書き始めた時はもっと簡単に事に至れると思ったんですけど、私の書き込み不足ですね。これまでファングとマサキがふたりでいるところをあまり書いてこなかったからか、先ずふたりの距離感が上手く縮まらない。
それを何とかしようともがいている内になんとこんな文字数に。
中々、先に進まないふたりですが、そろそろどうにかなりそうです。
では、本文へどうぞ。
それを何とかしようともがいている内になんとこんな文字数に。
中々、先に進まないふたりですが、そろそろどうにかなりそうです。
では、本文へどうぞ。
<秘密>
ところで、とファングが手にしている酒の缶を投げて来る。「人を家に上げてそのまま帰すのもな」どうやら飲めと云っているらしい。缶を片手で掴んだマサキは、何度目かの溜息を吐いてプルタブを開けた。
「ちゃんと飯食って寝ろよ……まあ、いい。何かつまみになりそうな物はあるのか」
「お前が俺に買わせた食料を調理すればどうにか」
「だったら食わせてやる」
マサキは早速と缶に口を付け、酒を何口か飲むと立ち上がった。この状態で、酒を進めてくるとは思っていなかったが、考えてみればファングの体重を元に戻させるのに丁度いい機会。酒席のついでに食べ物を押し込んでやる。そう誓ったマサキは、立ったままで缶を開けようとしているファングを退《の》けた。そして冷蔵庫の扉を開く。大量に買わせた食料品は、必要な栄養やカロリーを取らせるのに十分な量だ。
「酒はどのくらいあるんだよ」
「缶ビールがシンクの下の棚の中に二ケースほど入ってる」
「何で酒がそれだけあって、食料がなかったんだよ」
「酒につまみとやっていると、余計な肉が付くだろう」
「それで体重を減らしてりゃ、世話ねえな」
肉に野菜、卵に乳製品……クラッカーも買わせるんだったと思いながら、マサキは適当に取り出した食材を両手に抱えながら、テーブルの前。それらを並べるようにして置いてから、キッチンに立った。これだけの食材があれば、手間はかかるが、それなりの量と種類のつまみが作れる。
「感謝しろよ。俺がキッチンに立つなんて滅多にないイベントだからな」
「それで食べられるものが出てくるのか?」
居場所を失ったファングは、マサキが座っていたリビングの床の上に新たな居場所を見付けたようだ。どっかと腰を下ろすと、躊躇わずに缶を開け、こちらも早速とばかりに酒を口に含んだ。
「云ったな。これでもプレシアに仕込まれた腕だ。出てきた料理を見て驚くなよ」
シンク下の開き戸を開けてみれば、ファングが云った通りに二ケースの缶ビールが押し込まれている。料理が出来上がるまでにファングが何本飲むのかはわからないが、彼が手持無沙汰になるのだけは防げそうだ。マサキは開き戸の裏側に吊り下がっている包丁を手に取ると、まな板をシンクに広げて調理を始めた。
野菜と肉を切り、フライパンを熱する。ところが、無骨な男だけあって、そんなに料理をする機会に恵まれないのか、切った食材を入れる為のボウルがない。マサキは食器棚からボウルの代わりに使えそうな食器を取り出して、そこに切った食材を放り込んでいった。そして、取り敢えず野菜炒めからと調味料を調べてみれば、多少古いものの、必要な種類は揃っている。
「何を作るつもりなんだ」
座ったり立ったり忙しいことだ。ファングは早くも手持無沙汰な状態に耐えられなくなったようで、立ち上がると酒の缶を片手にしたままマサキの背後に立った。見られながらの調理は落ち着かないが、フライパンが温まり過ぎては上手く出来るものも出来なくなる。マサキは下味を付けた肉をフライパンに放り込んだ。
「忙しない奴だな。完成すりゃわかる。大人しく座ってろよ」
「しかし、ただ座ってるというのもな」
「座ってるだけの方が役に立つってこともあるんだけどな」
責任感からだろうか。それとも多忙な生活に慣れ過ぎて、いざ暇を与えられた結果、どうしたらいいのかわからなくなったのだろうか。本人がやりたいというのを断るのも気が引ける。何より、ファングとふたりで料理を作る機会など、今後訪れないかも知れない。任務における長い遠征生活で、調理の輪に加わっているのを見たことのない男。
「お前だけを働かせる訳にも行かんだろう。ここは俺の家だ。家主が何もせずに済ませるなど」
「わかった、わかった。だったらその缶をどこかに置けよ」
当初の予定では、時間のかからない料理の調理を先に済ませて、ファングにひとり酒を愉しんでもらうつもりだったが、貴重なものを見れる機会だ。テーブルの上に缶を置いて袖捲りをしたファングに、マサキはあれこれと指示を出しながら調理を進めることにした。野菜炒め、揚げチーズ、豚肉の野菜巻き……手際の良さに感心するファングに、マサキは鼻を高くしながら、サラダにスコッチエッグと更に料理を完成させる。
そうして一時間ほど。床の上に並べた料理を挟んで、ようやく酒にありつけたマサキは、同じくこちらもようやく酒にありつけたファングと、他愛ない話をしながら杯を重ねてゆく。
「こんなちゃんとしたものが出てくるとは思わなかったな」
「だから云っただろ。プレシアに仕込まれてるって」
まさかここまでの料理を作れるとは思っていなかったらしい。料理に箸を付けたファングは、余程その味付けが気に入ったようだ。「最近は外食ばかりだったからな」と云いながら、酒を飲んでは次から次へと料理を片付けてゆく。
「その所為なんじゃねえの。お前の体重が減ったのって」
「外で食べる料理も旨いんだがな。ただ味付けがくどく感じる時がある」
「ああ、確かにな。毎日外食はキツイ」
そのついでにどんな料理なら作れるのかとファングに聞いてみれば、切って並べるか焼くかが精一杯というリューネも驚くレベルの腕前。スープや煮物、揚げ物などは作れないのだという。それでは調味料も古くなる筈だ。
「せめてスープぐらいは作れるようになれよ」
またひと缶、ひと缶と酒を開けてゆく。
ファングの酒のペースは、鉄の肝臓を持っているのではないかと思うぐらいに早い。それに付き合えば、マサキも酒のペースが早くなるのは当然のこと。あっという間に二ケースが空になった酒の進み具合に「酔った」世界が回り始めたマサキはそう云って、床に転がった。
「そこで寝たら風邪を引くぞ」
「お前のベッドで寝る訳には行かないだろ」
マサキは酔ってはいたが、ここまで足を運んだ目的を忘れてはいなかった。体調管理が出来ないファングを休ませる為……マサキは床の上で目を閉じた。シングルのベッドに男ふたりは収まらない。マサキがベッドを占拠してしまっては、本末転倒だ。
「別に構わないがな。俺はもう少し酒が欲しいところでもあるし」
「もうないんだろ。お前がベッドで寝ろよ。俺はここでいい」
「酒はある。食器棚の下の棚に、寝酒用のウイスキーが」
「はあ?」マサキは目を開いた。ふたりで二十六本の酒の缶を開けているというのに、この上ウイスキーまで。しかも大半はファングが空けた酒だ。とても正気の沙汰とは思えない。
「お前、いい加減に休めよ。飲み過ぎだ」
「折角身体が空いたんだ」
云いながら立ち上がろうとしたファングは足をもつれさせ、膝から崩れるとマサキの身体の上に倒れ込んだ。
「云わんこっちゃない。疲れてるんだよ、お前」
「このぐらいの酒で酔うなど――」
再び立ち上がろうとしたファングだったが、相当に酔いが回っているようだ。手を付いてマサキの身体の上から自分の身体をどかすのが精一杯といった様子で、隣に転がる。
「ほら見ろ。運んでやるからベッドに行けよ」
とはいえ、マサキも酔っているのは同じ。立ち上がろうとしたところで膝が笑って、思うように身体が動かせない。仕方なしに膝を付いたマサキは、床の上に転がったままのファングを見下ろし――、荒く息を吐いている薄く開いた口唇に視線が釘付けになった。
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