タイトル通りの話です。何かまた変な話を生み出してしまったような気がして、正直公開を躊躇ったのですが、まあいつものことだしな!で済ませようと思います。
痛いのが苦手な人は閲覧をお控えくださいませ。では本文へどうぞ。
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<Piercing>
変わったプレイをしましょう、と性行為の始まりに口にしたシュウがグラスに盛って持って来たのは、透明度の高いロックアイスだった。
酒を嗜むにしてもワインばかり。ウィスキーや焼酎といった氷を加えて飲むような強い酒を好むでもない。確かにその氷はワインのボトルを冷やすのに必要であったかも知れなかったものの、そもそも小一時間ほどでボトル一本を空にしてしまう男。常に酒量を一定に保っているシュウが、もしボトル一本以上のワインを口にすることがあるのだとしたら、それはイベントごとなどでマサキが酒に付き合う時に限られる。そうでもなければ使われないまでに、シュウはワインのボトルをロックアイスで冷やしながら飲むことをしなかった。
常備されているにしては不自然な時期にあるロックアイス。だからマサキは、恐らくシュウは性交で使う為にわざわざ用意したのだろうと考えた。
「……何をするんだ?」
「それはこれからのお愉しみですよ」
さりとて何をするつもりなのか、性行為の経験に乏しいマサキにわかる筈もない。シュウ以外に性交の相手を持ったことのないマサキにとって、シュウがこうして提案してくるプレイはどれも初めて経験するものばかりなのだ。煙草の煙を吸わせ合いながらの口付けもそう。眼球を舐め合いながらの口付けもそう。目隠しに手枷。ローターにバイブ。どうやらシュウには軽い加虐の気があるようだったが、マサキの身体に傷を付けるような真似までは流石に躊躇われるのか。手を出すつもりはないようだ。
だからこそマサキは途惑いながらも、シュウの行動を待った。そう酷いことにはなるまい……広く深いグラスに盛られたロックアイスが、ほら――というシュウの声とともに抓み上げられたかと思うと、捲り上げられたシャツの下で尖っている乳首に当てられた。
冷えた感触に、う……と、マサキは声を上げて身を竦めた。
冷たいと口にすれば、少しの辛抱ですよとの返事。そうは云われても氷を当てられているのだ。じっとしていようにも、身体が勝手にしなってしまう。そんなマサキの姿を見下ろしながら、ゆっくりと。シュウがロックアイスの先端でマサキの乳輪をなぞり始める。
ひくり、と震えてしまう身体。
肌の熱でじんわりと溶けてゆく氷の感触は、やがてマサキをその行為に夢中にさせた。触れるか触れないかの距離。さわさわと乳首に触れてくるロックアイスは、まるで冬の行為の最中のシュウの肌の温もりのようにも感じられる。乳輪をなぞっていたかと思えば、乳首を撫で上げ、そしておもむろに乳頭を突いてくる。右の乳首をそうして嬲っていたかと思えば左。冷えて感度を失った頃合いを見計らって嬲る場所を変えるロックアイスに、身悶えては右、腰を跳ねさせては左。それはいつかのシュウの愛撫にも似た動きで、執拗にマサキの乳首を嬲った。んん、ぅん……その都度、マサキの胸を濡らしてゆくロックアイス。なだらかな身体のラインを伝い落ちる溶けた氷の残滓がベッドに滲みる頃ともなれば、マサキの口元は緩みがちになっていて、
――あ、あぅ……っ……
くぐもった喘ぎ声。いつしかマサキの男性器は、服の上からでもわかるまでの昂りを見せていた。そこにシュウの手が伸びてくる。我慢の利かない子ですね。そう云ったシュウが、マサキに考える暇も与えずに、下着ごとズボンをずり下ろしてくる。露出する男性器。どうしようもなく膨張している男性器は、少しの刺激でもその精を吐き出しそうだ。
――あ、ああ……っ!
切なげに汁を吐き出している亀頭の先に、容赦なく押し当てられるロックアイス。瞬間、衝撃がマサキの身体を貫く。落ち窪んだ先端を押し開くように、ロックアイスが何度も捩じり込まれる。痛みとも快感とも付かない感覚に襲われたマサキは、腰を逸らせて声を上げた。やめ、シュウ。やめろって。腕を掴んで抵抗するマサキに、まだですよ。シュウがそう囁きかけながら、亀頭の膨らみへとロックアイスを滑らせていく。無理、無理。マサキは声を上げて何度も抵抗を試みた。けれどもそれで云うことを聞くような男でもなし。行為にあっては信じられないまでの強引さを見せる男は、この場にあってもその態度を崩そうとはしない。
陰茎から陰嚢、そして孔を開いているアナルの窪みまで。マサキの抵抗を跳ね除けて更にロックアイスを滑らせてゆくシュウに、あ、あ、あ。凍るような冷たさに肩を竦めながら、マサキはその腕を引き剥がそうともがいた。びくともしない腕。何度も、何度も、何度も。繰り返し抵抗を試みてみるも、やはりシュウの腕はぴくりとも動かない。絶望的な気分になりながら、マサキはシュウの腕にしがみ付いた。仕方なしにその愛撫に身を任せる。
ひんやりとした感触が陰茎を滑ってゆく。温度こそ異なるものの、舌で舐め尽くされているようにも感じられる感触。そうこうしている内に、どうやら氷の冷たさに慣れてしまったのだろうか。ああ……と、マサキは自らの男性器から菊座を満遍なく刺激するロックアイスの動きに、マサキは反応せずにいられなくなった。溶けた氷が股間を濡らすようになって少しすると、それが緩衝材代わりとなったのか。それとも冷や過ぎて感覚が麻痺してしまったのか。それまでとは異なる冷ややかさ。温くさえ感じる刺激に、マサキはひく、と身体を震わせた。
そうなれば後は堕ちるだけだ。アナルの窪みを擦られたマサキは、はぁ……ああ……と、甘ったるい声を上げて腰を振った。痺れるような快感。少し先を押し込まれるのが堪らない。もっと奥に咥え込みたい。そのもどかしさがより一層、マサキの男性器を熱くした。
「気持ちよくなってきたでしょう、マサキ。あなたの好みそうなプレイだと思ったのは、間違いではなかったようですね。痛みと快楽。そして、シチュエーション。三つ揃ったプレイがあなたはお好みのようだ」
陰嚢が縮み上がるような冷たさに晒されている筈なのに、快感を覚えずにいられない。異常な環境に在りながら、その行為にマサキは酔いしれてしまっていた。あっ、ああ、ああ。ロックアイスが肌を滑る。ああ、ああ、シュウ。再び亀頭の先端に押し当てられたロックアイスが、今度はじっくりと時間をかけてマサキの男性器を責め始める。
小さくなれば次、そうしてまた次と、消費されてゆくロックアイス。無条件に感じていられたのは僅かな時間だった。段々とマサキの男性器の感覚が失われてゆく。股間にある筈のものが無くなってしまったかのような感覚。まるで自分の身体が雄ではない何かに変えられてしまったかのようだ。
これでは反応のしようもない。
自然と反応が鈍くなるマサキに、シュウはようやくロックアイスを手放した。そうして空いた手をポケットの中へと差し入れると、運針用の針の三倍はありそうな太さの針が封入されたパッケージを取り出してきた。な、に……? 長く喘がされたマサキの身体は心地良い倦怠感に包まれていたけれども、それさえも一瞬にして醒めきるような衝撃。その針を一体何に使うつもりなのか。マサキは怯えずにいられない。滅菌処理のされた針ですよ。嗤いながら答えを口にしたシュウが、パッケージを破って中身を取り出す。そして右手に針を抓んだシュウは、感覚の無くなったマサキの男性器に左手を伸ばしてきた。亀頭と陰茎の境目にある一番膨らんだ部分の皮が抓まれる。大丈夫ですよ、一瞬で済みますからね。その言葉にまさかとマサキは目を見開いた。
まさか、そんなことが――と考えきるより先に、何とも表現し難い音を立てて、針は皮を貫通していた。冷え切った男性器の感覚は失われたままだったし、針が通って尚、痛みを感じることすらないままだったけれども、男性を男性たらしめている象徴《シンボル》に針を立てられたという現実は、少なからずマサキにショックを与えた。何で、何で。血を流している自らの男性器を目の当たりにすれば混乱もする。壊れた蓄音機のように言葉を重ねるマサキにガーゼで流れた血を拭き取ったシュウが、特注品ですよ、と両端に光り輝く小さな石をあしらったピアスらしき物体を片手に、それを掲げてマサキに見せてくる。そうして、さもそれが当然の権利とばかりに、今開けたばかりの穴へと嵌め込んでくる。
まるで誂えたようにぴったりと嵌まるピアスが、寝室のライトの光を受けて煌めいた。
純銀製のダイドー・ピアスですよ。云いながらマサキの男性器に消毒を施したシュウに、ダイドー・ピアス? 思考が上手く働かないまま、マサキは尋ねていた。性器に嵌め込むピアスの一種ですよ。綺麗でしょう。何故、どうして、そんな問いは無意味とばかりに淡々と傷痕の処置を進めているシュウは、次いでマサキの男性器にコンドームを被せてきた。
「後で殺菌用の石鹸と、傷痕の保護用にコンドームを渡しますよ」
そしてしげしげと、芸術品を鑑賞するような目つきでマサキの男性器に嵌まったピアスを見詰めてくる。何で……答えなど得られないに違いないと思いながらも、マサキは再びシュウに尋ねた。何で、こんなことを。
「あなたを私のものにしたかったからですよ」
ぞっとするほどに美しく、そして非情な眼差し。紫水晶を思わせる瞳が暗く輝いている。性行為《セックス》には影響はないとはいえ、その性器をあなたは他人の目に晒せますかね。そうしてさも愉し気にふふ……と嗤ったシュウは、マサキの頬に優しく手を添えて口付けを落とした後に、ピアスを外しても痕の残るその性器を、と続けた。
「いつ、俺が他人にわざわざ見せるって云うんだよ」
「あなたの周りには、あなたを独占しようとする女性が複数いますからね。いつ間違いを起こさないとも限らない。それにそれは女性に限った話でもなさそうだ。そうした誘惑に、いつあなたが転ばないとも限らないでしょう」
「そんなこと、ないに決まってるだろ」
徐々に熱を取り戻し始めた男性器に、今更ながら感じる鈍い痛み。自らの選択で付けられた傷ではないだけに、遣り切れない思いが残る。マサキは眉を顰めながら、勝手に付けられたピアスをコンドームの薄い膜越しに眺めていた。
膜の下からでも光り輝いてみせる石の煌めきは、まるでシュウの汚れなき心の有り様を表しているようだ。マサキははあ……と溜息を洩らした。執着心の強い男だとは思っていた。それがこれほどとは。怒りたい気持ちはあれど、歓びを感じてしまっている自分もいる。自らの心を上手く整理できないマサキに、シュウはその端正な面差しに不釣り合いなまでに嗜虐的な笑顔を浮かべてみせた。
「私はね、マサキ。二度と他人に裏切られたくないのですよ」
呟くように言葉を吐いたシュウは、何事もなかったかのようにマサキに服を着せ始めると、お茶にしましょう、マサキ。短くとも二ヶ月は性行為は控えた方がいいらしいですからね。揶揄うように言葉を継ぐと、マサキの手を引いてベッドを後にしてゆく。
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