GWの目標であった20000字更新まであと少し。
なのに終わる気配が見えませんね!!!!!
見込みの甘さはいつものことです。もう暫くお付き合いください。
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<wandering destiny>
一週間近いモーテル生活でストレスが溜まっていたようだ。ホテルに戻ってくるなり、ホテル内の施設のひとつである室内プールを堪能しに出て行ったマサキに、ドバイ以降、情報収集にかかりきりで疲労が溜まっているシュウは、元気なことだ――と、苦笑するしかなかった。
AIに任せたリスト化はまだ完了していないようだ。
マサキをひとりで外には出せないとドバイで彼のランニングに付き合っていたシュウだが、最近は日課だったトレーニングもさっぱりだ。そろそろ中東極右派《マウシム》との対決に備えて、トレーニングを始めなければ。シュウは開きかけた高性能小型携帯端末《ハンドブック》をテーブルの上に置いて、リビングでトレーニングを始めた。
久しぶりだからだろう。マサキのことをどうこう云えないぐらいに各所が弱ってしまっている。
今後のことは今日入手した取引データを精査しなければわからなかったが、場合によっては急展開も有り得る。早めに感覚を取り戻さなければ。魔法が使えるシュウは、武器を使うマサキほど筋力を鍛える必要はないが、世界同時多発テロをこなしてみせるぐらいには大規模なテロ組織が相手だ。拠点は幾つかに別れているに違いなかったし、その本拠地ともなれば、軍事施設に匹敵するぐらいの規模になるのは間違いなかった。そうである以上、体力的な意味で頑健《タフ》である必要がある。マサキが戻るまでの二時間ほど、トレーニングに勤しんだシュウは、プールで軽くシャワーを浴びてきたらしいマサキをリビングに残して、先にシャワーを浴びにバスルームに向かった。
服を脱ぎ、ガラス張りのドアを開いて、空間が広く取られているバスルームに入ったシュウは、バスに湯を張りながら、身体に纏わり付く汗を洗い流した。熱めの湯。半分ほどバスを浸している湯の中に洗い上がった身体を潜らせると、今日の疲れが一気に拭い去られた気がした。
朝にモーテルをチェックアウトし、ドバイ国際空港へ。慌ただしく出国手続きを済ませて、直近の飛行機に乗った。そこから三時間の空の旅を経て、リヤドのキング・ハーリド国際空港に到着。そして、昼食を取りつつホテル探し。それが終われば、アスラハへのクラッキングだ。休みなく働き続けているシュウは、待機を続けなければならないマサキよりも疲れを溜め込んでいたのかも知れない。
何かに打ち込んでいたかった。
あの夜から狂い始めた歯車。咄嗟に口を衝いて出てしまったマサキへの想いは、シュウの運命を大きく変えた。
口に出せば、答えが明瞭《はっき》りする。そう理解していながらも、自分の気持ちに蓋をするようにシュウが現状維持を選んでしまったのは、マサキとの距離感が一向に縮まらなかったからだった。知人としか呼びようのない関係。戦場に立つこと以外で、ともに行動することなど先ずない。距離を詰めたさにマサキに頼みごとをしてみたりもしたが、彼からシュウに対するアクションが起こることはなかった。
シュウは機が熟するのを待っていたかったのだ。
日常に埋没出来ないほどに多忙な魔装機神操者たち。彼らは依頼があれば何処にでも赴いた。ラングラン国内に限らず、諸外国へも。活動域を拡げた彼らは、時には地上に出ることもあったし、戦闘以外の任務をこなすこともあった。
僅かな日常と、多くの派兵生活。彼らの人生の記憶の大半は、穏やかだった人生よりも戦いの記憶で埋め尽くされていることだろう。そこにシュウは楔を打ち込みたかった。自らの存在をマサキに認識させる。けれども彼とシュウとでは戦いに参戦する意義が異なる。自らを拘束する柵から解き放たれたかったシュウと、使命に殉じて戦いを続けるマサキ。小さな考え方の違いが道を分かつ世界では、マサキと同じ戦場に立つこともあれば、離れて行動することも珍しくなかった。
譲れない想いさえ手放してしまえれば、シュウはもっと多くの時間をマサキと過ごせていたに違いない。けれども、それを理解していながらも、シュウは自らの信念を、そして思考を捨てられなかった。
捨てるのは簡単だ。従属を選べばいい。けれどもそれは、マサキが一目を置いてくれているシュウ=シラカワ足り得るのか。シュウとは見ている世界も生きている世界も異なるマサキ。マサキにマサキの誇りと矜持があるように、シュウにもシュウの誇りと矜持がある。
それをマサキは、シュウ以上に理解しているようであった。
もしかすると、マサキはシュウを志を同じくする仲間として認めているのかも知れない。シュウのやることに寛大さをみせるようになったマサキに、シュウは僅かな希望を見出した。だから、機が熟すのを待つつもりでいた。先ずは自分の存在の格をマサキの中で上げるところから。急ぎ過ぎていた過去の自分に反省点を見出したシュウは、自らがマサキを支配するのではなく、肩を並べる存在を目指すべきだとの結論に至ったのだ。
だのに――シュウはバスの中で、宙を仰いだ。
長い戦いに区切りが付き、ようやくこれから彼と人並みに当たり前の付き合いが出来るようになると思っていた矢先だった。運命の神はよくよくシュウに栄光を掴ませたくないらしい。そう嘆きもしたくなるほどの悲劇。シュウを挑発しにかかったあの夜のマサキが、内心どういったつもりでいたのか、シュウには定かではないままだったが、シュウの気持ちを無碍にしたと彼が口にした以上、彼にとってシュウの好意は意図せぬものでしかなかったということだ。
遣る瀬無い。
手で掬った熱い湯を、顔に打ち付ける。幾分正気を取り戻した気分になったシュウはそこでバスから上がった。マサキの記憶喪失と、自分の記憶喪失。あの日々に手応えを感じていた自分はあまりにも愚かだった。それもその筈だ。想いを告げるよりも先に繋がった身体。シュウがもしマサキの立場であれば侮辱されたように感じていたことだろう。ここからの挽回は容易ではない。気の遠くなるようなこれからの日々を思って、シュウはバスルームの中、孤独に溜息を吐いた。
それでも諦めきれない気持ちが胸の内で燻っている。
そうである以上、シュウはしぶとくマサキという希望を内包した存在に縋ってしまうに違いない。その現実を、シュウは誰よりも深く理解していた。
他人の本質的な理解が、自分に対しては欠けていると感じることが多かった幼少期。シュウはそれが自分に授けられた才能の所為であることに気付いていた。優れた人間に劣る人間は、優れた人間の内面を理解する手がかりを持たないのだ。自分を理解出来るのは自分だけであると認めざるを得なくなったシュウは、誰よりも深い洞察力で自分という深淵を覗き込み続けていた。
かといって、直ぐに気持ちを切り替えられるほど、シュウの神経は図太く出来ていない。もう数えるのも嫌になるほどに歳月が経ったマサキとの日々。眠れぬ夜を過ごしたこともあったシュウにとって、マサキの返答は容易く受け入れられる現実ではなかったからこそ。
前向きにこれからの自分のマサキに対する在り方を考えられるようにシュウがなるには、まだ暫くの時間が必要なのだろう。何より、気持ちを切り替えようにも、無邪気なマサキの存在が邪魔をする。あの夜がなかったかのように、いつも通りに振舞うマサキ。ホテルの爆破事件で、シュウに離すよう迫った彼の絶望的な表情は最早幻だ。
それがシュウの心を安らがせる半面、苛立たせもするのだ。
シュウはバスルームを出た。
洗面所に用意されているバスローブを羽織り、洗面台の鏡の前に立つ。面やつれしたように感じられるのは、それだけ情報収集に集中し続けていたからだ。いや――……シュウは苦笑した。正直、あの日からシュウはあまり深く眠れていない。面やつれの理由など明白であるのに、認め難く感じる思い。不謹慎にもテロリストたちの拠点が不明なままであればいいと願ってしまうほど、今のシュウはマサキとふたりきりなこの生活に依存している。
偶には影に潜ませているチカを出してやらねば。
シュウはマサキと合流する前には、幾度か外に出してやっていた自らの使い魔に意識を寄せた。どうやら退屈な日々が続いたことで意識をシャットダウンさせているようだ。彼の意識の欠片さえも読み取れなかったシュウは、けれども僅かに安堵した。
口煩い彼は、主人の現状を知ったら余計な口を利きかねない。煩わしい物患いの種が増えるのは、シュウとしては御免被りたかった。
「あなたもシャワーを浴びてはどうです、マサキ」
鏡を見ながら髪を乾かしたシュウは、努めて平静を装いながらリビングに戻った。膝を立ててソファの上で丸くなっているマサキは、スマートフォンでRPGをプレイしている最中だ。彼の手の中でピコピコと電子音を立てているスマートフォンに、少しはクリアする気になったのだろうか? ゲームの進行度が気にかかったシュウは、熱中しているらしいマサキに尋ねた。
「どこまで進みましたか」
「中盤のボスっぽいな。ラスボス感を漂わせちゃいるけど、時間的にまだ早い。多分、バックに真のボスがってパターンだと思うぜ」
「シャワーは浴びませんか」
「プールのシャワールームで身体と頭は洗ったしなあ。また髪を濡らすのも面倒臭ぇだろ」
「なら、バスに張った湯を抜いてきましょう」
シュウはバスルームに舞い戻った。
ついでとバスルーム内を軽く水で洗い流し、空調を利かせておく。そしてウォークインクローゼットに掛けておいたコートのポケットから高性能小型携帯端末《ハンドブック》を取り出してから、リビングに再び足を踏み入れる。
灼熱の太陽が肌を刺すサウジアラビアは、内陸部と沿岸部で湿度が大きく異なる土地だ。内陸部にあるリヤドは湿度が低く、放っておいてもバスルームは乾くだろうが、蒸れた空気が流れ出てこないとも限らない。過ごし易い気候が常なラングラン育ちのシュウは、蒸れた空気が苦手だった。
「エアコンをもう少し強めてもいいですか」
「ああ、構わないぜ。寒く感じても、ガウンがあるしな」
リビングの空調を強めたシュウは、マサキの対面に腰を落ち着けた。そして高性能小型携帯端末《ハンドブック》を開き、ホログラフィックディスプレイを展開した。AIに任せておいたタスクは完了したようだ。凡そ二百社ほどの取引先企業がリストに並んでいる。
通常の企業より取引先が少ないのは、武器や兵器を扱う企業だからだろう。当初の見込み通りにデータの照会が終わりそうな展開に、シュウは安堵の息を吐いた。あまりにも取引先が多いようであったなら、徹夜の覚悟もしていたからだ。
「取引先のデータって、どうやって照会するんだ」
シュウの見込みが一日程度と聞いているからだろう。スマートフォンから顔を上げたマサキが尋ねてくる。
「公的な企業リストと突き合わせていくつもりです。あとはインターネット上のコーポレートサイトですね。実体のない企業はこれで篩にかけられる筈です」
「随分と原始的な手段を取るんだな」
「情報収集は地道な作業の積み重ねですよ、マサキ。楽して得られる情報などこの世にはひとつも存在しませんからね」
「俺はもっとこう……何て云うかな。魔法みたいにぱぱぱっとやるもんだと思ってたよ。お前のすることだしな」
「世の中、そんなには甘くありませんよ」
聞くべきことを聞いたからだろう。視線をスマートフォンに戻したマサキに、シュウもまたホログラフィックディスプレイの群れに視線を戻した。果たして、この中に中東極右派《マウシム》に関連するデータはあるのだろうか――アシスタントAIを起動したシュウは、リストの頭から、データの照会を始めた。
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