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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

雪原にて(後)
@kyoさんにリハビリをさせようリクエスト作品第六弾

<お題>
肌を合わせてあたたまるシュウマサ

<雪原にて(後)>

 ウサギ肉のシチューを夕食に身体を温めたマサキは、シュウに勧められるがままシャワーを浴び、リビングで異常気象を中継するテレビのニュースをのんびりと眺めて過ごした。相変わらず自らの欲に限りがないシュウは、そんなマサキの傍らでソファの上。読書に余念がない。
 それでもマサキを気にかけてはいるらしい。この寒さの中、数十分とはいえ冷気に晒され続けたのだ。マサキの為に食事の支度のみならず、風呂の支度までしてのけた男は、「寒くはない?」と定期的にマサキを気遣う言葉を吐いた。
 マサキのぐずる鼻は夜になっても収まらなかった。
 薬を飲んで鼻を噛み、それでも収まらない鼻の詰まりにまた鼻を嚙む。それが良くなかったのだろう。既にヒーターで温められた寝室にマサキがシュウを伴って、身体を休めに訪れる頃には、瞼の上に熱っぽさを感じるまでになっていた。
「鼻が赤いですよ」
「なんか熱っぽい」
 キングサイズのベッドに枕を並べるのはいつものこと。マサキはそろそろ倦怠感に支配されつつある身体をベッドの中、投げ出すようにして目を閉じる。
「鼻を噛み過ぎたのでしょうね、薄皮が剥けかかっている」
「本当か。これ、後からヒリヒリするから嫌なんだよな」
 マサキの隣に身体を収めたシュウは、けれどもまだ眠る気はないようだ。サイドテーブルの上の灯火器《ランプ》を点灯させると、持ち込んだ本を膝の上に開く。
「なんだ、寝ないのか」
「あなたのサイバスターをどうにか動けるようにしないとなりませんしね。この寒気が居座っている間中、あの雪原に屹立《きつりつ》させておく訳にもいかないでしょう? |風の精霊《サイフィス》にはやる気を出していただかないと」
「そっか……」
 どうやらシュウが読書に耽っていたのは、そうした理由からであったらしい。なんとはなしに気恥ずかしさを感じたマサキは、ブランケットの中に伸びているシュウの足に身体を寄せた。
 いつだってそう。シュウは最後の砦だ。マサキひとりではどうにもできない事態を、その知識と行動力で打開してくれる……――。
「どうかしましたか、そんなに擦り寄って」
 骨ばったシュウの手がマサキの髪の毛を梳く。こんな時に素直に謝礼を述べられる性格であったならば、シュウとの付き合いにこんなに苦労はしないだろうに。上手く言葉を吐けずにいるマサキはシュウに髪を撫でられるがまま、己の捻くれた性分に臍を噛む。
「ねえ、マサキ。過去最大級の寒波がラングランに停滞しているだけあって、暖炉のないこの部屋はヒーターを入れていてもそれなりに寒い。そうは思いませんか」
 ブランケットに肩まで潜っているマサキの身体は温まっていたけれども、確かに。顔に当たる空気はひんやりと頬を冷やしている。
 刺すような冷たさではないものの、温まりきったとは言い難い室温。マサキですらそう感じるのだ。ならば、足だけをブランケットに収めているシュウは?
 ガウンを羽織ってはいても、寒いに違いない。
 でなければどうしてああした台詞が口を吐いて出たものか――。マサキはシュウの足を覆っているブランケットを捲った。「だったら本は明日にするか、リビングで読むかにしろよ。ブランケットの中は温かいんだから――」ほら、と言いかけたマサキの身体にシュウの手が伸びてくる。首筋から鎖骨へ。そして襟元の内側へと。
「だから、ねえマサキ。こんな寒い夜は人肌で温まりたいのですよ」
「馬鹿、お前、またそうやって……」
 腕を取られたマサキは力任せに引っ張るシュウの力に引き負けて、その足の上。腿で挟み込むように座り込むと、早速とばかりにシャツを脱がせにかかるシュウの手に身を任せる。
「明かり、消せよ……」
 開いた胸元を辿る冷えた指先が、外気に晒されてぴんと宙を仰ぐ乳首の上で止まる。「こんなに愛らしいあなたの姿を、暗闇に潜ませるなんて勿体ない」そうきっぱりと言い切ったシュウの肩に手を伸ばす。始まったばかりの愛撫。夜はまだ長い。ああ……と、薄く開いた口唇から吐息を洩らしながら、マサキはじんわりと立ち上ってくる快感に身体を震わせた。

 開けて翌日。倦怠感と熱っぽさを訴えるマサキをベッドに沈めたまま。脇に差した体温計の温度を見たシュウはひとこと「風邪ですね」とだけ云った。
「誰の所為だよ、誰の……」
「楽しんだのはあなたも一緒でしょう?」
 日頃の不摂生が祟らないのか。涼しげな顔をしてベッドの脇に立っているシュウは、用意した薬をマサキに飲ませると、その耳元に口唇を寄せて、「しばらくはあなたの姿が頭から離れそうにない」
「忘れろよ……さっさと……」
「出来ればそうしてあげたくあるのですがね」
 云いながらシュウがクック、と笑う。そしてきっと昨晩のマサキの痴態を思い出したに違いない。指先をマサキの口唇に滑らせると、何をしたのか思い出させるように何度も撫でる。
「お前……俺はこれでも病人なんだぞ」
「早く良くなっていただきたいものですね、マサキ。でないと我慢が効かなくなりそうだ」
「病気の内は止めてくれ」
「病気が治ったら、いいの?」
「治ったらな」マサキは自暴自棄気味にそう云い捨てると、ベッドの中に深く潜った。「だから早くサイバスターを直しに行けよ」
 昨日までの大雪が嘘のように止んだ朝。
 中天には久しく姿を見せなかった太陽が、眩いばかりの光を放っている。
 高く積もった雪がその姿を消すまでにはまだまだ時間がかかりそうだったけれども、これで寒波で機能不全に陥っていたサイバスターも回復に向かうに違いない。「では私はサイバスターの修理に向かうとしましょう」マサキは笑いながら寝室を後にするシュウの後姿をブランケットの隙間から覗き見て、その姿がドアの向こうに消えると同時にほっと息を吐いた。


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