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あおいほし

日々の雑文や、書きかけなどpixivに置けないものを。

夜離れ(12)
このテンプレートだと2000字くらいから、表示が壊れて改行が上手く入らなくなるんですよね。
ということで、今回から短めに。
夜離れ(12)
 
 それは交尾というより、嗜虐性に溢れた交配だった。
 夜半過ぎ。人払いを済ませた拠点《アジト》の一室で、自分の望む最高の夜をと、控えめながらも精一杯に着飾ってみせたモニカの乙女心を踏みにじるのは、さしものシュウも些かながら胸が痛まなくもなかったが、今後に繋がり兼ねない隙を見せるほど情にも厚くもなれず。それは却って彼女の自尊心を傷付けることになる――と、己に言い聞かせてベッドの前。幾分、緊張した面持ちのモニカと向き合って立つ。
 
 ――我ながら非道い男だと思う。
 
 恐らく、自分はどこかが壊れてしまっているのだろう。自らの感情の乏しさを振り返るにつけ、シュウはそう思わずにいられない。喜びの乏しさ、悲しみの乏しさ、口惜しさ、憎さ……好ましさや愛しさなどは言うに及ばす、凡そ、全ての人間らしい感情に乏しさを感じてシュウは生きてきた。
 それを取り戻そうと足掻いてみたこともあった。人間らしさとは何なのだろうと、それまで目にしてきた世界から導き出した答えを実践してみたのだ。けれどもそれは何らシュウに望んだ結果を齎さなかった。
 その現実に寂しさを感じないと答えれば嘘になる。ただそれは心に穴が開いたとも表現される喪失感には程遠いものなのだ。
 寂寥感、あるいは侘しさとでも例えればいいのだろうか。否。それよりももっと軽い”何か”……柔い白地のやや胸の開いたドレスに、薄地の|重ね羽織《シュミーズ》。モニカの慎み深さの中にも扇情的な色香を感じさせる姿を眺めながら、シュウは考えていた。
「脱いでください」
「今、ここで、ですか」
 だから、妬ましくも羨ましいのだと、|自分以下の《知能の低い》他人に対して、憧憬にも似た感情を覚え、そして、それを徹底して踏みにじる瞬間に、シュウは例えようのない快絶を覚えるのだ。
「灯火器《ランプ》の明かりが気になりますか」
「はい……」
 視線を彷徨わせたモニカの目線を辿ってシュウは思う。これが、思い詰めたあげくに自分に迫ってみせた女性の、年齢相応の本性でもあるのだと。
 その不慣れさを嘲笑しようとまでは思わなかったけれども、どうかすると緩みがちになる喉奥を引き締めなければならない程度には、シュウはモニカを見下している。
 今、この瞬間にも。
「今更に生娘を気取ってみせても始まらないでしょう?」
 微笑みながらシュウは言う。言って、ふと脳裏に過ぎった考えを打ち消すように続けた。「貴女は母になるのですよ、モニカ」
 
 ――彼ならどう行動するだろう? 或いは、自分は。
 
 それが、考えることすら傲慢な|If《もしも》であることをシュウはわかっている。そして、そこで踏み止まれる程度には、良心を残しているらしい己を自嘲するように、覚悟に口唇を結んで衣装に手をかけたモニカを目の前に、シュウは声を殺してくっく……と嘲笑《わら》った。


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