次章、ついに決着。
多分、いや、きっと……
あっさり書き終わらせるつもりが長くなっているので、自分の見通しが正しいかどうかの判断も付かないのですが、あと書くべきことは少ししかありません。故にこの話は終わります。
しかしぐるぐるしている白河を書くのは楽しいですね!私一生回ってる彼を書いていたいです!
多分、いや、きっと……
あっさり書き終わらせるつもりが長くなっているので、自分の見通しが正しいかどうかの判断も付かないのですが、あと書くべきことは少ししかありません。故にこの話は終わります。
しかしぐるぐるしている白河を書くのは楽しいですね!私一生回ってる彼を書いていたいです!
「それでよう、その時のさやかさんがよう……」
食事時を挟んで行われた戦闘後だけあって賑わう食堂。甲児の話に耳を傾けながら、マサキはほぼ一日ぶりの寛いだ気分でいた。
怒りは静かに胸の内で燃え続けてはいたが、シュウに一発を見舞えたことで、気分が和らいだのか。目の前の出来事に気を配れるだけの余裕が戻ってきた。あとはシュウと決着を付けるだけだ。とはいえ、シュウは内心に踏み込まれるのを嫌う傾向がある。いざ話し合うにせよ、一筋縄でいかないのはわかっていた。
――話し合いを避けられるのであれば、こちらから仕掛けるだけだ。
ラ・ギアスに戻れば、シュウはまた姿をくらましてしまうことだろう。そしてマサキはやり切れない思いを抱えて、機会の訪れを待つだけとなる。だからマサキは期限を設けることにした。明後日だ。戦いが終盤戦を迎えている今、残されている時間は少ない。
「お兄ちゃん、みーつけた!」
そこに響いてきた無邪気な声。甲児の言葉を遮った主の顔を拝むべく顔を上げれば、マサキたちが陣取っているテーブルの脇にリューネとプレシアが立っている。
「マサキ、ちょっとつれなくなぁい?」
どうやら格納庫《ドック》での一件は耳に入っていないようだ。開口一番自分への扱いの不満を口にしたリューネに、マサキは何故か安堵した。シュウに対して快い感情を抱いていない二人組。プレシアとリューネが事の成り行きを知ったら、マサキが制御出来る範囲を超えた行動をするに違いない。
「何がだよ」マサキはリューネに尋ねた。
「あたしたちのこと放ったらかしにしてない? ってこと。こうやって話をするのいつぶりだかわかってる? 昨日ぶりなんだけど」
「昨日ぶりって……まだ一日しか経ってねえじゃねえか」
リューネの言葉で日常を思い出したマサキは、昨日の記憶を振り返った。
夜間にまで及んだ戦闘を終えた後、シロとクロと整備士《メカニック》たちにサイバスターを任せて格納庫《ドック》を出た。そこでリューネに掴まって、プレシアやミオも含めた四人で食事を取った。そして、夜も更けた頃、自室《キャビン》に戻った……。
シュウが自室《キャビン》を尋ねてきたのは、その直後だった。
昨日までは当たり前にあった日常が、今では酷く遠いものに感じられる。その空虚さに耐えられなくなったマサキは小さく溜息を洩らした。せめてもう少し、部屋に戻る時間を遅くしていれば……そんなことを思うも、あれで存外執念深い男である。シュウは機を窺ってマサキの部屋にやってきたことだろう。
「何、その溜息ぃ」
頭上から降ってきた声にしまったと思うも、思いがけず口を衝いて出たマサキの溜息を、リューネは自分に対する嫌気と取ったようだ。口唇を尖らせて、不満を露わにするリューネに、それどころじゃねぇや。と、彼女を相手にしている余裕のないマサキは、プレシアに視線を移しながら云った。
「もしやお前ら、俺の顔を拝みにきたってだけじゃないだろうな?」
「違うよう、お兄ちゃん」
聡明な義妹は、即座にリューネが発する不穏な空気を感じ取ったようだ。にこにこと愛想のいい笑顔を浮かべながら、まるで今までの遣り取りなどなかった風に、「お洗濯するんだけど、お兄ちゃん何かある?」と、小首を傾げながら尋ねてくる。
「洗濯……洗濯ねえ」
なくはなかったが、昨日の性行為の跡が残る下着など洗わせられはしない。マサキは部屋に残る洗濯物を思い浮かべて、暗澹たる気分になった。やっぱり殴れば良かった。そうは思うものの、折角の機会を、あの程度で済ませてしまったのはマサキ自身である。
「ないな。てか、俺自分でやっちまったよ」
「そっかあ。次からはあたしに任せてね、お兄ちゃん。あたし、他に出来ることないし」
正直、この出来のいい義妹に頼りきりになってしまうのは、自立心が高く依存心に乏しいマサキとしては遠慮したいところではあったが、ディアブロの機密性の関係で出撃出来ないプレシアの気持ちも理解出来る。戦う力を有しているのに、他の事情で戦えないことほどもどかしいこともない。だからマサキは笑った。笑ってプレシアの髪を撫でた。
「そうだな。その時はよろしく頼むぜ」
「うん、お兄ちゃん!」
「てか、お前らも座れよ。立ちっ放しじゃ疲れるだろ」
女性ふたりをいつまでもテーブルの脇に立たせている訳にも行くまい。プレシアと話をしたことでまたひとつ心が軽くなったマサキは、その余裕のままに、空いている席にふたりを誘導した。
「ごめんね、お兄ちゃん。あたしはお洗濯があるから」
「あたしはもう寝るよ。夜更かしは美容の敵! なーんてね」
けれどもふたりは珍しくも、マサキたちの輪の中に入ってくる気はないようだ。プレシアはさておきとして、リューネまで。と、訝しんだマサキが食堂の時計を見上げれば、成程、確かに艦内時刻は日付変更線を超える時間になっている。
「もうこんな時間か」
午前中から午後にかけて部屋で燻っていたからだろう。時間感覚の欠如にマサキは驚いて声を上げた。それで甲児とアムロもそろそろ頃合いだと感じたようだ。相次いで座席から腰を上げてくる。
「俺も部屋に戻るかね」
「そうした方がいいかも知れないね。連日戦闘が発生しているし、休める時に休んでおいた方がいい」
話し相手がいないのに、ひとり食堂に残るのも意味がない。「なら、俺も寝るか」マサキは席を立ち上がった。そして、未だテーブル脇に立ちっ放しでいる義妹に声をかけた。
「お前も早く寝ろよ、プレシア」
「大丈夫! お洗濯が終わったら寝るから」
「あたしがついているから大丈夫だよ、マサキ」
「なら、頼んだ」
ともに話をするほどではないが、顔は見たかったのだろう。甲児とアムロに続いたマサキは、リューネとプレシアと連れ立って食堂を出た。そのままランドリーに向かうらしい。食堂の入り口を出たところで、大きな荷物を手にしているリューネとプレシアと別れ、男三人でキャビンがあるフロアに向かう。
「いいよなあ、マサキは。世話焼きな妹がいて。さやかさんなんか、全部自分でやれって煩いこと」
「甲ちゃん、さやかさんに洗濯物まで投げようとしてるのかよ……」
「俺は亭主関白がいいんだよ。出来ればさやかさんには戦って欲しくねえ」
「でも、彼女はそういうのは望まないんだろう?」
「そうなんだよなあ。俺はこれでも心配してるんだけどな……」
他愛ない話を繰り広げながら昇降機に乗り、目指すフロアに辿り着く。
時間が時間だからだろう。減灯された通路はしんと静まり返っている。
「明日も奴《やっこ》さんらは来るんかねえ」
「こない理由がないだろ」
人けのない場所に長居をするつもりはなさそうだ。大きな欠伸をひとつしながら「面倒臭ぇ」と言葉を残した甲児が、昇降口前の通路を左に折れていく。マサキはアムロとともに通路を右に折れて、各々の自室《キャビン》を目指した。
「マサキ、ちょっとだけ話があるんだが、いいかな?」
アムロが改まった態度でマサキに話を求めてきたのは、非常階段近くにあるマサキの自室《キャビン》前だった。「何だ?」と、口にしながら、マサキは手を掛けていた自室《キャビン》の扉から手を離した。アムロを振り返れば、何かを憂いているような表情している。
「明日じゃ駄目な話か」
「君と二人きりで話せる機会はそうないからね」
話の内容はある程度予測がついた。シュウのことに違いない。
昼間、アムロの言葉を受けてマサキの様子を探りにきたシュウ。余計なことをしたのではないかと、この繊細な男なら思うに違いない。
「しゃーねーな。場所、変えるか?」
ようやく安らいだ気持ちで眠れると思っていたマサキは、仕方なしにアムロに向き直った。
「いや、直ぐ済む話だからね。ここで構わない」
「ならいいけどよ。何の話だ?」扉に凭れてマサキはアムロの顔を真っ直ぐに見詰めた。「シュウとのことなら、本当に大したことじゃねえぜ」
嘘だ。
相当な事態が起こっている。
自覚はあったし、それで荒れもした。だが、今のマサキは平静を保っていた。曲がった性根は叩き直せばいい。何せ、世界を滅ぼさんとするほどに我が身を侵食していたヴォルクルスの支配に打ち勝った男である。自らの至らなさを正すことぐらい、あの男であれば可能な筈だ。
とはいえ、何が起こったかを突っ込まれて誤魔化しきれるほど、マサキは嘘が上手くない。どうしたものか――と悩ましさを感じていると、予想外なアムロの返事が耳に飛び込んできた。
「ああ、それは気にしていないよ。いつものことだろう」
どうやら彼はマサキの拙い云い訳を、本気で間に受けてくれているようだ。顔に苦笑いを刻むと、「彼にも困ったものだね」とだけ呟く。
「何だ? じゃあ何の話だ」
「僕の気の所為だといいのだけれども……」
そこでアムロが辺りを窺う様子をみせた。他人に聞かれたくない話であるのだろう。周囲に人気がないことを確認すると、表情を引き締める。
「クワトロのことだけど、気を付けた方がいい」
マサキにだけ届くような声で、けれども明瞭《はっき》りと口にしたアムロに「どういうことだ?」と、マサキは尋ねずにいられなかった。
※ ※ ※
就寝前のひとときを読書に充てていたシュウは、ふと思い付いた理論に、技術的な応用が出来そうだと簡易ベッドから腰を上げた。戦いも終盤戦を迎えたからか、敵機の耐久値が格段に上がっている。グランゾンの攻撃力の向上は、シュウにとって喫緊の課題だった。
※ ※ ※
就寝前のひとときを読書に充てていたシュウは、ふと思い付いた理論に、技術的な応用が出来そうだと簡易ベッドから腰を上げた。戦いも終盤戦を迎えたからか、敵機の耐久値が格段に上がっている。グランゾンの攻撃力の向上は、シュウにとって喫緊の課題だった。
その問題を解決出来そうな理論が組み上がったのだ。
急ぎ、壁に掛けていた上着を取り上げ、自室《キャビン》の入り口に立つ。向かうは格納庫《ドック》だ。静かに開いたドアに身体を通し、人けの失せた夜半の居住フロアに出る。操縦者《パイロット》の多くは、先程の戦闘での疲れを癒しているに違いない。人っ子ひとりいない通路を昇降口に向かって往けば、シュウが来た方向とは逆方向の通路の端に小さな人影がふたつ見えた。
減灯しても明るさが際立つ特徴的な赤毛。ひとりがアムロであるのは間違いない。シュウは目を凝らした。位置的にマサキの部屋《キャビン》の辺りとあっては、興味を抱かずにはいられない。もうひとりがマサキであることを確認したシュウは、昇降機が来るのを待つ振りをしながら、ふたりの会話に耳をそばだてた。
わざわざシュウにマサキの不調の理由を尋ねてきたりと、今日のアムロの行動には不可解な点が多い。そこにある種の意志を感じないほど、シュウは胡乱な人間ではなかった。アムロ=レイ――彼は何某かの情報を握っている。
――クワトロが……
しんと静まり返ったフロアとあっては、潜められた声も良く響いたものだ。全ては聞き取れないにせよ、断片的に言葉が耳に飛び込んでくる。その中に、クワトロの名を聞き取ったシュウは全身に緊張感を漲らせた。昼間に不可解な絡み方をしてきたクワトロ。彼は何を思ってシュウの内面に踏み込んできたのか?
――サイバスターは僕たちからすれば垂涎ものの力を持っている。敵と味方を識別して範囲攻撃を仕掛けられる広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》……君の助力を取り付ければ、戦争の攻略は随分と楽になることだろう。
――サイバスターは僕たちからすれば垂涎ものの力を持っている。敵と味方を識別して範囲攻撃を仕掛けられる広域識別範囲攻撃《サイフラッシュ》……君の助力を取り付ければ、戦争の攻略は随分と楽になることだろう。
――それとクワトロがどう関係してるって云うんだ? まさか俺に力を貸せって話じゃねえだろうな。
――彼には大いなる野望があるからね。
皆まで聞かなくともわかった。
皆まで聞かなくともわかった。
昼間のクワトロの行動がどういった意図の元に行われたのかを理解したシュウは、やってきた昇降機に静かに乗り込んだ。胸の内は騒いでいたが、かといってグランゾンのチューニングを諦めようとは思えなかった。クワトロにクワトロの野望があるように、シュウにもシュウの野望がある。それを叶える為にも、シュウはテイニクェット=ゼゼーナンを自らの手で倒さなければならないのだ。
それに――……と、シュウはせせこましい昇降機の中で壁に凭れながら、先程のアムロとマサキの会話を脳内で反芻した。
胸に抱いた野心を野望と云うのであれば、マサキにも野望がある。彼の野心は平和を築き上げること。青臭い理想を、絶対的な拘束に捕らわれながら彼が追いかけ続けているのは、魔装機神の操者という立場が魅力的《トロフィー》だからではない。彼はラ・ギアス世界で自分に出来ることを考えた結果、たったひとつの絶対的な枷である『世界存亡の危機に於いては、全てを捨てて戦え』を受け入れることを決心した人間であるのだ。
そうである以上、彼がクワトロの甘言に弄されることはないだろう。
だからシュウはアムロとマサキの会話を終わりまで聞くことなくその場を離れられた。マサキに限ってそれはない――と。そう、シュウはマサキに対する複雑怪奇な己の感情の中に、彼に対する確かな信頼があるのを理解していた。
甘えである。
踏みしだかれても頭を戻す葦の如き不屈の闘志。マサキ=アンドーの精神は、シュウに蹂躙された程度で砕けるものではない。シュウは自分ひとりしか存在しない昇降機の中で、自らの甘えた認識を痛烈に思い知った。昨晩の凶行。シュウは蛮行に及びながらも、心のどこかではマサキなら理解してくれるだろうと願ってさえいたのだ。
自分のままならなさを、マサキなら理解してくれるだろうと……。
瞬間、シュウの口唇の隙間から、乾いた笑い声が洩れる。シュウが精神感応《テレパシー》を使えないのと同様に、マサキもまた人の心を読み取るような術は持っていない。それだのに、何を理解せよと云うのだ。妬ましく、厭わしく、けれども愛おしい存在。シュウはマサキに自分の全てを背負わせようとしていることに気付いた。そしてだからこそ、自らの愚かさを嘲るように笑い続けるしかなかった。
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