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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

【R18】彼→彼(八)
もうちょっとだけ続くんじゃ。

昔書いた話のリメイクとは云ったものの、痛い設定を大幅に削っている為、いつもの私のシュウマサになってしまっただけな気がしなくもないのですが、ほら@kyoさん、白河がぐるぐる回っているの大好物なので……

この時期の白河の情動ってジェットコースターな気がするんですよね。



「わぁ、このアクセサリー可愛いですわね」
「ちょっと子供っぽくない? あたしはその左にあるヤツがいいわ」
 サフィーネとモニカが店先のショーウィンドウを覗き込みながら、品定めをする中、長くなった街の散策に飽きを感じ始めていたシュウは視線を滑らせて周囲の様子を窺っていた。
 恐らく、この辺りが街の中心地になるのだろう。店が建ち並ぶ大通りは人出も多く、賑やかな様相に満ちている。
 色味の失せた艦内の景色とは異なる色に溢れた世界。活気に溢れた街に浮かれるサフィーネやモニカの気持ちもわからなくはない。いつ始まるかわからない戦闘に備えて待機を続ける艦内での生活は緊張感に満ちたものだ。シュウは久方ぶりに羽根を休めている彼女らを目の前に、けれども落ち着かない気分でいた。
 ――わかってるなら云いたいことをまとめて話しに来い。てめぇをどうするかは俺が決める。
 無視しきるのは簡単だったが、執念深いマサキのことだ。シュウの反応がなければ、それ相応の行動を起こすことだろう。何せ人前でシュウの頬を打ち据えるぐらいには、彼はシュウが起こした行為に怒りを覚えているのだ。時間を稼いでラ・ギアスへの帰還を図るという手もあるにはあったが、それで何が解決したものか。何より、逃げるのは主義ではない。どういった形であろうとも決着は付けるべき――シュウは、だからこそこの休暇を利用してマサキと話をするつもりでいた。
 その出鼻を挫かれる状況。頼もしい仲間たちがこれほどまでに鬱陶しく感じられることもそうない。
 尤も、マサキ自身も街に出ているようではあったが……。
「これはどう思います?」
「あんた、本当に可愛いものが好きなのね。もうそれなりのデザインのものを身に付ける年齢でしょうに」
「そうは云われましても、こういったアクセサリーは王宮では身に付けられなかったのですわ。華美なデザインはもう飽きているのです」
「姉さんにはもうちょっと落ち着いたデザインの方が似合うと思うけど」
 シュウはまだまだアクセサリーに目を奪われているサフィーネとモニカ、そしてその様子を背後から覗き込んでいるテリウスを横目で盗み見た。三者三様の反応ではあるが、ウィンドウショッピングを楽しんでいるようだ。自身も書籍を選ぶのに長考する癖があるシュウは、人のことをあれこれ云う立場にない。仕方がないと割り切って、彼らが落ち着くのを待つことにしているものの、気持ちは晴れない。
「シュウ様はどう思われます?」
「あなたが好きなものを選べばいいのですよ、モニカ。その方が後悔もなくなりますからね」
 声をかけられては視線を戻す。そしてまた飽きを感じては視線を左右に散らす。急な補給要請を受け入れられるほどに資源が豊富なコロニーであるからだろう。何の変哲もない平和な街の光景は、戦時下であることを忘れさせるほどに長閑だ。
 シュウは何気なく自身の左側の通りを眺めた。そして、目を瞠った。
 アクセサリーショップから三軒隣りの喫茶店。テラス席が目を惹く。そこからマサキが姿を現した。やけに深刻な表情をしているように思えるのは気の所為か。シュウは嫌な予感を覚えながら、マサキの動向を見守った。
 どうやらシュウの存在に気付かなかったようだ。二匹の使い魔とともに通りの奥へと歩んでゆく。追いかけるべきか、それとも――。シュウが躊躇した直後、今度は同じ店からクワトロが姿を現した。こちらは直ぐにシュウの一団に気付いたようだ。彼にしてはにこやかな表情を浮かべながら、シュウの許へと歩んでくる。
「やあ、シュウ」
 マサキとアムロの会話から推測するに、クワトロはマサキ――というよりサイバスターの特性に目を付けているようである。ということは、クワトロが以前シュウに語って聞かせた考え事というのは、どうマサキを仲間に引き入れるかということであったのだろう。
 しかし、マサキは地底世界ラ・ギアスの治安維持を担う戦士である。そう簡単にクワトロの思惑通りにいく筈がない。
 だが、彼らの様子を窺う限り、そのまさかが起こり得そうな予感がある。
「考え事の結論が出た――といったところでしょうか、その様子は」
「どうだろうね」クワトロが肩をそびやかす。「当たって砕けろという言葉もあるだろう。その程度の進展さ」
 鎌をかけてみれば、曖昧な答えが返ってくる。シュウは眉を顰めた。あのマサキに限って自身の使命を忘れるとは考え難いが、戦後処理の最中にあるラングランを放っぽり出して、地上の大戦に参戦しているぐらいである。目の前の危機を放置しておけない熱血漢である彼が、道を誤らない保障はない。シュウは嫌な胸騒ぎを止めることが出来なかった。
「今直ぐには答えを出せないと云われたよ」
「マサキに?」
「君は目端が利く」クワトロが笑い声を上げた。「地上の技術力も捨てたものではない。科学者の叡智を結集すれば、サイバスターに使用されている技術力の分析ぐらいは出来るとは思わんかね」
「ラ・ギアスは地上には不干渉――それは技術力の流出も含めてですよ、クワトロ」
 地上世界と位相をずらした背面に位置している地底世界は、技術の発展に於いては地底世界の一歩先を往く。だから彼らは自分たちが地上世界に干渉しないように自分たちを律してきた。自分たちが有する技術が流出すれば、地上世界の歴史は正常な進化を辿らなくなる。
 ラ・ギアスが選択した道は、地上と地底世界の融和ではなく、独立であるのだ。
 本来、通るべきだった歴史を歪めてはならない。本来、発展すべきだった技術を奪ってはならない。その先に待っているのが滅びであろうとも、それもまた地上世界の独自性である。
 理性が尊ばれるラ・ギアス人らしい理論を、地底人と地上人の混血《ミックス》であるシュウはそれなりに受け入れている。
 自然な滅びを妨げるものなどあってはならない。
 そういった意味で、マサキの行動はシュウには理解が及ばないものだ。異星人に侵攻を受けて、総力戦と化し、その結果地上世界が滅びようとも、それもまた地球が辿るべき運命である。わざわざ自機《サイバスター》を参戦させるなどといった干渉を行う必要がどこにあったものか。
 シュウとマサキではこの大戦に参戦している理由が異なるのだ。
「しかし、マサキはそう思うかね。彼は地上人としてのアイデンティティを捨てきってはいないようだが」
「あくまでマサキの選択に委ねると」
「そのぐらいの良心は私にもある。ただ、それを捨て去ってでも、あの広域識別範囲攻撃の情報が欲しいのは事実だ」
 きっぱりと云い切ったクワトロに、彼の野望と野心の深さが見て取れる。
 シュウは口の中に溜まった唾液を飲み込んだ。
 マサキの心が揺らぐほどである。シュウのように自分本位な理由でアクションを起こしたのではないだろう。理解出来ていることを、改めて問うのは滑稽の極みでしかなかったが、それでもシュウは敢えて問わずにいられなかった。
「あなたがそこまでして成したいこととは何です、クワトロ」
「君もそういった表情をするのだね」
 何かを納得したようだ。ひとり合点がいった様子でいるクワトロに、シュウはショーウィンドウに映っている自身の顔を盗み見た。
 剣呑という言葉が似合うほどの凶面。眼光が鋭さを増した自身の顔付きは、決して穏やかではない。それがマサキの所為であるのは直ぐ知れた。シュウは怒っているのだ。剣聖の称号に与るまでに、ラングランでの評価を高くしているマサキの危うさに。
「地底世界の技術力に頼るほど、地上世界の技術力が劣っているとも思えませんが」
「私は私が生きている間に見たい光景があるのだよ、シュウ」
「それは」
「戦争のない世界さ」
 そう答えたクワトロが、「夢物語だがね」と付け加えてシュウに背中を向けた。その態度からは、深いところまで心を明かすつもりはないという意思表示が窺える。けれども、彼が長く険しい道程を往く覚悟を決めているのは間違いない。
 理想を追い求めているのはどちらも同じということか――……そこでようやくクワトロがマサキを求める理由に納得が行ったシュウは、そこでようやく、いつしかウィンドウショッピングを止め、シュウとクワトロとの遣り取りを見守るだけとなっていた仲間を振り返った。

※ ※ ※

 帰艦したマサキは、様子のおかしいマサキを心配する二匹の使い魔を適当にあしらいつつ、真っ直ぐに自室《キャビン》に向かった。
 久しぶりの休暇にがらんどうになっている艦内は、煩わしい人付き合いからマサキを遠ざけてくれたが、かといってそこいらで軽々しく考えていい問題でもない。腰を据えてじっくりと、クワトロが描いているビジョンを検討したい。マサキの決意が揺らいでしまったのは、クワトロが直接的な支援をマサキに求めなかったからだ。
 ――広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》のシステムを解析したい。
 その技術力を地上兵器に転用出来れば、少なくとも戦場での同士討ちは避けられる。真摯な眼差しでマサキにそう語って聞かせてきたクワトロは、戦争における被害を少しでも少なくすることが、平和維持への近道だと考えているようだ。そのビジョンに、マサキの心は大いに揺れた。綺麗事を語っていないところに、彼の本気度が窺える。何より、彼は世界を統一しようなどとは考えていないと云い切った。ただ、戦争をする意味をなくしたい。その為には犠牲を少なくする必要がある。そう、クワトロは戦争は起きてしまうもので、そこには犠牲がつきものであるという思考をしていた。 
 それにマサキは反論出来ない。
 組織のトップに立つ人間の考えはマサキにはわからなかったが、彼らが大義の名の下に支配欲を果たそうとするのを、マサキは何度も目にしてきた。ビアン然り、カークス然り、そしてフェイルロード然り。それは、戦場の前線に立ち続けたマサキだからこそ感じ取れる欺瞞だった。自国防衛だの世界平和だのと口にしたところで、それは支配欲の表れだ。彼らは自らの影響力が及ぶ範囲を広げたいという欲望から逃れられなかったのだ。
 対話を放棄した人間のおためごかし。その愚かさをマサキは責めようとは思わなかったが、彼らがもっと地道に生きることを選択してくれていればという思いは拭えない。
 尤も、そうしたマサキの考えさえも驕りである可能性があるという不安は拭えなかったが……。
 戦争とは意地と意地のぶつかり合いだ。わかり易い巨悪や腐敗などというものは、世界を向こうに回して戦う人間には通用しない。今ある世界をあるがままに平和を築き上げることの難しさを、自らが戦争に身を投じることで思い知ったマサキは、まだ自らの存在意義の答えを出せずにいた。
 クワトロを止めようなどとは思わなかった。
 彼の信念はシンプルで単純で、そして純粋だ。戦うことを宿命付けられたマサキとて、好き好んで戦っている訳ではない。戦争のない世界が築き上げられるのであれば、それに越したことはないのだ。その抑止力に、核ではなく、広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》が利用出来るというのであれば、力を貸すのは吝かではない。
 マサキにとって、地上世界は自分が生まれ育った大事な故郷なのだ。
 マサキは足元に纏わり付きながら、マサキの様子を見守っている二匹の使い魔を見下ろした。ラ・ギアスの常識で生きているシロとクロはマサキが揺れ動いている理由を知ったら、二匹揃って主人の不足を窘めにかかるだろう。地底世をラ・ギアスの不文律は、彼らの脳と心に刻み付けられている。地上世界への不干渉。ラングランで生きた歳月が地上世界で生きた歳月に及んでいないマサキでも、地底世界の存在が地上世界にとっていい影響を及ぼさないのは理解出来る。
 悩ましい。
 人けの失せた通路を往き、自室《キャビン》に戻ったマサキは、二匹の使い魔が床に丸くなるのを横目にベッドで寝そべった。リューネにプレシア、テュッティにヤンロン、ミオ。誰に尋ねても答えが決まっている問いだというのに、世界平和という餌がマサキの心を揺らし続ける。
 目指す敵だけを即時に判別して攻撃を仕掛けることが出来る広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》。確かにこの力があれば、戦争被害はドローンやニュータイプを使うより格段に減らせるだろう。さりとて、地上世界の技術力も侮れない。異星人やシュウが有するラ・ギアスの技術力が使用されているとはいえ、あのグランゾンを生み出す程度の技術力。情報を提供したところで、クワトロの思惑通りにその技術が使用される保障などなかった。
「あんまり悩まニャない方がいいのよ、マサキ」
「今は目の前の戦いに集中した方がいいんだニャ。マサキは考え過ぎると、足元がお留守にニャるし」
 シロとクロに制止を受けたマサキは目を閉じた。サイバスターの制作者であるウェンディの顔が網膜に浮かぶ。厳格な練金学士の一面を持つ彼女は、世界平和の為とはいえ、サイバスターの技術情報が流出することを決して快くは感じないに違いない。
「だよなあ」マサキは呟いた。
 ラングランに召喚されてからというもの、身体を休める暇など少ししかなかった。今にしてもそうだ。
 地上と地底を行ったり来たりで戦い続けた日々が、マサキの脳裏を過ぎる。きっと自分は戦いに疲れているのだ。だから世界平和などという安易な餌に釣られてしまいそうになっている。疑心暗鬼に陥ったマサキは、先ずはきちんとした休息を取ろうと目を伏せた。シュウとの一件があってからというもの、まともに休めた日がない。この機会に心と身体を存分に休めなければ。そう思いながら身体の力を抜く。
 自室《キャビン》への来訪者を告げるブザーが鳴ったのは、マサキの意識が夢に飲み込まれた矢先だった。
「何だ?」と目を擦りながら、ベッドを出る。
「呼ばれた通りに来ましたよ、マサキ」
 いつも通りのいでたちでドアの向こう側に立っているシュウに、マサキは二匹の使い魔に外に出るように促した。「ニャンの話ニャの」などと云いながらも、主人の命令には素直に従うつもりであるようだ。二匹の使い魔が通路へと出てゆく。
「入れよ」
 シュウを部屋の中に招き入れたマサキは椅子すらない部屋の中。取り敢えずベッドに座るようシュウに勧めるが、潔癖なきらいであるからだろうか。それとも、それほど長くは話をしようと思っていないからだろうか。「ここで結構ですよ」と、ドア脇の壁を背にして立ったシュウに、なんとはなしの不満を覚えながら、ベッドに腰を落とした。
「で、てめぇは、きちんと云いたいことを纏めてきたんだろうな」
「云うべきことはあの時に全て話したと思っていましたが」
「あれで俺が納得出来ると思ってんのか、てめぇは」
 代わり映えのしない面差し。出来の良過ぎる彫刻のような顔が、冷え冷えとした光を瞳に孕ませながら、マサキを見下ろしている。
 いい度胸だ。マサキは鼻を鳴らした。
「云い分次第じゃ赦してやらねえこともない。だからきちんと話せ」
 最後通牒のつもりで云い放てば、シュウがクックと不快さを煽る笑い声を立てる。
 マサキの目の奥が熱を孕んだ。胸の内に滾る怒りの炎は、マサキの身体を突き破らんとしている。それを理性で制御しながら、静かに闘志を燃やす。拳に訴えるのは最後の手段だ――シュウを正面に睨み据えたマサキは、ただ黙って、シュウからの言葉を待った。





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