恐らく本日の更新はここまで。
今までは出先とかでもメモ帳にテキストを入力したりしていたのですが、この先は濡れ場になりますので、流石に出先でメモを取るのは難しく、更新がちょっと間が空くのではないかと思います。
いやもうここまで来たからには一気に打ち切っちゃいたいんですけどねー。
今までは出先とかでもメモ帳にテキストを入力したりしていたのですが、この先は濡れ場になりますので、流石に出先でメモを取るのは難しく、更新がちょっと間が空くのではないかと思います。
いやもうここまで来たからには一気に打ち切っちゃいたいんですけどねー。
夜離れ(19)
それを疎ましく感じたことはない。女運のない男だと感じることもなくはなかったが、当人の性格が性格だ。あの人を物とも思わぬ冷ややかな態度に晒されても耐えうる精神を持っていられる女性というだけでも尊敬に値する。
それに、それはあの男に限ったことではない。自分にだって、また。
「口を開けて」
乞われたマサキは口を開いて、彼が抓んだナッツを口に含む。名残惜しそうに口唇に触れ続ける指先に、もう躊躇いは感じない。肩を引かれたマサキはされるがままに彼の腿に腰を乗せて、自らの足をソファに投げ出した。
「朝には区別が付く程度には見えるようになるのでしょうね」
「早くないか」胸に頭を預ける。
「もう四日が経っているのですよ。回復しなかったらその方が問題でしょう」
朝と比べても、手のひらサイズの小皿が色の塊として認識できるほどに、ぼやけた色の塊はその数を増やしつつあった。だからこそわかる。見えるようになるのは時間の問題だと。
「明日にはこちらを出て頂きます」
瞼周りをなぞる指。彼がマサキの見え始めた目を、惜しく感じているのが伝わってきた。
「そっか……まあ、予想はしてた」
「思っていた通りだった?」
「そろそろだろうとは思ってたよ」
もし、彼がマサキに語って聞かせた逗留の理由が真《・》実《・》な《・》ら《・》、今の彼はセニア側の人間として廃鉱調査に動いていることになる。どこまでの範囲の人間が彼らの実情を知っているのかはさておき、その中心にいるのが王家であることだけは間違いない。そうである以上、彼は今現在、王家の介在なしに、自分たちとの接触を見られていい立場では――ないだろう。
「言いたいことがあるのならば、言ってもいいのですよ」
「お前は、誰だ」
どうせ答えなど得られないと思いつつ、確証の欲しいマサキは彼に問い掛ける。
「あれだけ長いキスを仕掛けておいて、言っていい台詞ではないですね」
「ほらな」案の定な返答に、胸を小突いて、「そんなことだろうと思ったよ。この卑怯者」
「他には?」
目元をなぞっていた指先が頬を伝い、首筋をなぞって鎖骨を這う。
「人の話を聞いてやろうっていう態度じゃねぇな」
「話があるなら聞きますよ。なければ――」
シャツの中、ひやりとした手の感触が、直接素肌の上から腰を抱える。耳元を舐め上げる舌。早速とばかりに空いた手が、シャツのボタンを外そうとするのを、片手でマサキは押し止めながら、
「その前に、奥方様と筆頭女官様はお仲良くお元気でやっていらっしゃるのかって話だよ」
「女性という生き物はこちらの予想を遥かに超える逞しさで生きている生き物ですよ。流石、命を賭して子を産み育てる性《さが》だけある」
「小難しい言い回しをすりゃいいと思いやがって」
「どちらも元気ですよ。とても賑やかに日々を壮健に過ごしています」
勿論、お腹の子も――と、付け加えるように耳元近くで囁かれて、マサキはぴくりと身体を震わせた。
「それならよかった」
セニアが言っていた通りに、彼らの間では特に諍いは起きていないのだ。眉が顰む。自分でも微妙な顔をして笑っているとマサキは思った。泣いてしまいたいのに、涙が出ない。それが己のちっぽけな自尊心《プライド》の所為なのか、それともそれだけ諦めの境地に至ってしまったからなのか、マサキにはわからない。
「言いたいことはそれだけですか」
「過ぎてしまったことをどうこう言っても始まらねぇよ」
その瞬間に、強く抱きしめられて、呼吸が詰まった。身を捩らされたまま、彼の腕の中。マサキは肩口に顔を埋めている彼の頭を、両の手のひらでそっと掴む。――責めてくれた方がよかった。そう声にならない声で彼が呟くのを端近で聞いて、マサキは胸の内、だったらするな、とだけ届かぬ想いを呟いた。
まるで大きな子供だ。
そう思いながら、アルコール臭い彼の身体を抱き締める。
何を考えて彼が子をもうけようと思ったなど、マサキに思い到れる答えはひとつしかない。その嫌な予感が決して当たることのないようにと祈りながらも、きっと自分のこの嫌な予感は当たってしまうのだろう――そしてそのときの自分たちは、やはり敵味方として道を分かつしかないのだろう、マサキはそう思わずにいられなかった。
「ちゃんと俺は止めたつもりだったんだけどな」
首筋を舌が這う。ゆっくりと耳元に這い上がってくる熱を帯びた温もりに、マサキは首を竦めて、
「酔った戯れにすりゃあいいと思うなよ」
「酔わずにできることでもないでしょう」
腰に背なに、ぞくりと快感が染み出してくる。「お前の|そ《・》れ《・》は、良心なんだか悪意なんだかわかりゃしねぇ……」耳元に、舌。腰元に、腕。胸元には指先が充てがわれ、マサキの意識はぼんやりと。
「小心者なのですよ」
「小心者が聞いて笑う」
そして、与えられる快楽だけを追い始めるその刹那に。
――あなたが女性だったら良かったのに。
「そうだったとしても、俺はお前の子供は産まねえよ」
聴こえた言葉を笑い飛ばして、マサキはそうっと首をずらすと、その口唇に口付けた。
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