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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

虹の七色でのんびり拍手お題(紫):パルフェ・タムール(完全なる愛)
旧拍手ネタです。
この一群の作品はタイトルありきで書いたのですが、それもあってか、一番やっちまった感の強い話となりました。もう顔から火が出てるのですが、これだけ載せない訳にも行かないので……


<パルフェ・タムール(完全なる愛)>

 整然と煌めく地上の明かりを遥か眼下に見下ろすラウンジで、窓際のカウンター席に座っていた。目の前には菫色のカクテルが二杯。それなりに飲む機会がある割には、カクテルの種類にまで詳しくないマサキは、不釣り合いな場所に居ることを自覚しながらも、
「そういや、モニカはどうしたんだよ」グラスを合わせながらシュウに尋ねた。
「モニカ、ですか」
「もう忘れたとか云わねえよな。こないだのアレだよ、アレ。凄い殺気立ってたたんだぜ、あの姫さま」
 ああ、と頷きつつも、先ずはひと口。レモンのさっぱりとした口触りが如何にも初心者向けな甘いカクテルを、水を飲むように咀嚼してゆくシュウに付き合って、マサキもまたカクテルを飲んだ。
「彼女の機嫌を取るのは意外と簡単なことですしね。あなたが気にするほどではありませんよ」
 釈然としないながらも頷くしかないマサキに、尤も、機嫌を損ねるのも簡単ですけど。そう続けたシュウは、呆気なく一杯目のカクテルを飲み干してみせると、呼び付けたウエイターに次のカクテルをオーダーした。
 夢一夜を二杯。当然のようにマサキの分も注文してみせるシュウに、お前のペースに付き合ったら潰れる。マサキはまだ半分ほどしか減っていないグラスを掲げてみせたものの、それで止まるような男ではない。ほら、次が来ますよ。微笑みながら云ってのける。
 一杯目のカクテルは底の深いコリンズグラスに注がれたロングショット。カクテル名を尋ねたマサキに、ポピュラーなカクテルですよ。シュウはそう前置きして、バイオレット・フィズ――と、マサキがまだ飲み干せずにいるカクテルの名を告げた。
 そこから数杯、杯を重ねた。
 賞味期限が十五分しかない夢一夜、美しい紫色が印象的なダブル・パーフェクト、酸味の効いたブルームーン、とろけるような乳白色に澄んだ透明色、輝度の高い紫に鮮やかな赤と四つの層も美しいエンジェルズ・デライト……次第に酔いが回ってきたのだろう。薄暗い店内の視認性の低さも手伝ってか、シュウの手がマサキの指先を弄び始める。それをマサキは窘めることをしなかった。通りかかるのはウエイターのみ。カウンターには数組の客がいたものの、カップルと思しき彼らは自分たちの世界に浸っている。
「何だか、どのカクテルも色味が似てるな」
 スパークリング・パープル、オーキッド、そしてまるで彼の瞳の色ような色味の紫水晶。続けて杯を重ねたマサキは、そろそろ足元が覚束なくなりそうな酩酊感の中、シュウの肩にしなだれかかりながら、窓の向こう側に広がる百万都市の夜景にぼんやりと視線を這わせていた。
「今日のカクテルには共通点があるのですよ」
「色だけじゃなく?」
 舌足らずな語り口調になってしまっている自らに、マサキはそろそろ飲むのも限界と、まだまだ杯を重ねるつもりらしいシュウがウエイターを呼び付けようとするのを止めた。なら、場所を変えましょうか。マサキの指先を弄んでいた手が、そろりと腰に回ってくる。
「何だよ……話の続きはないのかよ」
 力の上手く入らない身体を腕一本で支えながらマサキを立たせたシュウが、こうした事態を見越していたかのように、下に部屋を取ってありますよ。マサキの耳に囁きかけてくる。微かに残った理性はそこで何が起こるかを明確に伝えてきていたものの、所詮は酔いの回りきった脳の判断力。シュウの言葉にただ頷いたマサキに、
「話の続きはそこでしましょう、マサキ」

 部屋に入るなりドアに押し付けられるようにしてシュウに口付けられたマサキは、いつもより深く口内を探ってくるシュウの舌を自らの舌を絡めゆくことで迎え入れた。それを同意と受け取ったのだろう。そのままシュウはマサキの身体を抱え上げると、ベッドへと運び込んでゆく。
 カーテンの開いたままのホテルの一室。都会の眩いイルミネーションが瞬く中、ベッドに沈められたマサキは、早急にも下だけを脱がせにかかってくるシュウの手に逆らうことなく、衣服を取り払われた脚を開いた。欲しいの? 尋ねられては頷く。だったら伏せて。云われてベッドに胸を沈め、彼の手に誘われるがまま腰を掲げた。
 直後に体内に入り込んでくる熱い肉の塊。昂ったシュウの男性器《ペニス》を菊座《アナル》の奥に受け入れたマサキは、その動きに合わせて声を上げた。ああ、ああ、ああ。たった四十分の逢瀬。あれから顔を合わせることなく過ぎた日々。その空白を埋めるように、マサキは腰を振った。
 決して会いに行くことが億劫だったのでもなければ、責務に忙殺されていた訳でもない。マサキと過ごすこともあるその居所に、シュウはモニカたちを立ち入らせている。わかってはいても、いざその現実を突き付けられると堪えるものだ。それでどうして軽々しく彼の許に足を運べたものか。そう、マサキは自らの行いで心を乱されているモニカを目の当たりにしてしまったことで、自らとシュウを取り巻く環境について考えざるを得なくなってしまったのだ。
 その鬱屈を晴らすようにマサキは腰を振った。はあ、ああ、シュウ。そうしてその名を何度も呼んだ。腰を支えていたシュウの手が腹部へと回り込んでくる。起こされた身体。その均衡《バランス》を保つべく、マサキはシュウの頭に手を回していった。
「どうして私に誘われるまで会いに来なかったの?」
 肩に置かれたシュウの頭。全てを見透かしているように感じられる瞳が、痴態を晒すマサキの顔に向けられる。そんなこと……マサキはそれ以上、言葉を続けられなかった。わかってるくせに。そのひと言を飲み込んで、吐息混じりの喘ぎ声を吐き出した。
「ほら、云わないとお仕置きですよ」
 シュウの腰の動きが止まった。次いで、シャツの中に忍んでくる手。それが胸に置かれたかと思うと、しなやかに動き回る指先が乳首をなぞり始めた。弄られれば弄られただけ上向くようになっていった乳頭。天を仰ぐまでになった乳頭が、シュウの仕掛ける愛撫に応えるように震え出す。
 馬鹿、やめろって。触られるだに股間に感じるもどかしさ。離れたふたつの性感帯は、まるでひとつの神経で繋がっているような感覚をマサキに齎した。
「ここを弄られるのが好きな割には、いつも最初は嫌がってみせる。どうして、マサキ? 気持ちいいのでしょう。ねえ、聞かせて。どうして私に会いに来なかったの?」
 やだ、やだ。マサキは首を振った。そこでイカされるのは嫌だ。
「なら、腰を振ってみせるのですね。先程のように」
 耳朶を食《は》んだシュウは、マサキの菊座《アナル》に収めた男性器《ペニス》を抜くこともせず、乳首ばかりをしつこく弄ってくる。ああっ、ああっ。貫くような快感に襲われながら、マサキはがむしゃらに腰を振った。訳がわからなくなるような快感が全身に襲いかかってくる。はあっ、ああっ。背をしならせ、腰を浮かせ、シュウの男性器《ペニス》をより深く受け入れていくマサキに、そんなに理由を口にするのが嫌? シュウは小さくも声を上げながら笑った。
「ああ、やだ、やだ。お前も動けよ、シュウ」
「私が動いてはお仕置きになりませんよ。自分で達《い》きなさい、マサキ」
 乳頭を擦っては、乳輪をなぞる。触れるか触れないかの位置で、マサキの乳首を様々に刺激してくるシュウの指先が刻む律動《リズム》。それはマサキが身体の奥にシュウの男性器を引き込めば激しくなったものだったし、蕾間際の浅い場所に引き抜けば柔くなったものだった。はあ、はあ、シュウ。喘ぎ声を発するマサキの口の端から涎が零れた。快楽に溺れてわななく口唇は、その合わせ目を結ぶことさえも難しくさせている。
 ――あっ、あっ。イク。このままじゃイク。
 マサキはひたすらに腰を振った。より深く、より奥へと、熱き肉の塊を引き込む為に。
 けれども、満たされない感情が胸の奥で燻ぶっている。肛虐の果てにある絶頂《オーガズム》。望んだ快感は目前に迫っていたものの、それはマサキのひとり相撲――自慰に等しい快感でしかない。長い空白。会わなかった日々の分も含めて、マサキはシュウによって与えられる絶頂《オーガズム》を求めていた。
 ――はあっ、ああっ。イク、イクって、シュウ。
 わかっていることを敢えて口にさせる彼の遣り口は知っている。それに乗ってみせればいいだけのこと。これまでのシュウとの付き合いで、マサキは充分過ぎるほどにそれを思い知っていた。それなのに。
 自分は何を意地になっているのか。マサキ自身も掴みきれない抵抗感が、マサキの口を頑なにさせている。
「そんなに、あなたは私が彼女らを自分の家に立ち入らせるのが嫌?」
 次の瞬間、そうシュウに囁きかけられたマサキは、物わかりのいい振りをしていただけの自分の醜い嫉妬心に気付かされたのだ。
 マサキがシュウの家に出入りするより先に、シュウの家に出入りをしていた彼女ら。シュウにとって彼女らは空気に等しい存在だ。あって当然。改めて気にかける存在でもない。だからマサキは自らが抱いてしまった感情に蓋をした。
 それは、シュウがマサキに向けているような感情を、決して彼女らには向けないということを意味している。
 わかっているからといって割り切れるものでもないのが、人間の感情だ。シュウの指摘を受けたマサキは狼狽えた。どう応じればいいかわからない。ねえ、マサキ。嫌なの? 重ねて問いかけてくるシュウに、別に……そうとだけ口にするのが精一杯なマサキは、自らの隠していた感情をシュウに気取られないように、腰を振ることに専念した。
 そうして果てた。
 飛び散った精液がシーツに点々と跡を残している。強情な人。可笑し気に笑ったシュウの手から解かれたマサキは、ぐったりとベッドに身体を沈ませた。
「最初の頃は挿入《いれ》られるのを嫌がっていたのに、今はこんなに欲しがるようになって。そんなにここを犯されるのが好きなの、マサキ」
 シュウの手がマサキの上着にかかる。拙速に上半身から衣服を剥ぎ取ってゆく手。その股間ではいまだ猛り狂う男性器《ペニス》が反り返っている……マサキを裸に剥いたシュウは、自らもまた衣服の全てを脱ぎ捨てると、伏せているマサキの身体を仰向けになるよう返した。
 そうして足首を掴むと、脚を開かせてくる。
 夜のイルミネーションを受けて妖しく輝く紫水晶の瞳が、獰猛な光を孕みながらマサキを見下ろしている。続けて、筋の通った鼻梁。その下で薄く伸びている口唇が、ゆっくりとマサキを捉えて離さない言葉を吐く。
「なら、お望み通りに犯してあげますよ、マサキ。あなたが口を割ろうと思えるまで」

 窓際に据えられた一人がけのソファの上で、シュウの膝の上に向き合うように座らされたマサキは、果てしなく長い情交の終わりにようやく嫌だと声を上げた。嫌だ、嫌だ。俺以外の誰かがあの家に立ち入るのは嫌だ。そう言葉を発すると同時に、マサキですら意識していなかった涙がマサキの頬を伝い落ちた。
 それはシュウにとっても意外だったようだ。彼は咄嗟にマサキの身体を抱きすくめてくると、大丈夫ですよ。力強くそう宣言して、次にはマサキが言葉を発するのも難しく感じるほどに、その昂った男性器《ペニス》でマサキの身体を突き上げてきた。
 そうして、彼がマサキの中で果てるまで。壊れた人形のように身体を震わせながら、シュウに付き合わされ続けたマサキは、ようやくその終わりを迎えると同時に、力なくシュウにしなだれかかっていった。
 酔いはとうに醒めていた。
「お前……大丈夫って、何が大丈夫なんだよ」
「もう彼女らを家には入れませんよ。あなたは好きなだけ私物を持ち込めばいい。それでは不満?」
 いいや。マサキは首を横に振った。
「なら結構。あなたに不満を抱かれるのは、私の本意ではないのでね」
 思うところは他にもあれど、さりとて、マサキとてその側近くに自分を恋い慕う女性を置いている身。これ以上の我儘は暴虐でしかない。マサキはシュウの肩を食んだ。うっすらと肌に残る紅斑。彼をこうした意味で所有していいのは自分だけだ。その証を刻んだマサキは、そうしてシュウと繋がったまま、窓の外に広がる夜景を眺めた。
 聳《そび》え立つビルの群れ。商業用のビルも多いからだろう。窓の明かりが消えている所も多い。それでも、幾つかの窓の奥には動き回る人影が窺えたものだ。彼らからはこちらの光景も窺えることだろう……その事実に幾許かの羞恥を感じたものの、それで離れてしまえるような関係であれば、こうした扱いをそもそも受け入れはしない。
 マサキはシュウに口付けた。
 シュウはそれを当然のように受け入れている。飽くことなく続く口付けは、マサキの気持ちの表れである。それに彼が気付いているのか、いないのか。マサキにはわからない。けれども次第に長さを増してゆく口付けや性行為の時間が、シュウの気持ちの変化を雄弁に物語っている――マサキにはそんな気がしてならなかった。
 完全なる愛。口付けを終えたシュウが、マサキの顔を確りと瞳に捉えて云った。何が、とマサキが返せば、
「今日のカクテルに使われていたリキュールの名前ですよ」
「まさか、全部それだったって云わねえよな」
「全部に決まってるでしょう。|パルフェ・タムール《完全なる愛》。あなたと飲むのにこれ以上の酒は見付かりませんよ」
 なんだかなあ。マサキは呟いた。気恥ずかしさと嬉しさと、けれども呆れる気持ちと。入り混じったそれらの感情をどう処理すればいいのかわからずに、照れ隠しの言葉を吐く。
「そんな大層な関係かね」
「当然でしょう。パルフェ・タムール。誓いますよ、マサキ。あなたは私の唯一の人だ」
 時に気障が鼻に付く男は、衒うこともなく至極当然と口にしてみせると、ほら、ベッドに行きましょう。今だその肉の塊を抜き取ることもせず。マサキの身体を抱え上げると、ベッドへと運んでいった。


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