼が背後からの挿入に拘る理由は、単純に好みの問題であるのだろう。
「何故、嫌なのです」
「顔が見たいんだよ。お前の顔」
出会った当初はいけ好かないと感じることの多かった彼の顔立ちを、今のマサキは好ましいものと捉えている。眼光鋭く周囲を見渡しているように映る切れ長の眦に、何を考えているか他人に読み取らせない紫紺の瞳。やたら整った鼻筋に、意思の強さを物語る口唇。神経質さが先走る彼の面差しは、けれども今となっては柔和にマサキを眺めることをが増えた。
その顔を眺める恍惚。彼が性行為の最中にしか見せない表情の数々を、彼が思っている以上にマサキは愛おしく感じているのだ。
マサキがそれを告げると、彼は意外そうに目を見開く。私はあまり見せたいとは思っていなかったのですが。ひとり、誰ともなく呟くシュウの言葉に、何でだよ。マサキは尋ねた。
「欲に溺れる顔をあなたに見られたくないのですよ」
「それを云ったら、お前は俺のそういった表情ばかり見てるじゃねえかよ」
鳴き喘ぐマサキの姿を見下ろすシュウの表情は、いつだって獰猛な獣のようだ。今にも喉元に食らい付いてきそうな残虐さにも満ちた顔。それをマサキが怖ろしいと感じないのは、彼の自分への熱をそこに感じているからだ。
熱っぽい眼差しに、熱く吐息を吐き出す口唇。さながら酔客のようだ。そう、彼はマサキに酔っている。自身の性戯に溺れ踊らされるマサキの姿に。
彼は残虐にマサキを見下ろしながらも、例えようのない興奮状態の中にいるのだ。それが感じ取れるからこそ、マサキはシュウの一種残酷にも映る表情にさえも愛しさを抱かずにいられない……いや、むしろそういった表情を彼が晒しているという状況にこそ、マサキは悦びを感じているのだろう。
「なあ、いいだろ。シュウ」マサキは彼の腕の中で、身体を返した。「毎回なんて云わねえよ。偶にでいいんだ」
そして腕を背中に回す。
挿《い》れろよ。耳元で小さく囁きかけると、それに応えるようにシュウの手がマサキの脚にかかった。
.
.
PR
コメント