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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

遠い或る日のクリスマス(中前)
アフタークリストフ!

皆様のクリスマスはどんなものだったでしょうか? 私は父と過ごすクリスマスでしたが、その分、色々と考えさせられるクリスマスにもなりました。(取り敢えず、来年の父の日にはちゃんとプレゼントをしようと思うくらいには、父に感謝をするクリスマスでした)
そんな皆様のクリスマスが少しでも楽しいものになるお手伝いができていたら幸いです。と、いうことで続きです。三回と言いましたが、三回では終わらなさそうです。スミマセン汗
<遠い或る日のクリスマス>
 
 シュウに帯同していたふたりの兵士に男の後始末を任せ、マサキの後を追い掛けて大通りに出てきたらしいドレス姿の女性にバッグを渡し、「あなたとは話をする必要がありそうですね」マサキはそう呟いたシュウに誘《いざな》われるがままに、大通りに面した一軒の大きめのレストランに入った。
「九歳?」
「そうですよ」
「それにしては背が高いな」
「同年代の中では大きい方かも知れません。でも、もっと大きい子たちもいますから」
「背が高い奴っていうのは、最初からはあまり背が高くはない筈なんだけどな。大抵、小さかった奴が思春期に入って突然伸び始めるんだよ。そうやって俺も何人も同級生に身長を抜かれたもんだ」
「よくある話ですね。でも、それは身長の小さい子だったからこそ目に付いただけの話では?」
 何を飲みますかと問われて、渡されたメニューブック。紅茶の種類だけでもかなりの量だ。地上から突然召還されたときにはわからなかった紅茶の種類。味の違いは未だにわからないままのマサキだったけれども、種類の違いはわかるようになった。
「俺はセイロンでいいや。紅茶の味の違いはわからないしな」
 マサキが無難にセイロンティーを選ぶと、「では、アッサムとセイロンをひとつずつ」シュウは呼び付けた給仕に注文を取らせ、「何か食べるのでしたら、どうぞ」メニューの多さにメニューブックから目を離せずにいるマサキに、追加の注文を勧めてくる。
「いや、いいよ。ニューイヤーパーティで飲み食いした分が、まだ腹に残ってる。クリスマスからこっち、随分と食べたからな。今日からは少し食事を控えないと、身体が重くなったままになっちまう」
「ニューイヤーパーティ? 新年まで未だ一週間はありますが」
 手を上げて給仕を下がらせたシュウは、マサキの言葉にそう反応してみせると眉根を寄せた。ということは……マサキは日数から日付を逆算する。シュウの言葉からして、どうやら無事にクリスマスの日のラングランに来れたようだ。
「それにクリスマスですか。それを知っているあなたは、ラングランの一般国民ではないようですね。しかも、僕のそちらでの名前まで知っているとなると……いや、でも……僕はあなたを知らない。知らない人間がその名前まで知っている筈がない……」
 シュウが考え込む。
 当然か。マサキは空を仰いだ。ふたりの間の記憶には十何年分もの大きな隔たりがある。この時代のラングランは、魔装機計画の実行段階の前。マサキたちのように地上人を何人も大っぴらには召還していない時代だ。ましてやマサキは未来のラングランから過去のラングランに来ている。シュウが戸惑うのも無理はない。
 地上で暮らしていた時代のマサキの目の前に未来のシュウが姿を現すのと一緒だ。その心境は察して余りある。そう考えると、むしろ良く平静を努めていられると思うものだ。マサキだったら未来のシュウと口論のひとつでも始めていておかしくないだろうに。
「……未来のお前に頼まれて来たって云ったら、お前は信じるか」
 テーブルに届けられたティーセット。あまりシュウを悩ませ続けるのも忍びないと、マサキはティーカップにポットの紅茶を注ぎながら思い切って口にしてみる。「未来の僕、ですか……」シュウは案の定と云うべきか。信じて良いものかといった風で、思い悩む様子を見せた。
「練金学の精神的に、時間旅行《タイムトラベル》が認められるとは考え難いのですが」
「そこは他の手段を使ったんだよ。云っていいのか悪いのかわからねえけど……でも、サイフィスはそのつもりだったみたいだぜ。顔を合わせるなり、何の前置きもなくここへ転送しやがった」
「精霊の力を使ったと? しかも風の精霊サイフィスの力を。神官の力を借りれば精霊界に行けるとはいえ、一般の人間に精霊界行きを許すような真似をあの厳格な方々がする筈がない。あなたは何者なんです、マサキ」
「地上人だよ。風の魔装機神の操者に選ばれた」
 マサキが話をすれば話をしただけシュウの疑問は尽きなくなるようだ。「風の魔装機神? 地上人の力を借りなければならないようなものなのですか、それは」あれもこれもと問われたマサキは、シュウに乞われるがまま。
 化学兵器に成り代わる巨大な兵器、魔装機。その計画が立てられたのはこの時代より後のことになるのだろうか? 気《プラーナ》を大量に必要とするその存在についてマサキが語って聞かせれば、「それでは戦乱が尽きないのでは?」と、次はその未来へとシュウの興味は尽きない。
 どこまでを話していいのか、どこから話してはいけないのか。そんなことがマサキに判断できる筈がない。未来のシュウの話しぶりでは、そこまで深くマサキから話を聞いたようには思えなかったものだが、だからといって中途半端に話を済ませた結果、すべきことができないままとなってしまっては本末転倒。マサキがシュウに聞かれては答えを繰り返しているだけで、一時間余り。相当の時間が経過してしまっていた。
 それでもそれだけ時間を割いた甲斐あって、シュウはマサキが未来からの訪問者であることは信じてくれたようだ。冷え切った紅茶のおかわりをマサキの分も含めて注文すると、「成程」と小さく呟いて、
「興味深い話を有難うございます。それで、あなたが過去にわざわざ来たのは、未来からの僕のメッセージを届ける為にですか」
「どうなんだろうなあ。未来のお前の話からすると、要は今のお前とクリスマスをしろってことだと思うんだけど」
「クリスマスを? 何故?」
「そこは俺じゃなくてサイフィスに聞いてくれ」
「さしたる理由もなく、風の精霊たるサイフィスが、あなたをここに寄越すとは考え難いのですが」
「って云っても、あいつも結構気紛れなところがあるからなあ。案外、思い付いたからそうしてみたって理由かも知れないぜ。まあ、将来お前がサイフィスに会う機会が出来たら聞いてみるんだな。そしたら俺に答えを教えろよ? 俺だって知りたいのは一緒なんだ」
 冷えた紅茶の代わりの新しい紅茶がテーブルに届けられる。その給仕を呼び止めて、マサキはメニューブックを開いた。グリューワイン、ローストビーフ、サラダ、クラッカーチーズ、クグロフ……バニレキプルファンはないものの、クリスマスを過ごすには充分なメニューだ。
 ――自分の未来にあなたがいる。それを楽しみにしていた時期が、かつての私にはあった……。
 未来のシュウが口にしていた言葉の数々をマサキは思い返す。運命に縛られるのを何よりも厭う自由をこよなく愛する男。そんな未来のシュウにも、訪れる未来を楽しみにしていた時期があった。その思い出に相応しい一日に今日をしなければならないのだ。マサキはそれらのメニューを注文すると、給仕が立ち去るのを見届け、上着の内ポケットから財布を取り出す。
「貨幣交換があったって話は聞いてないんだけど、念の為に見てくれないか? 使えない紙幣があったりすると困る」
「そのぐらい僕が支払いますよ」
「そういう訳には行かないだろ。俺が押しかけてるんだぜ。紙幣が使えなきゃ換金用のプラチナがある。奢らせろよ、シュウ」
 
 
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