開発つーより、隠された性癖の発掘といった方が正しいですがキニシナイ!
<安藤正樹の開発日記>
(二)
耳朶から首筋、うなじと辿ったシュウの口唇が背筋を通ってゆく。ぞくりと背なを駆けあがってくる怖気にも似た快感。甘やかに自らの身体を溶かしてゆく愛撫に、マサキは口唇を開いたまま、幾度も熱い吐息を吐き出した。
全身を舐られるのは四度目だった。
乳首を責められた後に全身を舐め回された一度目。自慰では決して手に入れられない快感の数々に、マサキは全身をしならせて喘いだ。
肘裏、手首、腿の付け根。踝や手のひらにしてもそうだ。シュウの舌が這うだに全身がわななく。思いがけない場所に生じた予想もしなかった快感は、マサキの感度を極限まで高めていった。それは、終わり際に男性器を軽く吸われただけで果ててしまうほどに、マサキの身体を深く侵していた。
喘ぎ続けた喉は枯れ尽くし、声が戻るまでに二日を要した。
一週間が経過して迎えた二度目。指を弄ばれるところから始まったシュウとの訓練は、一度目と同様にマサキの身体を過敏にした。どこを吸われても気持ちがいい。その、身体を犯し尽くすような快感は、マサキの怖れや警戒心をひと思いに吹き飛ばしていった。
その翌週の三度目もそうだった。間隔が開いた分、マサキの身体は飢えを感じていた。だからだろう。何が変わった訳でもなかったシュウの口技は、けれども呆気なくマサキの理性の殻を叩き割った。
魂を直接舐め回されているような感覚。
どこを触れられても快感に襲われる。その中でも先んじて愛撫に慣らされていた乳首は、特に敏感な反応をみせた。シュウもそうした効果を狙っていたのではないだろうか。焦らしに焦らされた果ての口付け――それまで一度も触れられなかった乳首を吸われたマサキは、再び男性器から透明な液体を噴き立たせた。
きっとそれが冷静なシュウをして、熱情に駆り立てたのだ。全身に刻み付けられた紅斑。風呂に入るのに気を遣う生活は、こうしてまたシュウに呼び出される前日まで続いていたものだった。
「あっ、ああ……っ」
腰の付け根。痕を付けるように肌を吸い上げていたシュウが、おもむろに両手でマサキの双丘を割った。反射的にびくりと振れる肩。やだ、そこはやだ。マサキはシーツに埋めていた顔を上げて抗議の声を上げた。
ずうっと宙に浮いているような感覚に包まれていた身体と意識が急速に醒めてゆく。
どうして? そう言葉を吐いたシュウの視線はマサキには窺えなかったが、きっとマサキが一番見せたくない場所に注がれているに違いなかった。
「だって、そこは――」
静かに、けれども微かな興奮を伝えてくる呼気が、開かれた双丘の谷間に当たっている。気恥ずかしさと情けなさがないまぜになった感情。いたたまれなさにマサキは言葉を詰まらせた。
シュウの許を訪れる前に浴びたシャワー。マサキは自分でも信じられないぐらいに、念入りにそこかしこを洗い流していた。勿論、彼が今視線を注いでいる後孔にしてもそうだ。ソープを指に付けて、撫でるように洗い流した箇所。いつ彼の舌が触れてもいいようにと、マサキは自分なりの準備を済ませていた。
それでも抜け切らない抵抗感。それはこの一週間の間に、次の機会を待ちきれなかったマサキが好奇心でしたことが原因だった。
自慰のついでに軽く挿し入れてみた指。緩く回してみれば、どこかむず痒い。思ったよりも抵抗感なく後孔に入り込んだ指に、いずれはここを使うようになるのだろう。そんなことを思いながらマサキは男性器と後孔を自らの手で嬲った。
それは射精に至るその瞬間まで――……。
けれども、精液を吐き出して暫く。倦怠感が抜ける頃になると、沁みた痛みを感じるようになった。
眠れないほどではないにせよ、これまでの経緯が経緯だった。迷い悩むことを知らない。シュウの愛撫に順調に慣らされていったマサキの身体は、快感以外の感覚に晒されたことがなかった。
だからマサキはその痛みに、現実を思い知ってしまったのだ。
シュウを受け入れるということはこういうことでもある。
眠って、目を覚ます頃には霧散してしまっていた痛み。それは、夢だと云われれば信じてしまいそうになるくらいに儚かったが、その日の間中、喉に引っ掛かった魚の小骨のように、不快な感触となってマサキの身体に残り続けた。
けれどもここまでマサキを陥落せしめたシュウが、その程度の抵抗でどうして退いてくれたものか。彼には彼の果たしたい欲があるのだ。でなければ、ここまで時間をかけてマサキを快楽に溺れさせもしまい。
「ねえ、マサキ」
ひだの寄った蕾をゆるりとシュウの指が撫でた。
反射的に、びくりと縮こまった身体。その反応でマサキの胸中を覚ったのだろう。大丈夫ですよ。シュウが穏やかに言葉を紡ぐ。
「ゆっくりやりましょう。今日は舐めるだけ。だからそんなに構えないで」
「本当に……?」
「ええ、約束します。だから脚の力を抜いて。そんなに硬くなられてしまっては、感じるものも感じなくなってしまうでしょう」
まるで子どもに云い聞かせているようなシュウの言葉に、確かに――と、納得したマサキは喉に溜まっていた息を大きく吐き出した。
瞬間、すうっと脚から余計な力が抜けた。長く気の張る戦場に身を置いていたこともあって、力を抜くコツは誰よりもよくわかっていた。そのまま、脚を起点に全身の力を抜いていく。そして、それだけなら。そう答えてシーツに顔を埋め直す。
ええと頷いたシュウの口唇が臀部を吸った。また紅斑を刻み付けているようだ。その柔らかい感触に、マサキは萎れた心が再び高まってゆくのを感じていた。
シュウの愛撫は、マサキの欲望をこれ以上となく満たしてくれる。
それは彼がマサキの反応に意識を向けてくれているからだ。マサキはわかっていた。身勝手に自らの欲望を押し付けてくるだけではこうはいかない。そもそも、何も知らない身体であったとはいえ、マサキにはマサキなりの性の常識があったのだ。男と女。それを覆し、且つ新たに教え込む。彼が強引に事を進めていたら、マサキはこうまで彼の愛撫に溺れはしなかった。
「あんま、付けるなよ……風呂、大変だったんだぞ」
ええ、と頷いたシュウが、マサキの肌から口唇を剥がした。直後、澱んだ熱を孕んだ呼気が谷間に吹きかかってくる。ああ――と溜息にも似た声がマサキの口唇から洩れた直後、シュウの舌が臀部の奥に潜んでいる蕾に触れた。
「ん……」
時折、口唇が吸い付いてきては、淫らな音が響き立つ。それが例えようもなく胸を騒がせる。マサキは目を細めて、シーツを指先で掻いた。
ゆるゆると這いまわる彼の舌の感触が心地いい。はあ、ああ。ゆっくりと剥がれ落ちてゆく理性が、脳に霞を張る。思考がまともに働かなくなったマサキは我知らず腰を振った。ざらついたシュウの舌の感触を、より広く味わう為に……。
「ほら、マサキ。|達《い》って」
腰を浮かせたマサキの男性器にシュウの手が絡んでくる。
緩く陰茎を扱いてくる彼の手と、蕾を舐め回している彼の舌。ゆったりと過ぎてゆく時間が、徐々にマサキの身体と心を高ぶらせていった。もっと、もっと。快感を求める気持ちに終わりはなく。マサキは腰を振って、シュウに与えられる快感を貪った。
みっともない格好をさせられているのはわかっている。だのに、腰が立たなくなるぐらいに気持ちがいい。
ああ、あっ、シュウ……口を衝く彼の名前。それに応じるように激しさを増す舌の動き。次第に白けていく脳が、マサキの意識を覚束なくさせる。|達《い》かせて、シュウ。もう、イかせて。何を自分が口走っているかも、もうマサキにはわからなくなってしまっていた。
シュウの愛撫で快感に導かれたマサキは、それから程なくして果てた。
それでシュウは『次の段階』に進むことを決めたようだ。この後、マサキは三日と開けず呼び出されては、今度は後孔に責め立てられることとなった。
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