あなたを飼いたいの続き。猫マサにつき注意。
<躾けられたい>
不埒な魔術師にまたも術をかけられてしまうこと三日。依然、マサキは猫のままだった。
無論、直ぐでも元に戻りたいマサキは、術を行使した魔術師の居場所を知っているシュウの許に駆け込んだのだが、この状態のマサキが発情期にあることを知っている男が素直にマサキを元に戻す筈がない。かくて二日に渡ってシュウに弄ばれるに至ったマサキは、今日も今日とてシュウの家に居候を続けている。
二日で彼と交わった回数は五度。
どうもシュウはマサキの中で果てたいというよりは、マサキが達するところを見たいという欲の方が強いらしい。自慰や愛撫で達すること九度。それでも熱の引かない身体とあっては持て余しもする。しかもシュウは人間である。流石に無限に湧き出てくる性欲に突き合わせる訳にもいかないと、昨晩のマサキは忍耐の一夜を過ごしたのだが――。
――出掛ける?
――個人的な用事がありまして、半日ほど家を空けなければならないのですよ。
その瞬間、マサキの胸に去来した複雑な感情を的確に云い表すのは難しい。彼のしつこいまでの愛撫から解放されるという喜びと、体内に巣くっている性欲を発散出来ない苦しみ。どうしたものか。シュウを見送ったマサキは寝室に向かった。
彼の手を借りれないのであれば、自分の力で発散するのみだ。
内鍵をかけて寝室に閉じこもったマサキは、広いベッドに寝そべった。シーツが変えられていることもあって、昨日の情交の痕跡は感じられない。それでも昨日、ここでマサキはシュウと確かに性行為に及んだのだ……脳裏に蘇った記憶の数々に身体の芯が疼き出す。マサキはシャツを捲り上げると両の乳首に指を這わせた。先端をなぞる度にじわりと乳首全体に快感が走る。
「ふ、ニャあ……」
堪え切れずにマサキは喘いだ。思ったより室内に響く。あまりにも自身の喘ぎ声が大きく聞こえるものだから、マサキはドアの外に声が洩れ出やしないかと不安になった。
シャツの裾を噛む。付け焼刃にせよ、何もないよりはマシだ。そう思いながら、乳首を弄り続ける。ん、ん、んん……っ。押し殺した喘ぎ声が耳に潜り込んできた。シュウが不在の間に、彼のベッドで何をしているのだろう。そう思うも、同時に感じる背徳感。彼を裏切って自分は自慰に耽っている……劣情を煽られたマサキは、もどかしさに突き動かされつつ拙速にジーンズを脱いだ。
更に下着も脱ぐ。
そして、確かこの辺りに――と思いながらベッド脇の小ぶりのチェストを漁る。アンティークなサイドチェストの三段目の引き出しの奥。小箱に仕舞い込まれているコンドームを取り出したマサキは、そのひとつを取り出して自身の尻尾に被せた。
そのまま口に含んで濡らす。
シュウの男性器と比べれば半分の細さ。それでもないよりはいい。と、マサキは枕を背中に当てて脚を開いた。嗜虐が趣味な男はベッドの足側に姿見を置いている。そこに映し出されている自身の菊座が収縮を繰り返しているのを見て取ったマサキは、出掛けたシュウが悪いと思いながら、ゴムを装着した自らの尻尾を菊座の中へと挿し入れた。
放した手を乳首に置く。
指先で乳首を弄びながら尻尾を抜き差しする。太さとしては物足りないが、身体よりも感じ易い部位である。菊座に絞られるだに、何とも表現し難い快感が駆け抜ける。ニャ、にゃあ。マサキは我を忘れて鳴いた。にゃっ、にゃっ。これだけでも訳がわからないぐらいに気持ちいい。
「はあっ、にゃん、にゃっ、にゃっ……ああっ」
尻尾の先端で前立腺を刺激する。ぐりぐりと擦り付けると痺れるような快感が男性器に走る。
マサキはひたすらに自分を嬲った。
菊座を自らの尻尾で犯し、乳首を自らの指で犯す。けれどもそれだけでは物足りない。マサキはベッドに伏せた。膝を折って丸くなり、男性器をシーツに押し付けながら腰を振る。無論、菊座に挿し入れた尻尾を動かすことや、乳首に当てた指を動かすことも忘れない。にゃん、にゃっ。もうそろそろ限界が近い。マサキがそう感じた瞬間だった。
かちゃりと寝室の鍵が開いた。
驚きのあまり動きが止まる。ドアを開いて寝室に入ってきたのがシュウだとわかって二度止まる。あまりの絶望にマサキが言葉を失っていると、寝室のドアを閉めたシュウが後ろ手でしっかりと内鍵を掛け直しながら、
「私の不在時に私のベッドでひとりで楽しむとは、躾けのなっていない猫ですね」
「あ、いや……その……」
「どうやらあなたには正しい躾が必要なようだ」
まともな返事をマサキがしなかったからだろう。これ幸いと思っているに違いない。にたりと不気味な笑みを浮かべたシュウが、作り付けのクローゼットの扉を開く。何をするのかと思いきや、用意はあったようだ。中からリードを取り出してみせたシュウが、ベッドの上で所在なく座るしかないマサキの首輪にそれを繋げてくる。
「ほら、マサキ。こちらに腰を向けて」
「腰を向けろって、何をするつもりだよ」
「私の不在時に不埒な振る舞いに及んだあなたに対してすることなどひとつでしょう。腰を向けなさい」
云うなりリードを引いてきたシュウに首が締まる。マサキは咽た。そして覚った。
この状態では云うことを聞くしかない。
マサキは四つん這いになってシュウに臀部を向けた。クックと響いてくるシュウの嗤い声が、彼のよからぬ企みを予言しているようでもある。怖い。マサキは竦み上がるも、彼の家で自慰に耽ったことは事実である。
「こんな風にしてまで菊座を弄りたかったのですか、マサキ」
まだ後ろ孔に先端を残している尻尾をシュウの手が撫でる。ふにゃあ。反省の気持ちは何処にやら。シュウの手で与えられる快感に、マサキの理性は呆気なく瓦解した。にゃっ、にゃっ。腰を振りながらシュウの愛撫に身を任せる。
「いけない子ですねえ、マサキ。堪え性のない」
「だって、お前。俺を元に戻さないじゃないか」
「口答えとは元気な人ですね。なら、こうしましょう」
じり、とスラックスのファスナーを下ろす音がした。ほら、身体を起こして。リードを引いてマサキを膝立ちにさせたシュウが、腰に手を添えてマサキに臀部を突き出させる。「きちんと根元まで飲み込みなさい」尻尾もそのままに菊座に男性器を突き立ててきたシュウに、「にゃっ、にゃああああッ!?」マサキは悲鳴に近い声を上げた。
「淫乱なあなたにはこうした扱いが相応しいでしょう。どうです、マサキ。私の男性器は」
「あ、にゃ、にゃああ……」
尻尾が擦られたからだろう。目の奥がスパークするほどの快感がマサキに襲いかかった。背筋を貫いた一筋の電流に、そのままシーツに伏せそうになる。だが、腰を支えているシュウの手がそれを許さない。しっかとマサキの身体を引き寄せてきた彼が、「腰を動かしなさい」マサキの耳元に囁きかけてくる。
「自分で、動くのか」
「当たり前でしょう」嗤いながらシュウが続ける。「私が達くまで自分で動くのですよ、マサキ」
そして片手にしたリードを引いてくる。
あう。マサキは喘いだ。
首に食い込んだ首輪が喉を締め付けている。マサキは急ぎ腰を振った。と、緩むリード。はあ。にゃあ。安堵したマサキはシュウの機嫌をこれ以上損ねないように腰を振り続けた。熱い。心臓と化した菊座が熱を帯びている。
「そんなに物欲しそうに腰を振って。誰に躾けられたのでしょうね、あなたは」
「お前が、教えたんだろ……ッ」
にゃあにゃあと鳴きながらマサキは更に腰を振った。あともう少しで達せそうなまでに高まっていた身体。シュウの登場で一度は消えた情欲が、再び胸の内に呼び覚まされてくる。
ああ、ああ、にゃあ。マサキは尻尾を揺らしつつ、がむしゃらに腰を振った。
「イク、イク。シュウ、もうイク……ッ!」
ややあって、大きな波がマサキを浚った。
陰嚢から尿道までと男性器を駆け巡る強烈な快感。自らの精を放ったマサキは、糸の切れた人形のようにシーツの波へと身体を沈ませた。
※ ※ ※
リードに繋がれたまま、ぐったりとマサキはベッドに伏せていた。
※ ※ ※
リードに繋がれたまま、ぐったりとマサキはベッドに伏せていた。
二度、三度と、求めるがままにシュウとまぐわった身体は、体力的な限界を迎えていた。最早一歩たりとも動きたくない。瞼を落としたマサキの背中を撫でていたシュウが、まだ体内に残していた己の男性器をそっと抜き取る。栓を失ったことで押し流されたようだ。どろりと溢れ出てくる精液の量が、シュウとマサキの欲望の深さを表しているようだ。
「そういやお前、用事はどうしたんだよ」
「また後日にしますよ。約束の時間はとうに過ぎてしまいましたしね。それに……」
リードを引いたシュウがマサキの口唇を塞いでくる。軽い口付けを終えたシュウはマサキの顔を覗き込んで嗤った。
「あなたの躾をしないとなりませんしね」
マサキはシュウの胸元に擦り寄った。
三日に渡って性行為に耽り続けているのだ。とにかく眠りたくて仕方がない。それでも……。
「ちゃんと躾けろよ。俺がこれ以上の粗相をしないように」
「勿論」見上げた先のシュウの顔に、満足げな笑みが浮かんでいる。
この調子では明日も元には戻れなさそうだ。そろそろ飽きればいいものを――とは流石にマサキも思うも、かといって発情期にある身体の熱は冷める気配がない。起きたらまた相手をしろよ。そう口にしてマサキは今度こそ、深い眠りに落ちて行った。
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