「あの日が永遠に戻らないように」で始まって、「花は咲かない」で終わる物語を書いて欲しいです。ちょっと寂しい話だと嬉しいです。」のお題を消化したもの。いつも通りに好き勝手しているお話です。
拍手有難うございます。励みになります!
そろそろ更新を再開すると云ったのですが、もう少しだけお待ちください。肘の鎮痛剤なんですけど、副作用の関係で一番弱いものが出てるんですよね。だからか、痛み出すと全然効かなくなるんです。
なので痛み出したら肘を伸ばして横になって休むしかなくなってですね。我儘ではあるんですけど、あちらは一気にがーっと書きたいので……肘の調子のいい日に書かせてください。お願いします。と、いったところで本文へどうぞ!
拍手有難うございます。励みになります!
そろそろ更新を再開すると云ったのですが、もう少しだけお待ちください。肘の鎮痛剤なんですけど、副作用の関係で一番弱いものが出てるんですよね。だからか、痛み出すと全然効かなくなるんです。
なので痛み出したら肘を伸ばして横になって休むしかなくなってですね。我儘ではあるんですけど、あちらは一気にがーっと書きたいので……肘の調子のいい日に書かせてください。お願いします。と、いったところで本文へどうぞ!
<水に沈めた未来《あした》>
あの日が永遠に戻らないようにと、欄干の上からシュウは宙に手を伸ばした。
底が見えないほどに澱んだ深く暗い河。河道を渡る人気の絶えた橋の上にひとり立ち、暫くそのままの体勢で何かを思い悩むように瞳を伏せていたシュウは、やがてゆっくりと瞼を開いた。そうして、躊躇う必要などどこにもないのだと自らに云い聞かせながら、緩く握っていた手のひらを川面に向けて傾ける。
指の隙間から零れているチェーンが、ラ・ギアスの陽の光を受けて眩く輝いた。それは涙のようにも映る輝きだった。まるでシュウとの別れを惜しんでいるかのように、微かに揺れる指先から伝わる振動に合わせて、チェーンの上から下へと光が伝い落ちてゆく。
それが浅ましく映るのは、決してその装身具にシュウがいい思いを抱いてないからだった。
小さく洩らした溜息の意味を、自ら洩らしたものでありながら、シュウ自身も捉えきれずにいた。未練なのだろうか……? 胸に渦巻く例えようのない感情。それはシュウを以てして、暴力的な振る舞いに駆り立てるものだった。とはいえ、衝動的に拳を振り上げる性質でもない。所詮、感情など脳の伝達物質の働きでしかない。そう自らの暴虐的な感情を鎮めたシュウは、いつまでも未練がましくこの手に抱いていていい品ではないのだと、冷ややかにチェーンを一瞥すると指をそっと開いた。
手を離すのを躊躇った時間の長さと比べると呆気なく、川面に吸い込まれていくロケット付きのペンダント。王族が所有していた装身具だけあって、宝石で飾り立てられたペンダントは、その豪華さに見合わぬ沼のような川に沈んでいった。
――いつかお渡し出来たら、と思っていたのですわ……
そう云って、おずおずとシュウにペンダントを差し出してきたモニカ。その表情はシュウの脳裏に焼き付いている。
怯えたような顔。悲しみを含んでいるようにも映った彼女の双眸《そうぼう》は、シュウがどう反応するか予測していたからだろう。恐らく、彼女は彼女なりに、そのペンダントをシュウに渡す時期を見計らっていたのだ。それが自らの予想と異なり、幸福な結末に至らなかったからこそ、彼女は畏れと悲哀を露わにシュウと対峙するしかなくなった。
――どうかご覧になってくださいませ。
そのペンダントの由来は、流石にシュウにも予想が付いた。わざわざモニカがシュウに差し出すぐらいだ。由縁のある品に違いない。そこまでわかれば後は早かった。きっとあの女《ひと》が所有していた品であるのだろう。けれども、そこまで考えを及ばせておきながら、シュウとしてはまさかという気持ちの方が強かった。
そんなことがある筈がない。差し出されたペンダントを引っ手繰《たくり》たくなる気持ちを抑えながら、モニカの手からそうっと取り上げたシュウは、ロケットの部分を自らの手中に収めると、指先に余る程度の小さな蓋を開いた。
開いて、絶望した。
幼き日の自分の写真。あどけなさが才気に勝る表情をしている。
輝ける未来を純粋に信じていたあの頃、シュウにとって世界とは自らに対してのみ微笑みかけてくれるものであった。立場故に触れ合いこそ少なかったものの、人並みの愛情を注いでくれる両親。尽きぬ財力を誇る家系。魔術に剣術、そして勉学。全てに才能を発揮出来たシュウは、我が世の春を謳歌していた。
奢っていたあの頃の自分。その時代の自らの写真を目にしてしまったシュウは、だからこそ動揺せずにいられなかった。全てが覆されたあの日。愛情とは仮初めに与えられるものであるとシュウは知ったのだ。
だからこそ、こう思わずにはいられなかった。こんなものをあの女《ひと》が持っている筈がないと……。
そこからシュウが決心を固めるまで、そう時間はかからなかった。これは私が持っていていいものではない。シュウは過去と決別して今に生きているのだ。乗り越えられない時間を、思い出させる縁《よすが》となる品など手元にあっても無駄なだけ。
ふと向こう岸に目をやれば、今まさに蕾を開かんとしている花畑があった。忌々しい。シュウはそこで初めて自らの感情に正直になった。
手のひらに魔力を集めて、手を振り翳《かざ》す。その剣呑な雰囲気が伝わったのだろう。近くの木々から一斉に鳥が飛び立つ。
それでもシュウは、自らの行いを止めようとは思わなかった。
川に捨てた過去。それはもしかしたら、シュウが新たな未来に辿り着く為の始まりの一歩となったやも知れない。きっと訳知り顔で物を語りたがる神官イヴンであったなら、シュウをそう諭そうとしたことだろう。そんなことはわかりきっている。そういった周囲の人間の反応が即座に思い浮かぶだけに、シュウの怒りは限りない。
――誰も彼も知った風に私を説得しようとする。
その怒りのままに、翳した手から魔力を放出する。
無頼に花畑に迫る魔力。見渡せる限りの景色を薙ぎ払う魔のエネルギーが、花畑にひしめき合う植物を一気に萎れさせた。これでいい。シュウは自らの行いに満足すると、踵を返して橋の奥へと。ただただ残忍な笑みを浮かべながら、今にも喉を突き破りそうな嗤い声を押さえ込んで、一度たりとも振り返ることなく。
そうして、何ら感慨に耽ることもなく、シュウはこう思った。あの花畑に二度と花は咲かない。
.
.
PR
コメント