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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

【一人称】東風吹かば
リクエストでいただいたシュウマサピクニックです。



<東風吹かば>

 太陽の陽射しが眩しい。
 東からの風が心地よい空気を運んでくる。こんな陽気の日に、家に篭っているのは損だ。故にピクニックだ――と、腰の重いシュウを家から無理矢理引っ張り出して、サイバスターでラングランを横断することニ十分ほど。西に山、東に街、南に海を従えた景色のいい平原に出たところで、俺はサイバスターを停めた。
「決めた。ここにしようぜ」
「結構ですよ」
 行き先を決めずに出た割には上出来だ。俺は荷物を手にシュウとともに平原に降り立った。生い茂る芝を掻き分け、適当な場所を探す。この辺でいいか。俺は軽く坂を描いている丘の上に陣取ることに決めた。
 ここからなら、座っても周囲を見渡せる。俺は周囲の芝を踏み均してピクニックシートを敷いて、シュウを振り返った。
「ほら、シュウ! こっち来いよ! 景色が綺麗だぜ」
 ピクニックシートの上にバスケットを置いて、右側に腰を落とす。左側はシュウの席だ。
 誰が決めた訳でもないが、俺とシュウの位置は決まっていた。ベッド然り、ソファ然り。外で喫茶店に入った時なんかもそうだ。横に並ぶ時には、いつでも俺の左側にはシュウがいる。
「マサキ! 行ってくるんだニャ!」
「おう! 気を付けろよ!」
「ご主人様、あたくしも」
「ええ、行ってらっしゃい、チカ」
 時には野生に戻りたくなるのだろう。平原を駆け抜けてゆくシロとクロに、空を気持ち良さそうに舞い飛ぶチカ。二匹と一羽の姿を目で追えば、穹窿《きゅうりゅう》に伸びる飛行機雲が視界に飛び込んでくる。いい天気だな。俺はシュウに視線を戻して云った。
「そうですね。偶にこうして外に出ると、太陽の有難みを感じますよ」
 俺が家を訪ねるまでの三日間を、読書に費やしていたらしい。眩しそうに空を見上げたシュウがしみじみと呟く。
 家から出るのは食料の買い出しだけ。研究が趣味と云い張る男は、頻繁にそういった生活を送っているようだ。少しは焼けよ。俺はシュウの滑らかで白い肌に触れた。
 ラ・ギアス世界が安定を取り戻してからというもの、シュウはあまり方々には足を運ばなくなったらしい。トレーニングは欠かしていないようだが、普段の食生活が食生活な男だ。チカ曰く、効率を求めるがあまり、手軽に栄養を摂取できるサプリメントやプロテインだけということも珍しくないらしい。俺より上背が高いのに、俺とさして変わらぬ体重。身体が細い上に生白いとあっては、見ている方が不安になる。
「白人と一緒で、焼きたくとも焼けないのですよ」
「白人って焼けないのか?」
「黄色人種や黒人とは肌に含まれるメラニン色素の量が違うのですよ。焼こうとしても肌が赤くなるだけで終わりです。ですから私の肌の色はこれが普通なのですよ。心配は有難いですがね、マサキ」
 成程。と、俺は頷いた。同時にシュウの肌の色が、人種的な問題であることに安堵する。
 研究テーマを思い付いたが最後、俺がいようがお構いなしに日常生活を放棄する男だ。それも食事に睡眠と、生きるのに必要な時間ばかり削るのであるから恐れ入る。シュウの肌の色は、そうした不摂生が祟ってのこと。俺はそう思っていたが、どうやら見込み違いであったらしい。
「なら、飯にしようぜ。お前、最近あまり食べてなかったんだろ」
「チカのお喋りにも困ったものですね」
「食うものは食えよ。研究だって身体が資本だろ。そして少し寝ろ」
 バスケットの中からパニーニを取り出す。具はハムとトマトとチーズだ。
 タッパーに詰めたカットフルーツと一緒にシュウに差し出してやる。と、寝ろと云われたことが不満だったようだ。シュウがパニーニを受け取りながら、「私が寝て寂しくないの」と尋ねてくる。
「何のために俺がこうしてお前を連れ出したと思ってるんだよ」
 俺は笑いながらパニーニを噛んだ。
 ハムとチーズの旨味に、トマトの酸味がマッチして、自分で云うのもなんだが旨い。
「お前にゆっくり休んで欲しいからだよ。お前、家にいるとついつい本を読んじまうだろ」
 ゆっくりとパニーニを味わい、答えを口にする。
 そうなのだ。
 俺がこうしてシュウを連れ出したのは、家にいるのが窮屈に感じられたからでもあったけれども、それ以上にシュウに雄大な自然の中でリラックスした時間を過ごして欲しかったからだ。そうでもしないとこの研究の虫は、いつまでも自分を大事にしようとしない。そう思っての言葉だったが、シュウは納得が行っていないようだ。折角のあなたとの時間を寝て過ごすのもね。そんなことを云いながらパニーニ片手に渋い表情をしている。
「なら、一緒に寝ようぜ。風を感じながら寝るのは気持ちいいだろ」
「それでいいのですか、あなたは」
「それがいいんだよ。ひとりで寝るのは寂しいしさ」
「欲のない人だ」
 苦笑を浮かべながらシュウが口にする。
 俺を放置するのが嫌だったのだろう。一緒にと聞いて安心したようだ。そのままパニーニを食べ始めたシュウに、俺は青く染まった穹窿を再び見上げた。澄みやかなる風がどうしようもなく気持ちがいい。
「この陽気の中で眠るのは、さぞ気持ちがいいだろうな」
 同意を求めてシュウに話しかければ、そうですね。と、落ち着いた声が返ってきた。



ということで、リクエスト「シュウマサでピクニック」になります。何度かこのテーマ書いているので、何か変わったことがしたいと思い一人称で書いてみることにしました。シュウマサ始めてからは三度目の一人称になりますが、如何でしたでしょうか。前回よりは書けているとは思うのですが……。

ちなみにこのあとのふたりは日暮れまで寝ましたとさ。





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