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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

遠い或る日のクリスマス(中後)
アフタークリストフ!(二回目)
 
いやー、クリスマスは終わりましたが、今年のクリスマスの物語内部の白河とマサキはまだ一緒に過ごしている時間帯ですよ。なんて裏山笑 くっそこのリア充どもめ……爆発しやがれ……笑
ということで第三回です。残り一回で終わりそうな気もしますが、終わらせてしまうのも寂し気がしますね。今年のクリスマスももう終わりかーという気分です。まさに祭りのあと。では本文へお進みくださいませ!
<遠い或る日のクリスマス>
 
 そうして紙幣を改めたシュウによると、低額紙幣のいくつかはのちに貨幣交換が行われてしまったようだった。とはいえ、高額紙幣が使えるのなら問題はない。釣りの旧い紙幣は元の時代に戻っても使えるのだ。マサキは財布をポケットに仕舞った。
「そう云えば、あなたはもうクリスマスを過ごされたんですよね、マサキ。やっぱり、地上の仲間たちと?」
「いや、お前と過ごしたぜ。食って飲んで寝て、のんびり年末までな」
「成程。未来の僕はクリスマスを過ごすようになっているのですね。そのついでに、未来の僕はあなたに伝言を頼んだといったところでしょうか」
 それから程なくして、テーブルに届けられた料理とグリューワイン。シロップや果実の絞り汁でワインの酸味を和らげたグリューワインは、ジュース感覚で飲めるからだろう。酒の苦味や酸味が苦手ゆえにあまり量を飲めないマサキの口に合っているようだ。
「お前はクリスマスを何かをして過ごしたことはないのか」
「クリスマスがどういったものであるのか、知識としてはありますが、何かをして過ごしたということはないですね。ラ・ギアスにとって地上の文化は一部の人間にか知られていないものですし」
 テーブルに所狭しと並んだ料理をつまみ、今年のクリスマスの話などをしながらグラスを片手に一時間。気付けば1リットルは入るデキャンタの半分以上を、マサキはひとりで飲み干してしまっていた。
「酔った」
「突然ですね」
「お前も飲めよ、シュウ。俺ひとりで全部飲んだら倒れそうだ」
「僕はまだ子供ですので、お酒は流石に」
 そう云って固辞するシュウの空いたティーカップの中に、マサキはワインを注いでやる。ティーカップは底が浅いように見えて、思ったよりも量が入る。デキャンタに残ったワインの半分を注いだところでようやくカップに一杯といったところだ。
 ふたりで酔って前後不覚に陥ろうものなら洒落では済まない。マサキは今のシュウの年齢にちらと罪悪感を感じはしたものの、酔っ払いの理性などたかが知れている。ましてや、未来のシュウがマサキに飲まされたと云っていたグリューワイン。だったら少しぐらいはいいだろう。それに、ひとりで飲むよりも、誰かと飲みたい気分だ。自分のグラスに口を付けながら、辺りを憚るようにマサキはシュウにこっそりと話し掛けた。
「大丈夫だ。子供でも飲める甘さだから。でも、給仕に見付からないように飲めよ」
「何かの見本のような悪い大人ですね。まあ、飲んだことがない訳ではありませんし、このぐらいなら」
 友人の悪戯に付き合うような笑顔を浮かべて、クスクスと。笑い声を上げたシュウがそうっとカップに口を付ける。「……本当だ、甘い。ジュースみたいだ」続けてひとくち口に含むと、何かを探るように口の中。舌先にワインを転がしている。
「ああ、でも微かにアルコールの味がしますね。それも結構、強そうな。甘さに騙されると痛い目に合いそうです」
「だからか。いつもと同じペースで飲んでるつもりだったのに、何でこんなに酔うんだってこの間思ったんだよ。寝不足だのが重なっただけじゃなかったんだな。お陰でクリスマスだってのに酷い酔い方をしちまった」
「今も結構、酔っていたりしますか?」
「酔ってはいるけど、お前に絡んでないだろ。普通の酔い方だよ。気分がいい。この間は眩暈で座ってすらいられなかったからな」
「絡む酒になるのですね。それでしたら、あまり飲ませないようにしないと」
 酔って気の大きくなった困った年長者を、だからといってシュウは扱いにまで困っている様子ではなかった。むしろそんなマサキの手間の掛かり具合を楽しんでいる風でもある。シュウは再び小さく声を上げて笑うと、またひとくち。カップに口を付ける。
 マサキも空になったグラスに残りのグリューワインを注ぐ。空になったデキャンタ。もう少し飲みたくもあったが、如何に落ち着いた態度の九歳児とはいえ、子供の目の前だ。今ぐらいのほろ酔い加減で止めておいた方がいいのだろう。
「だったら、これを飲み終わったら出るか。食事もかなり減ったし、長居もしてるしな」
「そうですね。もう夕暮れどきになりますし」
「そうじゃねえよ。クリスマスに食事だけじゃお前も楽しくないだろうから、どこかに連れて行ってやるって云ってるんだよ。そうだな、何かプレゼントでも買いに行って……それから……」
「随分と優しくしてくださいますね。あなたはあまり僕のような人種とは親しくしないような性格に感じられるのですけれど。もしかすると、未来の僕は付き合い難いこの性格が改善されているのでしょうか」
「悪化してるんじゃないか?」マサキは笑った。
 人との関わりを避けるようにして生きている未来のシュウは、まだ純粋さを失っていない今のシュウと比べると、その扱い易さには天と地ほどの差があると云っても過言ではない。
 捻った言い回しに、難解な理屈。話をしている内容を理解するだけでもひと苦労。わざと他人を遠ざけようとしているのではないかと思うくらいには、未来のシュウは付き合い難い性格をしているだろう。けれども、その他人に理解を求めないシュウの態度は、マサキにとっては、同時にとてつもなく心地良くも感じられるものでもあるのだ。
「でも一緒にいると楽だな。落ち着いていられる」
「それなら良かった」
「もうちょっと、わかり易く話をして欲しかったりもするけどな」
「わかりました。努力します」
「別にいいぜ、無理しなくとも」レストランの窓の外。マサキは年の瀬を間近にして人出の増えたラングラン城下町の大通りを眺める。「なあ、どこか行きたいところはあるか? プレゼントはお前のことだ。きっと本がいいんだろ」
 クリスマスが過ぎれば年越しまではあっという間だ。そう考えると、誰も彼もがこれから訪れるニューイヤーを楽しみにしているような顔付きに感じられてくるのだから目出度いものだ……去年の年の瀬を未来のシュウの元で過ごしたマサキには縁のなかった光景。繰り返されるラングラン城下町の年の瀬。それをマサキは眺め続ける。
「良くわかりましたね。グレーベンの旅立ちの奇跡が入荷したと、馴染みの古書店から連絡があったところです。古書としては手軽な値段で……ああ、でも、あまり子供らしくないでしょうか」
「いいんじゃないか? 何が好きかで子供らしさが測れるとは俺は思わないけどな。それに、いい趣味なんじゃないかね。悪さばかりしてる悪ガキたちよりは、よっぽど」
 心細げな台詞にマサキがちらとシュウを窺うと、彼もまたティーカップを片手に、ラングランの年の瀬を眺めていた。
 涼しげな横顔。顔に酔いが出ないのは、子供の頃かららしい。ティーカップの中身は半分以下に減っていた。九歳の子供に飲ませるにしては、グリューワインは過ぎた酒だっただろう。それを平然と口に運び続けている姿が、マサキの中で未来のシュウに重なる。
 ついこの間まで一緒に過ごしていた筈なのに、もう恋しくて仕方がない。
 勢いに任せて来てしまった過去。喋り方……面差し……今こうして目の前にいるシュウが、未来のシュウの面影を色濃くしているからこそ、尚更に。
「行きたい所もひとつだけあるんです。だから、どちらにしようか迷ってしまって。古書よりもそちらでしょうか。でも、形に残らないものをあなたとの思い出にするのも失礼な気が」
「気を遣うなよ。その顔で気を遣われると、変な気分になる。云っただろ。換金用のプラチナだってあるんだ。財布の中の金も大半は使えるみたいだし、金のことなら心配するなよ」
「余程、未来の僕は傍若無人に振舞っているようですね」苦笑しきりでシュウが云う。「でしたらその言葉に甘えるとします」
「そうしとけよ。お前、まだ九歳なんだからな。ところで、どこに行きたいんだ?」
「移動遊園地が来ているんです。その観覧車に前から乗ってみたくて」
 マサキはその瞬間、初めてその年齢を意識した。弾かれたように窓の外から視線をシュウに戻して、稚い顔立ちをまじまじと見詰める。そう。シュウの年齢に不釣り合いな話しぶりにマサキはすっかり忘れてしまっていたが、九歳という年齢はそういったものへの興味を失っていない年齢でもあるのだ。
「……どうかしましたか、マサキ?」
「いいや」マサキは微笑んだ。
 いいものを見れた。その気持ちがマサキを自然と笑顔にさせる。「だったらさっさと酒を片付けなきゃな。ああいうのはいい景色が見られる時間が限られてるんだ」そしてマサキはグラスに半分残っているグリューワインをひと思いに飲み干しすと、テーブルに伏せられている会計伝票を取り上げた。
 
 
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