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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

夜離れ(18)
やっぱり年齢なんですかねえ。三十路の頃は毎日打てていた二千字が、今となっては……
凄い疲れがどっと出るんですよ。体力つけないとと思うのですが、体力をつける為に運動をしていると、打つ時間が削られるというジレンマ。
 
本日は1300字程度。しかもこの場面、まだ続きます。
そりゃあここを書きたくて、今まで我慢に我慢を重ねて前置き打ってきたんですもの!
夜離れ(18)
 
 ひとつ噎せてはじわりと、またひとつ噎せてはじわりと、酔いが身体に広がってゆく。酩酊するほどではないにせよ、火照りだす身体。たった一口でこれなのだから、一杯でも飲み干した日には、前後不覚に陥れるに違いない。
 顎を掴まれて、二度、三度と。
 口の中に流し込まれる液体を、都度、無言でマサキは飲み干した。このまま酔いつぶれてしまえばいいのに。頭の片隅でちらとそんなことを思った。そうすれば、厄介な絡み方をしてくる彼の答えに窮する問いの数々に答えずに済む。それだけではない。その問いの意味するところを考えずにも済むのだ。
 四度目、五度目。
 次第に長くなる彼が口唇を合わせてくる時間に、そしてそれを何ら違和感を感じずに受け入れている自分に、マサキは久しぶりにこう思った。抵抗しきれない自分の弱さが恨めしい――こんな気分にマサキがなったのはいつぶりだろう。
 六ヶ月。長かった日々を振り返る。他愛なくも代わり映えのない日常生活しかない日々は、何ひとつ、マサキに強烈な記憶を残していてくれなかった。
 急速に酔いが回る。回って、どうでもいい。マサキは緩く口唇を動かして、彼の開いた口唇の奥に舌を差し入れた。その肉厚な舌に舌を這わせ、滑らかな口蓋を舐め上げる。それを笑うでもなく、茶化すでもなく、ただすんなりと受け入れた彼の舌に、次の瞬間、マサキは絡め取られていた。
 初めてあの男と口付けを交わしたのはいつの日だっただろう。遠い昔のことになってしまった。倒すべき敵な筈のあの男が、やけに自分たちに近い存在なように感じられたものだから、マサキは迂闊にも警戒心を解いてしまったのだ。不意に触れた口唇に、身動きを封じる腕に、マサキは驚いて、他に抵抗する術を知らなかったものだから、その口唇を噛んだものだった。
 もう、そんな子供ではなくなったのだ――過ぎた歳月を物悲しいものとして振り返りながら、マサキは口唇を深く合わせて、舌を絡ませる。
 お互いの吐息が合間|々々《あいま》に口の端《は》から漏れる。口唇を離さずに、長く口付けを続けるのは、簡単なように見えて難しい。マサキはそっと口唇をずらして口の端で息を吸い、本能的な衝動に突き動かされるがまま、彼の肩口から背中に腕を回した。
 首の後ろから、頭へ。柔く、猫っ毛なきらいのある髪の毛の中に指を差し入れて、しなる腰を支える彼の腕に身体を全て預けながら、六ヶ月の空白を埋めるように貪欲に。
 ――これで間違っていたら、俺は俺を嘲笑《わら》ってやる!
 どれくらいそうしていたかはわからない。それは一分一秒だったかも知れないし、あるいは十分二十分だったかも知れない。いずれにせよ、こんなに丁寧で情熱的な口付けを交わすことはそうなかった。
 だからなのだ。
 悲しい予感がしている。
 いつだって、そう、あの男は奪うようにマサキの口唇を塞いだ。従属を強いるように、常に反発を繰り返すマサキを押さえ付けた。抵抗と諦めを繰り返しながらも、マサキがそれに付き合い続けたのは何故なのか。
 答えなんてわかりきっている。
 わかっていても、それを認め難く感じていたのは、流された血の量だけではなく――常に尊大な存在感で以《もっ》て、あの男の両脇に控え従う二人の女性の姿があったからだった。
 
 
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