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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

勘違いの輪舞曲(5)
シュウにボケ役をやらせることの難しさを実感しました!
 
ということで、それ以外の部分で遊びまくることにしました。いや、これ、ギャグでいいんですよね?っていうかギャグにするしかないリクだと思ってやっているのですが!真面目な展開をお望みでしたら申し訳ございません汗
 
本当は昔「ちっちゃいの」でやったようなゲームブックを作りたかったのですが、諦めました。笑 分岐はここだけです。いずれまたゲームブックを作りたいですねえ。そう思って、スマホ用ゲームブックサイトに登録したこともあったのですが……パラグラフ管理が面倒で汗

ぱちぱち有難うございます!励みになります!(*´∀`*)
<勘違いの輪舞曲>
 
 モニカの溜息の理由は直ぐに知れた。
 とにかくシュウが譲らないのだ。地底人であるモニカが相手では、その知識に疑いを挟みたくなるもの止むなしと思えたものだったが、生粋の日本人であるマサキに説明されても、「この人形で正しい」と引こうとしない。その頑固さは、わかっていて引くに引けなくなっているのでは? とマサキに勘繰らせるほどだった。
 世間話や雑談には普段通りに応じてくれる。むしろ、年末年始の慌ただしさから解放された分、饒舌になったと感じられたぐらいだ。それだのに。市松人形のこととなると途端に態度がおかしくなる。確かに、これではモニカが溜息を洩らしたくなるのも無理はない。頑固を通り越して頑迷ですらあるシュウの態度に、マサキはそう思ったものだった。
 市松人形の実物は、シュウが日常の大半を過ごしているリビングの一角に、これ見よがしに飾られていた。白地に華やかな花模様の着物を身に纏った、おかっぱ頭の市松人形。古道具屋で入手したとは思えないほどに程度のいい人形は、白塗りの肌も色鮮やかに、澄ました表情で棚の上に鎮座していた。
 シュウの態度もおかしければ、この市松人形にもおかしいと感じられる部分があった。
 マサキが会話のついでに何気なくその人形に触れようとした瞬間、上体が揺らいだのだ。まるで触られるのを嫌がっているような態度にも映るタイミングでの動きに、マサキは思わず出した手を引っ込めてしまった。その直後、姿勢の崩れた市松人形を、シュウは大事そうに自らの手で直していたものの、腑に落ちない。
 で、マサキとモニカがどうしたのかというと、ふたりで小声で話し合った結果、一晩シュウの様子を窺おうとなったのだ。
 午後も大分過ぎてからシュウの元を訪れて、そこから喧喧諤諤《けんけんがくがく》。雛人形はこれだ、これじゃないと三人で繰り返したり何だりで、話にひと段落付く頃には夕餉の時間。日常の食に関心の薄い男に栄養摂取をさせるという大義名分を掲げて、マサキはモニカとふたりでキッチンに立ち、冷蔵庫の中の貧相な食材を使って料理をし、それなりに形の整った料理が並んだ食卓を三人で囲んで和やかな時間を過ごし、「今日はもう遅いですし」と泊まっていくように勧めるシュウの言葉を引き出し、その言葉に甘える形でシャワーを済ませてモニカとそれぞれ客間に身を収めた。
「……サキ、マサキ」
 そして夜半。すっかり寝入っていたところをモニカの呼び声で起こされたマサキはベッドの上、慌てて飛び起きた。薄暗い客間。廊下から細い明かりが差し込んでいる。ベッド脇に立っているモニカの表情は、光を背にしているからか、はっきりとは目にできない。
「お前な、仮にも元王女だろ。ずけずけと男の寝室に入ってくるなよ」
「ドアをノックしたのですけど、返事がなかったものですから」
「で、何かあったのか?」マサキはベッドから出る。
「さっき身体に重みを感じて起きたら、胸の上にあの人形がいたのです。話し掛けてみたのですが、その瞬間に姿を消してしまって……」
「冗談だろ……」
 マサキの背筋を冷たいものが伝った。だとすれば、先程、マサキが人形に触れようとした瞬間の避けるような動きも、人形の意思で行われたということになりはしないか? 「真冬のホラーとか冗談じゃねえ。お前の見間違いじゃないのか?」
「冗談を云っている場合ではないことぐらい承知しているのですわ。だって、あのシュウ様の態度ですもの。あの人形には何かあるに違いありません。ちゃんとこの目で見ました。触れなかったのが残念ですけど――」
 そこでモニカは言葉を途切れさせた。視線はマサキを通り越して、背後にある。「マサキ、あれ……」まさか、と思いながらマサキは振り返った。
 鋭い光が、窓際に煌いている。
 ひぃ。マサキは思わず声を上げた。おかっぱ頭の市松人形が、どこから持ち出したものやら、フォークを片手に窓辺に座っている。この状態で怖いの怖くないのと云ってもいられない。「モニカ、出ろ!」マサキの声と同時に、ふわりと市松人形が宙に浮いた。
 モニカを部屋から押し出し、マサキも続いて部屋から出る。ドアを閉めると同時に、ガン! と、恐らくは人形がドアに体当りする音が響いた。何が原因かはわからないが、マサキとモニカはあの市松人形の機嫌を損ねてしまったようだ。ガン、ドンッ、ガガンッ……そこから暫くの間、立て続けにドアが鳴る。
「王宮の人形もこんなんだったんじゃねえの!?」
「あの子はこの人形とは違うのですわ! ちょっとお茶目だっただけです!」
「普通の人形はお茶目で夜中に徘徊しねえんだよ! ついでに云うなら、お茶目で髪も伸びねえ! っていうか、シュウは何してんだよ? この状態で寝てんのか?」
「そうですわよね、マサキ! この状態を目の当たりにすれば、シュウ様も考えを改めてくださるかも……! こんな動きをするのものが雛人形の筈がないのです!」
「雛人形も何も元々市松人形だっつうの!」マサキはそこで、おや、と目を瞬かせた。「……って、静かになったな?」
 いつの間にやらドアの鳴る音が止んでいる。諦めたのだろうか? マサキは客間の中を確認したい衝動に駆られたが、万が一ということもある。こちらの様子を窺って、動きを潜めている可能性も捨てきれない。
 マサキはドアを開けると同時に人形が飛び出してきてもいいように、ドアの影に隠れるようにして、ドアノブに手を掛けた。
 トン……トン……トトン……。
 廊下の奥からこちらに近付いてくる物音がしたのは、その刹那。どうやって部屋から出たものか。キラリ。鋭い光りを走らせながら、廊下の奥から人形が姿を現す。黒々とした髪の下から、切れ長の瞳が憎々しげにマサキたちを見据えている。フォークを片手にした人形は、マサキたちがその存在に気付くと同時に、床を滑るようにして猛スピードでこちらに向かってきた。
「マサキ!」
 こうなったら壊すしかない。マサキは覚悟を決めた。あの入れ込み具合だ。シュウは怒るに違いないだろうが、こうまで明確な悪意を向けられて、マサキが大人しくしている必要がどこにあるだろう。「モニカ、お前はリビングへ!」腰を落として、マサキは人形に向き合った。両者の間は残り一メートル。人形が飛び上がる。マサキは拳を構える。
 カラン……。
 マサキがその拳を人形にぶつけようとした瞬間だった。「は……?」床に転がるフォークだけを残して、まるで掻き消されるようにして人形は姿を消した。
 
 その後、マサキはモニカと一緒に家中を探したものの、人形の姿はどこにも見当たらなかった。そこから朝までまんじりとしない気持ちでリビングで過ごし、それでも疲れからか、うとうととしかけた頃にシュウに肩を揺さぶられて起きた。
 人形はリビングの棚の上に、当然といった表情で鎮座していた。
 夜中に動くのみならず、フォークを突き出してくるような人形など、手元に置かせておいていい筈がない。マサキはモニカとふたりでシュウの説得に当たったものの、先ず昨晩の出来事からして信じて貰えないのだから、どうにもならない。
「怪奇現象というものは、脳の錯覚から生じるものなのですよ。例えば、こっくりさんなどはその最たるものでしょう。集団催眠とでも云えばいいでしょうかね」
 だったらそこにある人形が雛人形でないことぐらい認められるだろうと思いきや、こちらに関しても相変わらずシュウは譲る気が全くないようだ。「雛遊びが転じて雛人形となったのですから、これで正しいのですよ」と、わかるようなわからないような理屈を吐く。
 餅は餅屋だ。
 マサキは神官イブンを頼ることにした。古来より、霊障に対抗するのは聖職者と相場が決まっている。「それは困った事態になったのう」精霊が魔装機に宿る世界の話。無機物に魂が込もることは珍しくないことだとはいえ、人間に害意を持ってしまうことは稀なのだと云う。
「とはいえ、実物を見ないことには何とも……」
「つっても、シュウがあの調子だもんよ。人形を手放さないだけじゃなく、俺たちの云うことすら聞きやしねえ。なあ、婆さん。婆さんにシュウの所に行ってもらうってのは出来ないのか?」
「儂には神殿管理の仕事もあるのでな。ここを離れる訳にはいかんのじゃよ。良からぬ輩が神殿を不用に利用しないとも限らん。何とかしてお前さんが連れてくるんじゃな、マサキ」
 目先の小事よりも、間遠の大事。少しぐらいなら、とマサキは食い下がったものの、仕事に忠実な神官イブンが譲ってくれる筈もない。行き詰まったマサキはモニカとふたり、ゼオルートの館に戻ることにした。
「魔法で何とかなりませんか、モニカ様」
 館にはミオとテュッティ。プレシアは今日は友人たちと遊びに出掛けているのだという。いつも通りにリビングのテーブルを挟んで四人顔を揃えたところで、マサキがモニカとふたりで昨日から今日にかけての経緯《いきさつ》を説明すると、テュッティが云った。
「魔法、ですか?」
「魅了の状態にあると考えるのはどうでしょう?」
「成程。魔法で魅了の状態にされていると考えるのですね。それを解呪すればいいと……でも、シュウ様が相手となりますと、魔法で抵抗されるのは間違いないのです。わたくしどもの魔力は、調和の結界を維持できるレベルのものになりますので、一歩間違えば周辺地域に被害が……」
「そこは油断させるとか」ミオがクッキーを齧りながら云った。
 直後に顔を顰めた辺り、昨日のマサキと同じ轍を踏んだようだ。「油断ねえ。あいつがどうやったら油断するんだよ」流石に今日のマサキは、テーブルの上に置かれているクッキーに迂闊に手を出すような真似はしない。大人しく紅茶だけを啜る。
「寝込みを襲えば?」
「そういった気配には敏感だよな」
「だと思うのですわ」
「じゃあ、色仕掛け」
「まあ、はしたない……」
「それで油断すりゃ世話ないだろ」
「わからないよー。マサキがやったら流石に……」
「どういうことですの、マサキ?」不穏な気配を漂わせながら、モニカがマサキを睨む。「何でそこで俺に聞くんだよ! ミオに聞けよ、ミオに!」
「またまた、惚けちゃって」
 冗談じゃねえ。マサキはミオを睨んだ。口笛を吹きながら涼しい顔をしているミオは、「だったら正面突破か、どうにかして人形を壊すかの二択じゃないの?」しらと云ってのける。
「人形を壊すのは無理だろ。あの野郎、姿は消すし、逃げるし」
「じゃあマサキ、色仕掛けする?」
「何でそうなるんだよ! 正面突破だろ!」
「まあ、マサキに色仕掛けをされるくらいでしたら、あの辺りの土地が吹っ飛ぶくらい、大したことではありませんわよね……」
「いいの、マサキ? モニカに任せてたら、土地に穴が開くかも知れないけど」
 剣呑な台詞をさらりと口にしたモニカは、今だったら世界を滅ぼせるかも知れないぐらいの気迫に満ちている。そんなモニカの様子を不安げに見詰めているテュッティに、面白がっているミオ。他に方法はないのかよ、マサキがそう思った瞬間。ピローン。間延びした効果音と共に、テーブルの中央に選択肢が現れた。
 
┏ コマンド? ━━┓
┃→ 色仕掛け ┃
┃  正面突破 ┃
┗━━━━━━━┛
 
「って、何だよ。この選択肢はああああああああああ!?」
 
 
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