メリークリストフ!(二回目)
正確には今日はまだイブなのですが、昨日のイブイブから絶好調で気分の盛り上がっている&25日が仕事の私にとっては、今日がクリスマス本番にございます。ということで今回のお題は「可愛く酔っ払ったマサキとラブラブなお家クリスマスデート」です。
あれ? あんまり可愛くない……?汗(出来上がった作品を見ながら)今回のクリスマスネタ、全体的に白河へのご褒美感が凄い分、マサキが滅茶苦茶頑張っております。そこを可愛いと思っていただけましたら幸いです。
ということで、次回の投下時間は25日中となっております。宜しくお願いします(*´∀`*)
正確には今日はまだイブなのですが、昨日のイブイブから絶好調で気分の盛り上がっている&25日が仕事の私にとっては、今日がクリスマス本番にございます。ということで今回のお題は「可愛く酔っ払ったマサキとラブラブなお家クリスマスデート」です。
あれ? あんまり可愛くない……?汗(出来上がった作品を見ながら)今回のクリスマスネタ、全体的に白河へのご褒美感が凄い分、マサキが滅茶苦茶頑張っております。そこを可愛いと思っていただけましたら幸いです。
ということで、次回の投下時間は25日中となっております。宜しくお願いします(*´∀`*)
<1st X'mas>
運動会や遠足が楽しみで眠れなかったあの頃のように、翌日のイベントが楽しみで眠れなくなる日がまた来るなどとマサキは思ってもいなかった。
約束のクリスマス。ふたりで一緒に過ごすと決めた一年前の約束を叶える為に、苦労を重ねたクリスマス。毎年恒例のイベントに不参加を決めたマサキに他の操者たちは大いに物を云いたそうではあったけれども、その分、今年のマサキは年頭から例年よりも彼らとの交流に励んできた。酒席に付き合い、食事に付き合い、買い物に付き合い、海だ山だピクニックだのの誘いにも面倒臭がらずに応じ……と、人付き合いに不精なマサキにしては、精力的に彼らとの交流をこなしてみせたものだ。
その励みっぷりは、パーティの開催権を持つテュッティに「今年は何だかんだで結構集まったものね。クリスマスだニューイヤーだって、わざわざやるほどでもないかしら」と云わせたほど。そのままどちらのパーティもお流れになるかと思いきや、イベント好きな一部の魔装機操者たちが騒いだこともあって、残念ながらパーティそのものは開催されることとなってしまったものの、そうした陰ながらの努力の成果だろう。マサキのクリスマスイベント不参加に、表立って文句を云う操者はいなかった。
魔装機操者としての責務もそう。クリスマスに予定を開ける為には、日頃の努力も必要だ。災いの芽は早めに摘むに限ると、マサキは任務にも積極的に励んだ。元々、操者の任務への参加は任意ではあったけれども、事前に話を通しておいた方が、不測の事態に対する不在を責められずに済む。「毎年、このぐらいあなたが真面目に取り組んでくれればいいのだけど」セニアはそう云って、クリスマスイブから年末にかけてのマサキの休暇願いを快く受理してくれた。
そうして迎えたイブの前日。浮かれ騒ぐ心を抑えきれずに早めにベッドに入ったマサキは、夜半をかなり過ぎるまで眠れなかったものだ。
それが恐らくは良くなかった。イブの当日。シュウの独り家のリビングで、マサキが街で買い求めた料理とシュウが頼んだケータリングの料理が並んだテーブルを挟んで、先ずは乾杯と飲んだグリューワイン。きっと量を飲めないマサキの為だろう。シロップ入りの甘いそのワインをたった一杯。口当たりの良さにあっという間に飲み干してしまったマサキは、さほど時間も経たない内に、自分でもどうかしていると思うほどに酔ってしまったのだ。
「それだけ頑張ったんだよ、今年は」
「聞いていますよ、マサキ」
料理を目の前にしながら、ソファの上。シュウの膝を枕にマサキは横になっていた。悔しいやら情けないやらで、気が付けば、話さずにいようと思っていた今年一年の苦労話を、愚痴混じりにシュウに蕩々と語って聞かせてしまっていた。
普段なら一週間はかかる任務を三日で終わらせた日のこと。城下町のバーゲンセールに荷物持ちとして連れて行かれた日のこと。誰かの誕生日だ記念日だと云っては酒席を設けたがる操者たちに付き合い続けた地獄の五日間のこと……シュウは穏やかな笑みを湛えて、黙ってそれらの話を聞き続けてくれていたものの、話し終えたからといってマサキの気が晴れたり酔いが覚めたりするかと云うと、そういう類の話でもない。
「大丈夫ですよ。まだ昼間なのですから、水を飲んで少し休みましょう。ベッドに行きますか、マサキ」
こうして横になっている分には呼吸が荒くなる程度で済むものの、起き上がると酷い目眩がする。「やだ。ここにいる……」マサキは首を振ると、シュウの腰に腕を回してしがみ付いた。
魔装機操者としての生活や任務に励みに励んでようやく迎えたクリスマス。年に一度しかない聖なる日。悪酔いしたからといってベッドで時間を潰してしまうなど、マサキには勿体なくてできそうにない。
「あいつらの鉄の肝臓や底なしの胃袋に付き合ったり何だり今日の為に頑張ってきたのに、ベッドで休むとか冗談じゃない。お前と一緒にいる」
「わかりましたから、マサキ。ほら、手を離して。水だけでも飲みましょう。大丈夫ですよ。お腹に物を入れずに飲んだのが悪かったのでしょう。水を飲んでアルコールを排出すれば、直ぐに酔いは覚めますよ」
「飲ませてくれるなら飲む」
「飲ませていいの?」
「いい。っていうかそうじゃなきゃ、やだ」
酔ってますね。と、呟いたシュウが腰に回されたマサキの手をやんわりと引き剥がす。「だったら少しの間でいいですから、身体を起こして」何はなくとも水を飲まないことには始まらない。酔って自制心が失われている状態にしても、そのぐらいの判断力はマサキにも残っている。背中に差し入れられたシュウの手に支えられながら、マサキは上半身を起こした。
眩暈。くらくらと。
回り始めた世界にマサキはぐったりとシュウの胸に身体を預けた。そして、どうかするとソファに伏せてしまいそうになる身体を、シュウの腕一本を頼りにそこに留める。
浮かれ騒ぐ心のままに一気に飲んでしまったグリューワイン。マサキがこうして堂々とシュウに甘えていられるのはそのワインのお陰であったけれども、まさかここまで悪酔いするとはマサキ自身も思ってもいなかっただけに、嬉しさ半分、悔しさ半分。「ほら、飲んで」もう少しゆっくり味わいながら飲んで、気分良く酔えばよかった……早くも後悔し始めているマサキの本心をわかっているのかいないのか、テーブルの上。コップに注がれた水をを取ったシュウが、それをマサキの口元に近付けてくる。
「やだ……」マサキは首を振った。
「飲ませてと云ったのはあなたですよ、マサキ」
「口移しがいい」
「口移しだったら飲むの?」
「そうじゃなきゃ飲まない」
酔ってますね。再び呟いたシュウが苦笑しながら、コップの水を口に含む。少しして、開いたマサキの口唇にシュウの口唇が重なった。温くなった水が少しずつ流し込まれる。飲み込んでは次、また飲み込んでは次と、マサキはシュウに与えられるがままその口付けを受けた。
とはいえ、先ずは水を飲ませなければという意識があるからだろう。いつものようにシュウはマサキの舌を深く追い求めたりはせず、ただ口移しで水を飲ませるだけに止めてくる。そのあっさりと離れる口唇が、マサキには寂しく感じられて仕方がない。
「……それだけかよ。いつもだったらこれ幸いとあれもこれもしてくるクセして」
マサキは口移しでコップ一杯の水を飲みきると、シュウのそのつれない口付けに覚えた物足りなさを吐き出した。「水を飲むのが先ですよ、マサキ」それに対して、シュウは小さな子供の我侭を窘めるように云うと、マサキを抱えたままテーブルにコップを置く。
「もう一杯飲みますか?」水を注ぎながら言葉を継ぐ。
「要らない……」
腕をシュウの首周りに絡めて、マサキはシュウの口唇に口唇を重ねた。回りゆく世界。その中で瞼を閉じて、ただシュウの温もりだけを感じる。絡めて、吸って、舐めて。シュウの口唇の合間に舌を差し入れたマサキは、気の向くまま。
けれども、そんなマサキの態度をシュウは酔っ払いの気紛れと感じたのだろう。時々、その舌の動きに軽く応じてみせるものの、そこに付け込んでマサキを奪うような真似はしてこない。
物足りなさを感じるなんてものじゃない! マサキは消化不良のまま口唇を離した。
「何だよ、お前。気のない態度しやがって……俺をただの酔っ払いだと思ってるんじゃないだろうな」
「それはそうでしょう、マサキ。酔っているのは事実ですよ」
「心配になるじゃねえかよ。俺、お前の気に障るようなことをしたんじゃないかって」
「そうではないのですよ、マサキ。あまり無防備になられるとね。あなたが他人との酒席でどう振舞っているのかが心配で仕方がなくなる」
「他人の前でこんな姿を晒すかよ。酔ったらお前のことを考えるのに」
賑やかな操者たちとの酒席の輪の中にいて酒が進むと、人恋しさが顔を覗かせてくることがままある。そんなときのマサキは酔いに任せて寝たふりをしてしまうのが常だった。人恋しさを酒で紛らわせても、気分が晴れた気になるのは一瞬のこと。何度も重ねた酒席で、マサキはそのことに気付いてしまったのだ。
だから寝たふりをするようになった。寝たふりをしながら、いつかのシュウとの思い出に思いを馳せる。日常生活の狭間に訪れる非日常が、これからも続くものあることを確認するように。そうして、気持ちが落ち着いてきたところで、マサキはシュウとの未来をどういったものにするのかを考えるのだ。
「本当に? 何か隠したいことでもあるのではないの、マサキ」
「何でそうなるんだよ。お前に隠したくなるようなことが、俺にある筈ないだろ」
「日頃、捻《ひね》た態度を取ってばかりのあなたに云われて、これ以上怖い台詞もないでしょうに」
シュウは気付いていないのかも知れない。マサキなりに夢見ているシュウとの未来があることを。だからマサキの発言を酔っ払いの戯言と受け止めてしまうのだ。小さく声を上げて笑いながらも、どこか信じきっていない様子でマサキの発言を茶化してくるシュウにマサキは思う。
口ではああだこうだと云ってみせても、それは照れがさせること。好きでなければ、同じ時間を共有しようとは思えないのだ。それに、酔っているからこそ云える台詞や取れる態度もある。だというのに! 普段の自分の態度の結果とはいえ、シュウからの信用のなさがマサキには悔しくて仕方がない。仕方がないものだから、何としてでもそれが事実であることを信じさせたくて堪らなくなる。
「捻《ひね》た態度だからって、お前のやることを本気で嫌がったことはないだろ。わかれよ、そのぐらい。酒を飲むと人恋しくなるんだよ。なるからお前のことを考える。この間に会った時はこんなことを話したな、とか、次はいつ会えるんだろうな、とか。お前はそういう風に俺のことを考えたりしないのかよ」
「考えますよ。日常のふとした瞬間にね。でもあなたは私が思うほどには、私のことを考えてくれているとは思えないものですから」
「そういうことを云うと、泣くぞ」
酔ってますね。三度、シュウが呟く。「絡む酒になるなんて珍しい」そう続けると、少しだけ身を屈めて、マサキの目尻に口を付けてきた。そのまま、差し出されたシュウの舌がマサキの眼を舐めてくる。酔って感情的になっているのだろうか? マサキはシュウの行為に、自分でも思いがけず本当に泣きかけていることに気付いた。
その涙を全て舐めとるように眼に触れるシュウの舌。心地よい。このままずっとこうされていたい。けれども、滅多にない口付けは、マサキの涙が止まると同時に止んでしまった。
「それでもいいのですよ、私は。あんまりあなたにそういった可愛い態度を取られるとね。あちらに帰したくなくなってしまうでしょう?」
「だったらそうしろよ。俺、今回はちゃんとセニアに許可取ったからな。クリスマスから年末まで休みたいって。その方が、何の気兼ねもしないで過ごせるだろ? その為に頑張ってあいつらと付き合ってきたし、任務だってこなしてきたって話したよな」
やっぱり物足りない。これだけ近い距離にいながらも感じずにいられない心細さ。今年一年のマサキの苦労を吹き飛ばすには、このぐらいの口付けでは足りないのだ。
幸い、時間の経過とコップ一杯の水のお陰か、マサキを困らせていた酷い眩暈はなりを潜めつつある。動けるのなら、こうだ。背中を支えているシュウの手から身体を離すと、マサキはシュウに抱きついた。自制が効かない状態なのはわかっている。でも甘えたい。どうしようもないぐらいに甘やかされたい。「やろうぜ、シュウ」シュウの耳を口唇で喰みながら、マサキは云った。
「本当に」そっとマサキの背中に回されたシュウの腕に、次の瞬間、力が込められる。「怖いぐらいに可愛いことを云ってくれる。このままあなたをベッドに連れ込んで、滅茶苦茶になるまで犯したいくらいだ」
「何でそうしないんだよ。お前、何か今日変だぞ」
「あなたも相当ですけどね」
「当たり前だろ。俺が今日の為にどれだけ頑張ったと思ってるんだよ。一年だぞ、一年。一年も頑張ったんだ。ご褒美ぐらいくれたっていいじゃねえかよ。もう、ベッドだろうがソファだろうがどこだっていい。俺はお前とやりたい」
「まだ食事も済ませていないのに? あなたはワインを一杯飲んだだけですよ、マサキ。楽しみにしていたクリスマスなのでしょう。それに付き合うつもりでいた私の決心を揺らがせないでくれませんか」
そこでようやく、マサキはシュウのつれない態度の意味を理解したのだ。
偶然、シュウと出会《でくわ》してしまった去年のクリスマス。そのときに、今年のクリスマスの約束をシュウから勝ち取ったマサキはこう云った。「一日中、てめえの欲望に付き合わされるだけのクリスマスなんて御免だからな」と。そう。あのときのマサキは、魔装機操者たちとのパーティのように、食事と酒と会話を楽しむシュウとのクリスマスを夢見ていた。
一年前のそのマサキの言葉をシュウは覚えていたのだ。でなければどうしてここまで、不自然にマサキの明け透けな誘いを断るような真似をしてみせるだろう。
でも。マサキは力いっぱいシュウにしがみついた。グラス一杯のグリューワイン。そうでなくとも人恋しさが増す酒。目の前にその対象が存在していて、自らの欲望に忠実にならない理由はどこにもない。
念の為に長めに取ったクリスマス休暇だってそう。食事のあとの行為を期待していたからこそ、マサキは年末までの休暇をセニアに願ったのだ。だったら、順序が違ってしまうくらいは些細なこと。
「いくら何でも丸一日もベッドには隠《こも》れないだろ」
「体力が続くならそうしたいぐらいですけれども、それは流石に」
「だったらベッドに連れて行けよ。食事は後でも出来るんだから」
「我侭な人だ」マサキを抱えてシュウがソファから立ち上がる。「私の好きにしてもいいの、マサキ?」
「可愛がってくれるなら」
「当然でしょう」
シュウに運ばれて寝室に入る。「ほら、マサキ。降りて」ベッドに身体を横たえられたマサキは、シュウの首周りに回した手を自分の方へと引き寄せる。引き寄せて口付けた。
軋むベッド。身体の上にのしかかってくるシュウの重みと口付けに応えてくる舌に、自分の欲しかったクリスマスプレゼントはこれだったのだとマサキは思った。
「まだするの、マサキ?」
「もう、いい……」
夕暮れまでベッドの中でシュウと過ごしたマサキの酔いはとうに醒めてしまっていた。途中からやけに冴え冴えとし始めた意識は、マサキに自身が取ってしまった態度をかなり後悔させてしまっていたけれども、それを今更口にしてみたところで時間が巻き戻る訳でもない。
それでもどうしようもない気恥ずかしさ。シュウと顔を会わせ難いマサキはブランケットに包まって顔を隠す。ただ流されるがままに性行為《セックス》に及ばないと誓ったクリスマスだったのに、自分から求めてしまった。それもかなり激しく。
クリスマスの食事が後に控えているとはいえ、これでは結局それが目的だったと思われても仕方がない。それがマサキを気まずくさせる。
「どうしたの、マサキ。食事にしないの?」
先にベッドから出て服を着ているシュウがブランケットを捲って、マサキの顔を覗き込んでくる。「いや、俺、その、去年自分で云ったのに……」もう恥ずかしいなんてもんじゃない! マサキはシュウから顔を背けるとベッドに伏せた。
「休暇を取った分、時間がたっぷりあるのでしょう。だったらこれからクリスマスらしく過ごせばいい。そろそろ使い魔たちも帰ってきます。きっと、賑やかなクリスマスになりますよ、マサキ」
「お前に滅茶苦茶絡んじまった」
「酔えばそんなものですよ。あなたの可愛い姿が見れたのみならず、あなたがどれだけ今日の為に頑張ってきたのかもわかりましたし、グリューワインには感謝しないとなりませんね」
「それも恥ずかしいって云ってるんだよ。云わないつもりだったのに」
ほら。笑いながらシュウがマサキの腕を取る。「服を着せましょうか。それとも自分で着ますか」やけに寛容なシュウの態度は、きっとマサキが見せてしまった醜態の数々の所為なのだ。どこか上機嫌に聞こえる声の調子に、――この上、恥の上塗りなんて冗談じゃない。マサキはベッドの足元に散らばっている服を拾い上げて着替えると、シュウの顔をなるべく見ないで済むように後ろを付いて歩きながらリビングに戻った。
「子供の頃の不思議な記憶があるのですよ」
ソファに並んで座って少しの間。気恥ずかしさがマサキに再度の酒に手を伸ばさせる。グラスに注ぎ直したグリューワイン。ゆっくりと口を付けているとシュウが云った。
「丁度、今の年齢ぐらいのあなたとクリスマスに会った記憶が」
「どうやって会うんだよ。ラ・ギアスの練金学で時間旅行《タイムトラベル》は出来ないだろ?」
「そう。だからずっと記憶違いだと思っていたのですけどね」
テーブルの上にずらっと並んだ料理をシュウが見渡した。中央にローストビーフとチキン。その脇にフィッシュ&チップスとフライドポテトが並ぶ。手前にはサラダ、そしてクラッカーチーズ。テーブルの端の方にシュトーレン、ジンジャークッキー、クグロフ、バニレキプルファン。そしてグリューワイン。
打ち合わせもせずにめいめい揃えた料理は、いくつかは被ってしまっていた。去年シュウにクリスマス菓子だと教わって買ったクグロフとバニレキプルファンもそうだ。ふたりでは食べきれない量になるからと、日持ちするものを優先して買ったのが災いしたのだ。その三日月型のクッキーにシュウの手が伸びる。
「クグロフとバニレキプルファン。私に教わったと云ったのですよ、あなたは。グリューワインもそう。記憶の中のあなたが教えてくれたもの。シロップ入りのワインだったら飲めるだろうと私に勧めてきて、一緒に飲みながら、私と初めてふたりで過ごした今年のクリスマスで酷い酔い方をしてしまったと云っていましたっけ」
マサキの口元に差し出されるバニレキプルファン。「自分で食えよ」云いながら、マサキはクッキーの端っこを咥えた。咥えて口の中に落とし込む。甘い。噛み砕いて飲み込むと、それを待っていたかのようにシュウが口を開く。
「多分、この後、あなたは過去の私に会いに行くのでしょうね」
「でも、どうやって。練金学で無理なのに」
「ラ・ギアスは神や精霊が実在する世界ですよ。彼らが恵みを与えるこの世界だったら、どんな奇跡だって起こり得るのでしょう」
そしてシュウは手元のグラスに口を付けた。「でも、だからこそ私は怖かったのですよ、マサキ。あなたと過ごすクリスマスが」ワインを一口飲んで、グラスに視線を落とす。
「私たちの進む未来が決まっているなどと思いたくはないでしょう。未来は自らの手で切り拓《ひら》くもの。それすら運命に操られてのことだったとしたら、私は運命の女神を倒さなければ気が済まない」
「だったら、俺が過去に行かなきゃいいだけの話じゃないのか」
「いいのですよ、マサキ。自分の未来にあなたがいる。それを楽しみにしていた時期が、かつての私にはあった。矛盾《パラドックス》で消してしまうには惜しい記憶です。だからこそ、あなたには過去に行って欲しい。行って、当時の私に伝えて欲しいのですよ。この幸福な未来の為に運命を決して諦めるな、とね」
少しの沈黙。コンコン。物音が鳴った。リビングの窓をチカが啄《つつ》いている。「ああ、帰ってきたようですね」ソファを離れたシュウが窓を開てやると、その隙間から二匹と一羽の使い魔たちが一斉に飛び込んできた。
「あらあら、料理が思ったより減っていないなということは、あたくしたちが気を遣って外に出たのは正解だったということでございますね、ご主人様。そしてマサキさん。残念ながら、お邪魔虫たちのご帰還にございますですよ――……」
帰ってくるなりわあわあ煩い使い魔たち。「やっぱり猫としてはここニャのね」シロとクロがテレビの脇に飾られている小ぶりのクリスマスツリーの側に居場所を定める。「本当に爛れたクリスマスパーティですこと!」続いてその頂点で輝く星飾りの上に、チカがちょこんと止まった。ここからは彼らともともに過ごすクリスマスになるのだ。「喧《やかま》しいクリスマスになりそうだ」チカの終わらないお喋りにマサキはぽつりと呟いた。
沈黙のあとだけに、有り難くも感じられれば、ふたりきりの時間が終わってしまう寂しさもある。
それでも初めてのクリスマス。シュウの独り家で何の気兼ねもせずに過ごせるかけがえのないクリスマス。先のことは先のこと。過去に行く方法はあとで考えるとして、今はこの大切な時間を惜しみなく愉しもう。マサキはグリューワインに口を付けて、そこでようやくシュウを見て笑った。
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